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昔の出来事その2

 ティラがシュウを拾って二年が経過した。ギルドの戦士や役員がシュウの情報を集めるためにいろいろやっているが、身元が分かるような物は一切なかったため、情報が集まる事はなかった。


「今日もまた収穫なしなのね」


 ティラはシュウをあやしながらこう言った。ティラに話をしている戦士はすまんと言い、頭を下げた。


「あんたが気にしなくていいんだよ。すぐにわかると思ったけどねー」


 と、ティラは机の引き出しからある物を取り出した。


「何だそれ?」


「この子の親の遺品だよ。遺体を回収した時にポケットの中にあったって」


「ペンダントか。土産物のオルゴールペンダント。安物だがしゃれたものを持ってるな」


「安物の土産物だよ。これにも情報はなかった」


 その時、シュウが大声で泣き始めた。ティラが様子を見ると、シュウは転んでいた。


「おいおい、狭い部屋の中で暴れるなって。だから転んだんだろうが」


「ふぇ~ん、痛いよ~」


「この位なんともないよ。さ、絆創膏つけるからじっとしてな」


 その様子を見ていた戦士は、少し笑いながらティラにこう言った。


「なんだか本当のお母さんのようだな」


「冗談でもそう言う事は言うな‼ ったく、これでもまだピッチピチの17歳だよ私は」


 冗談を聞いたティラはブツブツと文句を言いながら、絆創膏の用意を続けていた。そんな中、救急車のサイレンが鳴り始めた。


「あ‼ ぴーぽーだ‼」


「ぴーぽーじゃないよ。あれは救急車だよ。でも何かあったんか?」


 しばらくすると、別の戦士がティラとシュウの部屋に入ってきて、こう言った。


「大変だ‼ ホイップさんが倒れたらしいぞ‼」


「マジで!? シュウ、私に付いて来な」


「はーい」


 話を聞いたティラは、シュウを連れて急いでモンブランの元へ向かって行った。ティラ達が到着した時には、すでに救急車は去って行った。その場にモンブランもいなかったため、ティラは近くにいた人に事情を聞き始めた。


「何かあったんですか?」


「ホイップさん、生まれそうなのよ」


「は?」


「もう少しでお子さんが生まれるのよ。モンブランさんはかなり慌てたけどね」


 話を聞き、ティラはへなへなとその場に座り込んだ。


「何だ……生まれそうなのか……何かあったから不安だったけど……よかったようなそうでもないような……」


「ま、めでたい事だ。しばらくした俺達も行こう」


 その後、ティラ達は情報が来るまで、一旦ギルドに戻ることにした。




 病院内。モンブランは青ざめた表情で貧乏ゆすりをしていた。緊張のせいで、歯もがちがちとならしていた。


「大丈夫かな? 大丈夫かな? 大丈夫かな? 大丈夫かな? 大丈夫かな? 大丈夫かな? 不安だ不安だ不安だ不安だ不安だ不安だ不安だ……」


「あんたが緊張してどうすんのよ」


 シュウを連れたティラがこう言って、モンブランの所にやってきた。モンブランは立ち上がり、ティラに近付いた。


「ティラちゃん。来てくれたんだね」


「様子を見に来たんだよ。後で皆も来るって」


「そうか……ありがたい。不安で心が押しつぶされそうだったんだ」


 モンブランは近くの椅子に座り、手術が終わるのを待った。ティラはシュウをあやしながら、モンブランに話をした。


「あれからどのくらい経ったの?」


「二時間程だ」


「へー、二時間か。結構大変なんだね」


「君もいずれ経験すると思うよ」


「私が? 出産? 私の好みの男が現ればいいんだけどね~」


「そうか、君は男の好みに関してはうるさい方だったんだね」


「あまりそういう事言わんでもらいます?」


「よー、大変だなモンブラン」


 会話の中、ギルドの戦士達が続々とやってきた。モンブランは立ち上がり、来てくれてありがとうと一言と共に頭を下げた。


「めでたいな。名前は決めたのか?」


「男の子だったらチコ。女の子だったらクリムって決めてるんだ」


「へー、もう考えていたのか」


「うん。新婚当時から考えていたんだ」


 と、モンブランは照れながらこう言った。


「もうやるってことは決めてたんだな」


「いよっ、この色男」


「うるさいよ野郎ども。静かにしなよ。シュウが起きるだろうが」


 と、ティラは眠っているシュウをおんぶしながらこう言った。その直後、手術中のランプが消えた。それと同時に、赤ちゃんの泣き声も聞こえた。


「手術が終わった……」


「無事に……生まれたんだな……」


 モンブランは扉の前に移動し、開くのを待った。しばらくして、手術を担当した先生が現れた。


「おめでとうございます。元気な女の子です」


「そうですか……ありがとうございます……ありがとうございます‼」


 モンブランは泣きながら、その場に崩れて何度も担当した先生にお礼を言った。




 その後、ギルドに戻った戦士達は、モンブランを祝うために盛大に宴を始めた。が、ティラは部屋に戻ってシュウをベッドに移していた。


「今日はおめでたいってのに、シュウの奴は相変わらずマイペースだねぇ」


 そう言いながら、眠るシュウの髪を整え、ティラは銃の整備を始めた。しばらくし、ティラはモンブランとホイップの子供の事を考えた。


「クリム……か。いい名前だね」


 そう呟きながら、整備を続けた。

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