昔の出来事
コンリを捕らえた後、ラック達はハリアの村に戻るために車に乗り込んだ。しばらくコンリの文句を聞き流しているうちに、ティラは大きな欠伸をした。
「眠いんですか?」
「ちょっとね。昨日夜に飲んだからかなー」
ティラは目ヤニを取りながら、シュガーにこう言った。話を聞いていたラックがティラの方に振り向き、口を開いた。
「少し寝ててもいいですよ。あの人の相手は僕がしますので」
「そんじゃ頼む。お休み~」
そう言うと、ティラはすぐに眠り始めた。
17年前。ハリアの村離れの山道にて。
「あーあ、薬草取りなんてめんどくせーの」
当時15歳のティラが欠伸をしながら歩いていた。同行者の戦士が「仕方ないだろ、依頼なんだから」となだめながら歩いていた。そんな中、彼らは煙が発しているのを見つけた。
「何かあったかもしれない。行くぞ」
「ああ」
会話後、ティラは銃を持って煙が上がる現場へ向かった。そこには横転した車と、武装した男達がいた。その近くには、血まみれで倒れている女性がいた。
「お前ら‼ 何やってんだ!?」
戦士は武器を持って盗賊団を奇襲し、倒していった。ティラは倒れた女性に近付き、容体を調べていた。
「大丈夫か? しっかりしろ‼」
ティラは何度も声をかけているが、女性は虚ろな目で何かを探していた。すると、赤ちゃんの泣き声が聞こえた。
「シュウ……シュウは……どこ……」
この言葉を聞き、ティラはすぐにシュウというのが赤ちゃんの事だと理解し、すぐにシュウと呼ばれた赤ちゃんを抱きかかえて女性の元へ戻った。
「シュウ……無事で……よか……た……」
「おい。しっかりしろ、死ぬんじゃない‼ この子の為にも生きろよ‼」
ティラは何度も女性に向かって叫んだが、その声は届かなかった。
「盗賊は始末したが……そっちは……」
戦士はティラに近付き、息絶えた女性を見て肩を落とした。
数分後、ティラ達はハリアの村の別の戦士達を呼び、事故の事を調べてくれと頼んだ。結果、近くの盗賊団が丁度通りかかった旅行中の女性達を襲ったという結末にたどり着いた。だが、すでに女性達の身元になるような物は全て取られてしまった後なので、その女性達がどこの人で、何者なのかは分からずじまいだった。ただ、分かったのは女性の子供の名前がシュウであるという事だ。
ギルドに戻ったティラは、赤ちゃんを抱えて部屋に戻った。
「ったく、どーすりゃーいいんだよこの子」
ティラは唸りながら考えた。子供の世話なんてしたことはなかったのだ。とりあえずギルドの誰かに相談しようと思い、ティラはシュウを背負って下の階へ向かった。
「おお‼ その姿似合うぜティラ母ちゃん‼」
シュウを背負ったティラを見て、ギルドの戦士達が冗談でティラの事を母ちゃんと呼び始めた。
「黙れこの野郎‼ それよりか、この中で子育ての経験者いない? 誰か手伝ってよ。今日の騒ぎの時に拾ったんだよ」
「なら、私がしよう」
「モンブランさん」
ティラに近付いたのは、魔法使いのモンブランである。彼は慣れた手つきでシュウをあやし、そのおかげでシュウはぐっすりと眠った。
「流石新婚さん」
「ははは。子供が出来た時に学んでたんだよ」
モンブランは笑いながらシュウをティラの元へ戻し、外に出ようとした。
「帰るんですか?」
「ああ。今日ホイップは家で休んでるから」
と言って、妻のホイップが待つ家へ戻って行った。ティラはその後ろ姿を見て、ぽつりと呟いた。
「私もああいう旦那が欲しいなー」
「ティラみたいな上等なガンナーと張り合える旦那がいると思わんが」
後ろから聞こえた言葉を耳にし、ティラは腰の銃を持って発砲し始めた。
モンブランの妻、ホイップはリビングで何かを書いていた。
「あれでもない、こーでもない……うーん……何も浮かばない。名前を考えるのってこんなに難しいのね」
「只今」
「モンブラン‼」
ホイップはすぐに立ち上がってモンブランの元へ向かった。
「お帰りなさい‼ お風呂にする? 食事にする? それとも寝る?」
「食事にするよ。話したい出来事がさっき起きたんだ」
「何かあったんですか?」
その後、モンブランはホイップの料理を食べながら先ほどの事を話した。
「近くで強盗騒ぎがあったけど……まさか赤ちゃんがいたなんてね」
「ティラちゃんが抱えてた時はびっくりしたけどね」
「名前はあるの?」
この質問を聞き、モンブランは動きが固まった。
「明日聞いてみるよ」
「ええ。分かったわ」
「それより、何だいこの紙は?」
モンブランは床に落ちてあったメモ用紙を見て、ホイップに聞いた。ホイップはそれを片付けながら質問に答えていた。
「私達の子供が出来た時の為に名前を考えていたのよ」
「男の子と女の子で?」
「ええ。女の子の名前はすぐに閃いたけど。男の子だった時の名前が浮かばなくて」
「女の子の名前? どんな名前なんだい?」
興味を持ったモンブランは、目を輝かせながらこう聞いた。
「かわいらしい名前だから、きっとあなたも気にいるわ」
「早く教えてくれよ」
「ええ。女の子だった時の名前は……クリム。なかなかいい名前でしょ」
「ああ。すごくかわいらしいよ」
と、モンブランは笑顔でこう答えた。