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昔の出来事その3

 クリムが生まれて以来、モンブランは以前より早く依頼を終えて家に帰るようにしている。愛する妻と子が待っているからだ。生まれてから日に日に成長していく娘を見るのが、モンブランの楽しみになった。そして、クリムが生まれてから約一年が経とうとしていた。


「じゃ、今日は先に帰るから。じゃーねー‼」


 この日もモンブランは報酬を受け取り、風のようなスピードで帰って行った。


「あれからあいつ変わったよな」


「しゃーねーさ、子供が生まれたからな」


「本来はずっとそばにいたいって言ってたけど、まぁ仕事があるからね」


 ティラは報酬を受け取り、部屋に戻ろうとしていた。その時、ギルドの役員が慌てて駆け寄ってきた。


「あの、モンブランさんはどこへ行きましたか?」


「帰ったよ。ホイップさんとクリムがいるからさ」


「どうしましょう……明日の依頼、かなり難しいから話をしようとしていたのですが……」


 この言葉を聞いたティラは、役員が持つ紙を見せて欲しいと頼んだ。役員から紙を受け取り、ティラは苦い顔になった。


「うっわー、火竜の撃退か。めんどい依頼が入ったねー」


「物理攻撃よりも魔法攻撃で攻めた方が楽なので、モンブランさんに頼もうと思ったのですが……」


「今から行ってくるよ。家にいると思うし」


「ごめんねティラちゃん」


「いいってことですよ」


 会話後、ティラは紙を持ってモンブランの元へ向かった。事情を聞き、モンブランは紙を見ながら呟いた。


「これは長期の依頼になりそうだな……」


「火竜の撃退ね、どうするの?」


「私ではないと多分攻略できない依頼だ。他の者が行ったら、確実にやられる」


 モンブランはティラに近付き、こう言った。


「明日、この依頼を受ける。ホイップ、長い依頼になりそうだが、待っててくれるか?」


「無理です」


 ホイップの返事を聞き、ティラとモンブランはずっこけた。


「ここは待つんじゃないんですか?」


「何かあったら嫌ですもの。私も行きます」


「ええええええええええええええええ!?」


 ティラが叫び声を発した直後、クリムが目を覚まして泣き始めた。


「ああ、ごめんごめん」


 ティラはクリムに近付き、あやし始めた。ティラが相手をしているせいか、クリムはまた眠ってしまった。


「手慣れてるわね」


「シュウの時に手を焼いたからね」


 こう言った後、ティラはホイップに近付いた。


「本気で行くんですか?」


「ええ。私達夫婦で行けば、手っ取り早く終わるでしょ」


「だけど、クリムの面倒は誰が見るんですか?」


「それは……」


 ホイップはティラの肩を叩き、さわやかな笑顔でこう言った。


「お願いね。愛する旦那を守りたいの」


「う……うう……」


 これ以上何を言ってもホイップはいう事を聞かないだろう。そう察したティラは渋々とクリムの子守を承諾した。


「依頼が終わったら、早く帰ってきてくださいよ」


「分かってるって」


「じゃ、明日は頼む」


 と言って、二人は明日の準備を始めた。




 翌日、モンブランとホイップは依頼者の車に乗り込み、他の戦士達ともに去って行った。その様子を、シュウを連れてクリムを背負ったティラが見ていた。


「無事に帰ってくればいいけどなー」


「ねー、どこか行っちゃうの?」


 シュウがティラの服の裾を引っ張り、こう聞いた。


「仕事だよ。すぐに終わって帰ってくると思うけどね」


 と、ティラは答えると、家に帰ると告げた。




 依頼場所であるアチーヨ山。その頂上に撃退ターゲットである火竜、ドドクサドラゴンがいた。モンブランとホイップは水属性の魔法を巧みに使い、何とかドドクサドラゴンを撃退することに成功していた。


「楽な依頼だったわね」


「だな。早く帰ってクリムに会いたいよ」


 二人が会話をしていると、後ろにいた戦士が大声を上げた。


「二人とも‼ 後ろ、後ろ‼」


「ん?」


 後ろを振り向くと、そこには先ほど撃退したドドクサドラゴンと、大量の仲間が飛んで来ていた。


「あいつ……仲間を呼んだのか‼」


「こうなったら、徹底的にやりましょう‼」


 二人は魔力を開放し、ドドクサドラゴンの群れと戦い始めた。戦いは二人の有利で進んでいた。魔法を喰らったドドクサドラゴンは、次々と地面へ落ちて行った。しかし、徐々に二人の中にある魔力は減って行き、底尽きそうになっていた。


「はぁ……はぁ……これだけやってもまだ減らない……」


「まだいるのかしら……」


 周りを見ると、先ほどよりも倍の数のドドクサドラゴンがいた。


「仲間の悲鳴を聞きつけて飛んできたんだな」


「二人とも……ググッ……」


 一緒に戦ってきた戦士は、大きな傷を受けていた。ホイップはその戦士の様子を見て、こう言った。


「あなただけでも逃げなさい」


「でも……」


「いい? 逃げるというのも作戦の一つよ、確か山の入口に別の小さなギルドがあったでしょ。そこの戦士達にこの状況を伝えて一緒に戦って」


「二人はどうするんですか?」


「最後の最後まで戦うさ。ここで逃げたら、この辺りが奴らの炎で灰になってしまうからな」


 モンブランはそう言うと、体内の全魔力を絞るように発した。ホイップもそれに合わせ、体内の全魔力を解放した。


「ここは私達で抑える。早く逃げろ‼」


「す……すみません……」


 戦士は振り返り、涙を流しながら逃げ始めた。二人は戦士が逃げたのを確認し、戦い始めた。その中で、モンブランは心の中でこう思っていた。


 すまないクリム。ずっとお前の傍にいれなくて。

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