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風の果て雲の彼方  作者: 加藤 弓雅
悲劇
1/8

- 1 -

少女は駆けた。草原には珍しい驟雨の中を。

いきなり現れ、宿営地を囲んだ騎馬の群れは、何の口上もなく弓を射かけてきた。

「逃げよ」

父の声を背に、何人もの同胞が射倒されるのを見過し、柵の切れ目から外へ転がり出て、背丈より高い草生えに紛れ込むのがやっとだった。

少女は、草をかき分けただ前へと進む。帰る場所はもはや無い。行くあてなどもちろん無い。

それでも、ただ前へ進む。進むしか、無かった。


      


     * * * * * * * * * * * * * * * *


前日の通り雨の名残で、あちこちぬかるんだディナル氏族の宿営地を囲む柵の周りに、革鎧を身に着け、長弓と矢筒を肩から下げた男たちが、馬に跨り、あるいは手綱を引きながら、厳しい表情で草原の向こうを凝視していた。

昨日から出かけていた長の一行が何者かに襲われたとの知らせを受け、何人かが事を確かめに出たままなのだ。

待つこと暫し、遠くから馬蹄の音がかすかに響き出し、地平から騎馬が一騎姿を現す。

騎馬は、ますます馬蹄の音を高くしながら、見る間に宿営地に近づき柵の中へと駆け込む。

汗にまみれ、全身ほこりだらけの青年は、転げ落ちるように馬から降り、問いかける男たちを手で制し、天幕の群れの中で、ひときわ大きなそれに駆け寄った。

青年は、入幕の許しを得るのももどかし気に、天幕に入る。

普段は長の部屋である大天幕で、今は氏族の主だった者の幾人と年若い少年、さらに少年より幾つか年若い少女が青年を出迎えた。

青年は、少年の前に進み、片膝をつき口を開いた。

「知らせは、真でした。生き残った者は、おりませぬ」

少年の濃い紺色の瞳に強い光が宿る。少女は両手を口元にあて息を飲み、その場に立ち尽くす。

「相違、無いか」

「はい。5人とも、わたくしだけでなく、他の者と共に、確かめておりますれば」

青年は、間違いないという言葉を飲み込んだ。

「子細は」

「ヴィスカベル氏族の長と主だった者が、怨恨を抱き我らの長を襲ったと、オルテン連合の者は申しておりますれば、まずは、詫びがございました」

「して、口上は」

少年の傍らに立つ、壮年を越えそろそろ老境に入ろうかという、天幕の中で一番年嵩の男が尋ねた。

「此度の仕儀、オルテン内の不始末にて、貴殿らの手を煩わすに能わず。すでに咎人一党は、バンガルが処断した、とのこと」

天幕の中がざわつく。

「どういうことか。咎の者が判じておるならまず報せ、しかる後に討伐に助勢するのが筋というもの」

「我ら長を失い、仇も討てぬと侮っておるのか」

口々に憤懣を述べていた者達が不意に口をつむぐ。

その侮られたのが、父の葬儀も代襲も未だなため正式な長ではないが、悲劇の当事者15の少年であることに思い至ったのだ。

「これで決着。となるなら、良しとしよう」

表情に苦いものを浮かべ。少年は口を開いた。

ディナル氏族は、この地草原一帯に割拠する3つの部族連合、オルテン、ビシラム、アルタヴァのいずれにも属していない。氏族の放牧地が3つの連合の領域それぞれと接する位置にあるため、どれか一つに加わり他との摩擦を起こすのを避けるためだ。

ディナルも無力な氏族ではない。剣や弓を取れる女子供も合わせれば、優に百騎を超える戦力となる。連合に属する氏族の中でも中堅どころのそれより多い。

が、連合はそんな氏族を十幾つも束ねている。バンガルの振る舞いに異を唱え、事を構えるには荷が勝る。まして、相手のバンガルは、3百の戦力を擁するオルテン最大の氏族だ。

「して、詫びは口上のみか。長たちのご遺骸は如何した」

「トブア達が残り、馬に乗せ運ぶ段取りをしておりますが、逃げてしまった馬もいて………」

一頭に二人乗せねばならず、戻るまで時間がかかると述べた。

「あとは、オルテン連合の使者と、バンガルの者がこちらに向かっております。長の着かれる頃には、参られるかと」



なろう初心者です。お手柔らかに。

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