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風の果て雲の彼方  作者: 加藤 弓雅
悲劇
4/8

添景 はじめての夜

外伝的な何かを綴っていきます


「男の方たちは、小さな女の子に、どうしてこんな乱暴な仕打ちをなさるのかしら」

ミルカははエイカの髪を櫛けずりながら、憤懣を並べている。

申し訳なさを感じつつ、エイカはミルカに背中を預け膝をそろえて座り、ミルカの手つきに身を任せている。

「きれいな髪なのに」

「ごめんなさい」

つい、謝ってしまう。

あのあと、ミルカは氏族の女性の手を借りて、大騒ぎしながらエイカの髪をすすぎ、体を拭き、自分の使っていた衣装を着せた。

おかげで、顔のところどころに残るあざや傷跡以外で、エイカの受けた仕打ちを思い起こさせるものは残っていない。

エイカ自身、さきほどまで続いていた緊張から解放されて、身も心も心地よい揺らぎの中に揺蕩っている。

ここはミルカの、ディナル氏族の長に連なる血族の、娘天幕。

血族で娘天幕に入る者はまだいないのだが、じきにミルカの披露が予定されていたため、すでに用意の整ったそれに、二人で収まっている。

「ミルカは次の花会で披露」

最初、エイカはミルカ様と呼ぼうとして、怖い顔で睨まれ、全力で呼び捨てを強制された。

何故なのか理由はよくわからない。

「うん、もうあと月一巡りと少し、エイカは?」

「私は、あと星の巡り2つ分」

「エイカ、十なんだ」

「細かいことを言うとまだ十にはなっていないけど、花会までにはなるから」

花会では、草原中から、その年に十三を迎える女性が集まり、披露というお披露目に参加する。

その日のために用意した装束に身を包み、娘たちが華やかに振る舞う様は、一年の中で、草原が最も華やぐ瞬間だ。

「装束は」

「まだ途中、お母さんと、したく した………」

言葉が途切れ、櫛けずる手も止まる。

ミルカの肩が小刻みに上下する。

「ごめ な さい。エイカは、 ひとり なのに。わた には、 にいさまも、いるのに。としうえ、なのに」

いつの間にか、ミルカの頬に、幾筋もの光るものが伝っていた。

エイカはミルカに向き直ると、そっと肩に両手をまわす。

「大丈夫、私も一緒に泣くから」

何が大丈夫なのかもう判らないエイカの瞳からも、大粒の雫が次々にこぼれる。

そのまま二人は、声をあげて泣き、泣き疲れると、お互いを枕に眠りに落ちた。



字っ句説明

娘天幕 

花会での披露を済ませた娘が、婚礼が調い、嫁ぎ先の夫婦天幕に入るまで過ごす場所、直系血族単位の数人の娘で集団生活をする場。血族の年長女性が面倒を見る花嫁訓練所の性格も持つ。







花会、披露の説明はまた改めて

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