帰ってきた幼なじみ
この世界、ユニティーズは魔法と科学が存在している世界である。だが、どんなものがあっても、悪意を持った人間がいる限り犯罪というのは消えはしない。そして、悪意を持った人間よりも、目に映ったものを何でも襲う凶暴なモンスターもこの世界には存在している。
それらに対抗するために、警察組織であるギルドが発達した。危険な仕事なのだが、普通の仕事とは違って給料が多いため、腕に自信がある戦士や魔法使いなどが、この組織に入団していった。
とある辺境の村、一人の少女が何かを探しているのか、周りを見渡していた。
「クリム様、そろそろお時間です」
白い車からローブを羽織った男性が降りて、クリムと呼んだ少女へこう告げた。
「すみません、もう少し……もう少しだけ待ってください」
「……分かりました」
ローブを羽織った男性がこう言った直後、少女は何かを見つけた。彼女の視線の先には、右腕にギブスを巻き、固定させている少年がこちらへ向かってきている姿があった。周りの村人は、少年の姿を見てシュウと呼んだ。
「クリム! よかった……間に合ったよ……」
「先輩!」
クリムはシュウに近付き、抱きしめた。その時、右腕から痛みが全身に走ったのか、シュウは引きつった顔をした。
「ごめん……まだ……右腕が……」
「あ、ごめんなさい」
「はは、気にすんな。それより……もう行くのか?」
シュウがこう聞くと、クリムは小さな声でうんと言った。
「……約束だ。お前が賢者として戻ってきたら、一緒に戦おう。俺もお前が戻ってくるまで、いっぱい修行して強くなるから。お前を守れるくらい強くなるから」
「……はい。私も、今度は先輩を守れるくらいに強くなります! それまで……それまで待っていてください!」
「ああ、約束だ‼」
その後、少女は白い車に乗り込んだ。それからすぐ、車は村から去って行った。車の姿が見えなくなるまで、シュウはその場に立っていた。
それから10年の月日が経過した。
辺境の村、ハリアの近くの森の中、そこには大きな亀のモンスター、ギョメラが轟音を立てながら歩いていた。ギョメラは固い皮膚と甲羅を背負ったモンスターであり、何も細工をしていない剣などの武器で戦おうとしたら、すぐに壊れてしまう。固い皮膚と甲羅が相手では、銃弾も通らない。ただ、頭は他と比べ柔らかいので、戦いなれた者ならそこを狙う。しかし、ギョメラは凶暴なため、戦うにはかなり注意が必要である。
ギョメラから20メートルほど離れた岩場にて、一人の少年が身を隠しながら望遠鏡で様子を見ていた。
「先輩、目標を見つけました。場所はA地点とC地点の境目。俺には気付いていません」
顎の下のマイクを使い、彼は仲間に連絡をしていた。すると、彼が耳に付けているヘッドホンから通話の音が聞こえた。
『了解。俺らが到着するまで手を出すんじゃねーよ‼』
「予想外の事が発生したら、戦闘に入ります」
『はいはい。やばくなったら逃げろよ‼』
その後、通話が切れた。少年は移動しているギョメラに気付かれないよう、後ろから尾行をしていた。しばらくし、木が揺れる音が聞こえた。風は吹いていない。望遠鏡を覗き込むと、ギョメラの前に剣を持った男と、魔法の構えを取った女が姿を現した。
「くたばりな、亀のバケモン‼」
「焼き尽くしてあげるわ‼」
男の斬撃がギョメラの頭に命中した。ギョメラは獲物が来たと思い、大きな声を上げた。だが、その時に女の火の魔法が炸裂した。
「うっひゃー、相変わらずすげー魔法」
「だけど、まだ死んでないみたいよ、気を付けて!」
女がこう言った直後、甲羅にこもったギョメラが、回転しながら男に突進を仕掛けていた。
「殻にこもったのか!」
「ジャック!」
ジャックは攻撃をかわすため、高く飛び上がった。その時、ジャックは刃に魔力を込め、雷の刃を作っていた。
「一か八かだ、斬れてくれ‼」
ジャックは雷の刃を投げたのだが、ギョメラの甲羅は雷の刃を通さなかった。
「ったく、相変わらず固い甲羅だぜ。ミゼリー、何か手はないか?」
「頭が出ないとどうしようもないわね」
ミゼリーは氷の壁を作り、それを盾代わりにしてギョメラの攻撃を防御していた。そんな時、ミゼリーのヘッドホンに通話音が聞こえた。
「シュウ? どうかしたの!?」
『ミゼリーさん、そのまま防御をしててください。あいつが頭を出した時、ライフルで撃ちます』
「分かったわ。何とか耐えてみる」
その後、ミゼリーは歯を食いしばって魔力を氷の壁に注ぎ込んだ。魔力が注ぎ込まれ、氷の壁の防御力や厚さはさらに増した。
「お願い、止まれ!」
ミゼリーがこう言うと、ギョメラの回転は徐々に収まった。そして、甲羅からギョメラの頭が現れた。ミゼリーとジャックは後ろに下がり、シュウの攻撃を待った。それから数秒後、遠くの方から何かが風を切りながら飛んでくる音が聞こえた。
「シュウのライフル弾か?」
ジャックがこう言うと、ライフル弾はギョメラの頭を貫いた。弾丸を受けたギョメラは、悲鳴を上げることなく地面に倒れた。ジャックは恐る恐るギョメラに近付き、生死を確認した。
「相変わらずすげー腕してやがるぜ、シュウの奴」
この言葉を聞き、ギョメラを倒したことをミゼリーは察した。シュウは森の中から姿を現し、二人と合流した。
「やりましたか?」
「ああ。ほんとスゲーよお前は。たったライフル弾一発でこんなデカ物を討伐するんだからなー」
「さすが、我がギルドの名ガンナー」
「いや、俺はそこまで優秀なガンナーじゃないですよ……」
と、照れながらシュウはこう言った。
クリムと別れてから今までの間、シュウはずっと銃の訓練を行っていた。訓練を終えてギルドの戦士になった後、シュウはハリアのギルドで優秀なガンナーとして名が知れ渡ったのだ。
ギョメラ討伐後、シュウ達はハリアの村へ戻ってきた。
「お帰り、シュウ!」
「怪我はなかった?」
「あーずるーい!あんただけシュウに抱き着いて‼」
村へ戻ってきた瞬間、ギルドに所属している少女たちが一斉にシュウに近付いてきた。
「あ……ああ。ケガはないよ、大丈夫だから」
シュウは困った顔をしながら、ジャックに助け舟を頼んだ。だが、ジャックは嫌そうな顔をして去って行った。
「ったく、腕はいいし顔もいい。まぁ、戦いの腕は俺の方が上かもしれねーけど」
「全く、自分よりモテるからっていじけないの」
ジャックは自分よりモテモテなシュウを見て、羨ましそうにこう言った。そんなジャックを見て、ミゼリーはため息を吐いていた。そんな中、ミゼリーは村へ向かってきている白い車を見つけた。それを見て、ミゼリーは慌ててジャックにこう言った。
「あれ、チュエールの車じゃない?」
チュエールとは、魔法使いが賢者になるために修行を行う場所である。シュウの幼なじみ、クリムも賢者を目指してここに修行へ行ったのだ。
ジャックは車を確認した後、シュウの所へ向かった。
「シュウ! チュエールの車が来たぞ‼」
女子に囲まれているシュウは、その言葉を聞いて一目散に村の入口へ向かった。
村の村長の家にて。チュエールの使者と15歳ほどの少女が、村長と会っていた。
「うむうむ。まさかこんな田舎な村から賢者が生まれるとはのう……嬉しい事じゃ」
「ええ。それと、彼女は過去最年少で賢者になった魔法使いです」
「まだ10年の修行で賢者になれるのは、相当いないですよ」
村長はメガネを拭きながら、目の前で座っている少女にこう言った。
「さて、これから賢者の凱旋として祭りを始める。クリムよ、出てくれぬか?」
「はい。大丈夫です」
と、クリムは村長に笑顔で返事をした。