添景 はじめての夜
外伝的な何かを綴っていきます
「男の方たちは、小さな女の子に、どうしてこんな乱暴な仕打ちをなさるのかしら」
ミルカははエイカの髪を櫛けずりながら、憤懣を並べている。
申し訳なさを感じつつ、エイカはミルカに背中を預け膝をそろえて座り、ミルカの手つきに身を任せている。
「きれいな髪なのに」
「ごめんなさい」
つい、謝ってしまう。
あのあと、ミルカは氏族の女性の手を借りて、大騒ぎしながらエイカの髪をすすぎ、体を拭き、自分の使っていた衣装を着せた。
おかげで、顔のところどころに残るあざや傷跡以外で、エイカの受けた仕打ちを思い起こさせるものは残っていない。
エイカ自身、さきほどまで続いていた緊張から解放されて、身も心も心地よい揺らぎの中に揺蕩っている。
ここはミルカの、ディナル氏族の長に連なる血族の、娘天幕。
血族で娘天幕に入る者はまだいないのだが、じきにミルカの披露が予定されていたため、すでに用意の整ったそれに、二人で収まっている。
「ミルカは次の花会で披露」
最初、エイカはミルカ様と呼ぼうとして、怖い顔で睨まれ、全力で呼び捨てを強制された。
何故なのか理由はよくわからない。
「うん、もうあと月一巡りと少し、エイカは?」
「私は、あと星の巡り2つ分」
「エイカ、十なんだ」
「細かいことを言うとまだ十にはなっていないけど、花会までにはなるから」
花会では、草原中から、その年に十三を迎える女性が集まり、披露というお披露目に参加する。
その日のために用意した装束に身を包み、娘たちが華やかに振る舞う様は、一年の中で、草原が最も華やぐ瞬間だ。
「装束は」
「まだ途中、お母さんと、したく した………」
言葉が途切れ、櫛けずる手も止まる。
ミルカの肩が小刻みに上下する。
「ごめ な さい。エイカは、 ひとり なのに。わた には、 にいさまも、いるのに。としうえ、なのに」
いつの間にか、ミルカの頬に、幾筋もの光るものが伝っていた。
エイカはミルカに向き直ると、そっと肩に両手をまわす。
「大丈夫、私も一緒に泣くから」
何が大丈夫なのかもう判らないエイカの瞳からも、大粒の雫が次々にこぼれる。
そのまま二人は、声をあげて泣き、泣き疲れると、お互いを枕に眠りに落ちた。
字っ句説明
娘天幕
花会での披露を済ませた娘が、婚礼が調い、嫁ぎ先の夫婦天幕に入るまで過ごす場所、直系血族単位の数人の娘で集団生活をする場。血族の年長女性が面倒を見る花嫁訓練所の性格も持つ。
花会、披露の説明はまた改めて




