ヨコシマなその子と黒い私。
ある日突然、その子はやってきた。
まだ八歳だった私に、両親はその子を見せて、こう言った。
「虐待されていた子なの。今日からうちの子になる。よろしくね、お姉ちゃん」。
今まで一人っ子だった私に、妹が出来た。
目つきの悪い子だった。私より年下なのは分かったが、十分な食事を与えられていなかったのだろう、やせ細っていて小さく、見ただけでは正確な年齢が分からなかった。母親が食事を出せば立ったまま食べだし、父親は座って食べることを一生懸命教えていた。
私はすごく、その子が嫌だった。
だって今までは、父親も母親も私だけを見ていてくれたのに、その子が来た途端、私は全部後回し。二言目には「お姉ちゃんなんだから、我慢しなさい」。そればかり。
私の黒い気持ちとは裏腹に、その子は当たり前のように私と家族の時間に溶け込んでいった。
来たばかりの頃は全然声を出さなくて両親も困っていたが、よく喋るようになった。部屋の隅で小さくなって座っていたが、リビングのソファの上に座るようにもなった。その子が出来ることが増えれば増えるほど両親は喜び、私は嫉妬で身が焼かれ、真っ黒になるような思いを感じていた。
その子がきてから二か月後、事件が起きる。
私がおやつのクッキーを貰って食べていたら、その子が横からやってきて、ちょうだい、と言った。私は嫌、自分の分を食べたでしょう?と冷たく言い、その子に顔を背けてクッキーを頬張る。すると突然、その子が私のお皿に手を伸ばしてきて、勝手にクッキーを取ろうとしたのだ。やめて!と私は大きな声を出し、思わずその子の頭を叩いてしまった。
その瞬間を、母親が見ていた。「なんてことするの!」。母親は私を怒鳴りつけた。その子が私のクッキーを取ろうとした、と説明しても、母親は怒る一方。その子は母親の後ろに隠れ、したり顔で私のことを見ていた。その瞬間、私は火山が噴火したように怒りが溢れ、これまでに溜めていたものを一気に吐き出すように叫んだ。
その子が来てから、お母さんおかしいよ。私のことだって、可愛がってくれなくなった。その子が付けてるリボンだって、私のなのに勝手にあげて。お気に入りだったのに。お姉ちゃんなんだからって、その子がきたらそればっかり。私のことなんて、どうでもいいんでしょう?
私の怒りを聞いて、母親は悲しそうに眉尻を下げ、私の頭に手を伸ばした。私の感情は高ぶったままで、伸びてきた手を払うように引っぱたく。そのとき爪が当たってしまい、母親の手には真っ赤な線が三本伸びた。「ごめんね。お母さんね、あなたもその子も、どちらも大事なの。怒らないで」。母親の言葉と表情を見て、はっと私は我に返る。ごめん、言い過ぎた。今度は私のほうから母親に近寄り、首を垂らした。
私の様子を見ていたその子は、申し訳なさそうに母親の後ろから姿を見せた。
そしてこう言うのだ。
「みゃあ」
そして私も言い返すのだ。
「にゃーん」