守るための戦い
車内に戻ったコンリは、運転手に何度も叫び声をあげていた。
「早く逃げろ‼ こんな所にいたら殺されてしまう‼」
「知ってますよ。だけど、この中を車でつっきろって言うんですか?」
目の前には、騒動が起きたせいで駅から逃げる車や人の群れが出来ていて、渋滞が発生してしまった。周りを見ると、他の候補者も慌てて逃げていた。
「ぐぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……構わん‼ つっきろ‼」
「えー? 無茶言わんでくださいよ。事故が発生しますって」
「構わんと言っとるだろうが。私一人が逃げ切り、残りの連中が騒動に巻き込まれて消えれば、私の当選は確実だ」
「うわー、酷い事を言いますねー」
「だから早く逃げるんだ」
「……止めときますわ。事故起こして地獄を見るよりか、ここにいた方が安全だと思いますし」
運転手はそう言って、タバコを吸い始めた。態度にイラついたコンリは自分で逃げると叫び、そのまま走って逃げて行った。運転手は逃げるコンリを見て、死なないでくださいよーと呟いた。
その頃、タルトは目の前にいるスナイパーと睨み合いをしていた。しばらくすると、ナフが車に乗り込む姿が見えた。
「ここは任せるぜダバズ。何とか時間稼ぎをしてくれよ」
「了承」
ダバズと言われたスナイパーは、返事をして再びタルトの方を睨んだ。
「ここで奴を逃がしてはいけない。クリムちゃん、リナサ、あいつの相手は私がやる。リーダーを追ってくれ」
「はい」
「タルトさん、死なないでね」
二人は返事をして戻ろうとしたが、ダバズがライフルを二人に向けた。が、タルトがその前に移動し、剣から衝撃波を放った。
「む!?」
飛んでくる衝撃波に対し、ダバズは上にジャンプして回避した。だが、その隙に二人は去ってしまった。
「逃してしまったか……」
地面に着地し、とりあえずタルトだけでも倒そうと思ったのだが、タルトの姿も消えていた。
「……察知」
ダバズは後ろを振り向き、その動作中に拳銃を取り出して発砲した。その後ろには、タルトがいたのだ。
「勘のいいスナイパーだな。シュウと同じくらいか……それ以下か」
小さく呟くと、タルトは身を隠しながらダバズに近付こうとした。しかし、ダバズもタルトの気配を察しているのか、身を隠しながらタルトから離れて行った。
このまま奴の相手をしている暇はない。
タルトは心の中でこう思っていた。団員のほとんどは倒したのだが、まだ強い奴がいるだろうとタルトは思っている。今戦っているダバズもそのうちの一人だとも思っている。
先ほどのロケットランチャーの爆発で、コンリ達はどこかへ逃げてしまった。そのままほっておくとコンリが危険なため、早く倒す必要があったのだ。
「しょうがない……本気を出すか」
その後、タルトは魔力を解放した。この動きを見て、ダバズは驚きながらこう思った。
魔力を開放して戦うなど、自分の気配をばらして戦うようなもの。一体どうして?
驚きで怯んでいる時、タルトの姿が再び消えた。ダバズは察した。魔力を使って全身の運動神経を向上させ、猛スピードで移動していると。
「どこから来る? あいつはどうやって来るんだ……」
恐怖のあまり、独り言を呟きながらダバズは周りを見た。足音が聞こえるが、タルトの姿は見えない。目に見えないほどのスピードで移動していることをダバズは理解した。
「こんなの……分かるわけがねぇ……」
「なら、降参するか?」
背後からタルトの声が聞こえた。耳元で聞こえたため、ダバズはすぐ近くにいると判断した。が、その判断までの反応が遅かった。
「クソが‼」
「甘い」
タルトの言葉の直後、目の前にタルトの姿が現れた。
「守る者がいるからな……君みたいなのに構ってられないんだよ」
そう言って、タルトは走って去って行った。ダバズは追いかけようとしたのだが、背中から激痛を感じた後、意識が途切れた。
シュウは望遠鏡でコンリが車から降りて逃げるのを目撃し、走ってそこまで移動していた。
「ったくあの野郎‼ 命狙われてるってことが分かんねーのか!?」
文句を言いつつも、シュウは急いで走っていた。その前に、ライフブレイカーの車が現れた。
「君がロケランを打ち抜いたガンマンだね」
窓から団員が顔を出し、シュウにこう言った。
「文句あるのか? じゃあ、テメーにも撃ってやろうか?」
「いやいいよ。君はここで死ぬから銃は使えないだろうしね‼」
その直後、団員がロケットランチャーを構え、シュウに向けて放った。放たれた瞬間、シュウは慌ててジャンプしてロケットを回避し、銃を構えて発砲した。シュウが撃った弾丸は車のタイヤに命中していた。
「パンクだと?」
「くっそ‼ あのガキ、タイヤを撃ちやがった‼」
「まずい、ハンドルが効かない‼」
団員達の悲鳴が聞こえる中、車は派手にスピンしながら、周りのライフブレイカーの車を巻き込んだ。
「大事故だな」
シュウはそう呟き、倒れている団員を踏み台にし、高く飛び上がった。
「いたいた」
シュウが目にしたのは、慌てて逃げているコンリの姿だった。そして、その近くに別のライフブレイカーの車が近付こうとしていた。
「まずい……」
「せんぱーい‼」
後ろからクリムの声が聞こえた。飛んできたクリムはそのままリナサと共に抱き着き、そのままシュウと共に飛んで行った。
「このままあのロリコン爺の所へ行きます」
「ああ、頼んだぜ‼」
「はい‼」
活きの良い返事をした後、クリムは魔力を増やして飛行スピードを上げた。