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閑話2 一年後のイリス 後編

 私が、喜びのあまりフリーズしていると、リューキさんから声をかけられた


「イリスは、俺がイリスの家に泊まるのは嫌じゃないか?」


 リューキさんは、私が異性を家に泊めるのを嫌がると思っているのだろう。だが、私がリューキさんを泊める事を嫌がる訳がない。むしろ大歓迎だ


「全然嫌じゃありません!是非私の家に泊まって行ってください!」

「お、おお。ありがとうな」


 リューキさんは、私の勢いに若干引きながらも、頷いてくれた。そうと決まれば、早く家に帰って準備をしないといけない。


「リューキさん。私は先に帰って準備をしないといけないので、失礼します!村長、リューキさんを私の家まで案内していただけませんか?」

「分かった。後でリューキさんを連れていく」

「有り難うございます!それでは!」


 私は、村長の返事を聞くと、猛ダッシュで家まで帰った






 家に帰りついた私は、全力で家の片付けをした。私は、後片付けというものが苦手だ。一年前までは、お母さんに部屋を片付けて貰っていた。そんな人間が、突然独り暮らしを始めたらどうなるかなど言わなくても分かるだろう。

 たまに、マルコが遊びに来ていたが、マルコになら、どんな風に思われようが関係ないので、片付けないまま、家にあがってもらっていた

 しかし、今回家に来てもらうのはリューキさんだ。リューキさんに幻滅されたら私は自殺する自信がある

家の片付けが半分くらい終わったところで、玄関の扉がノックされた


「イリス!来たぞ!」

「はい!今いきます!」


 片付けが終わっていないが、リューキさんを待たせる訳にはいかない

私は、リューキさんに嫌われる覚悟をして、玄関の扉を開ける


「お待たせしました。どうぞあがってくたさい」

「お邪魔する」


 私は、嫌われるかもしれないと内心冷や汗をながしながら、部屋に案内する。リューキさんは、部屋に入ると、真剣な顔で私を見つめてきた

 私は、見つめられて顔を赤くしながら、リューキさんの目を見つめ返す

すると、リューキさんがゆっくり口を開く


「イリス、俺にこの部屋を掃除する時間をくれないか?」

「え?」


 私はリューキさんの質問に、間抜けな声で返事をしてしまった。


「だから、俺にこの部屋を掃除させてくれ」

「それは有りがたいですけど、幻滅しましたか?」

「幻滅?何で?」


 リューキさんは、不思議そうな顔で、首を傾げている


「普通、女の子の家って綺麗に片付いているのに、私の家は凄く汚いから…」

「なんだ、そんなこと気にしてたのか?」


 私が、嫌われると覚悟するほど気にしていたことが、リューキさんにとっては、「そんなこと」で片付けられる程度のことらしい

 私は、なんだか拍子抜けしてしまった。


「リューキさんは、この汚い部屋を見て何も思わないんですか?」

「いいかイリス、別に、部屋が少し汚いことなんて気にする必要はない。人それぞれだからな」


 リューキさんは、微笑みながら頭を撫でてくれた。たったそれだけのことで、今までの私の不安は、まるで、霧が晴れるように、消え去ってしまった


「有り難うございます」

「気にするな。それより、この部屋、片付けていいか?」

「お願いします。私は何を手伝えばいいですか?」

「イリスは休んでいてくれ。この程度、十分でなんとかなる」

「流石にそれは無理だと思います」

「まぁ、見ていろ」







 十分後

リューキさんは、本当に十分で片付けを終わらせてしまった。十分前まではあんなに汚かった部屋が、今では埃ひとつない綺麗な部屋になった


「私が一時間かけて片付けた量をたった十分で…」

「まぁ、片付けには慣れているからな」


 リューキさんは、少し汗をかいている。あれだけの量を片付けたのだから当然だ。汗をかいているリューキさんも、爽やかでカッコいい

 私が、リューキさんに見とれていると、突然リューキさんが立ち上がった


「いい感じに汗かいたし、外で鍛練してくるよ」

「私も一緒に鍛練してもいいですか?」

「それなら、ついでにイリスがどのくらい強くなったか見せてもらうか」


 その言葉を聞いて、気持ちが引き締まる。ここでリューキさんに認めて貰えなかったら、リューキさんについていけなくなる。全力で挑まないといけない


「それじゃあ、行こうか」

「はい!」


 








 私達は、大きな広場で向かい合っている。私はリューキさんに貸してもらった、木刀という木でできた剣を持ってかまえている。対するリューキさんは、素手だ


「ルールは、イリスが一度でも俺に木刀を当てることができれば合格だ。いいな?」

「はい!」

「じゃあ、この銅貨が地面についたら戦闘開始だ」


 リューキさんは、財布から銅貨をとりだし、指で弾く

私は、木刀を握りしめ、すぐに攻撃出来るように構えて、銅貨が地面につくのをまつ

 空を舞う銅貨の落下が、とても長く感じた。そして、銅貨はとうとう地面に落ちた


「はぁぁっ!」


 私は、開始と同時に、リューキさんに向かって走る。筋肉を最大限に使った全力の加速だ。私は、一気にリューキさんの背後に回り込む


「貰いました!」


 リューキさんは反応出来ていない。私は、油断せず、全力で木刀を振る。木刀は、リューキさんの首もとに吸い込まれるように近づいていく。そして、木刀は…


 カァァァァン


 甲高い音をたて、弾かれた


「えっ?」


 私は、どうなったか理解出来ずに、一瞬だけ固まってしまった。しかし、その一瞬が命取りだった

気づいたときには、いつの間にか取り出していたリューキさんの木刀が、私の首に突きつけられていた


「本当の戦いなら、今ので八回は死んでるぞ?」


 リューキさんが、冷たい目で私を見下ろしてくる。しかし、次の瞬間には、何時もの優しい目に戻り、私に手を差し出してきた


「イリス、立てるか?」

「はい…。ありがとうございます…」


 リューキさんの手につかまり、立ち上がる。リューキさんの手を握れたことは嬉しかったが、それよりも、負けたことが悔しかった。これで私は、リューキさんについていくことができなくなる


「やっぱり私、不合格ですか?」

「いや、合格だ」

「そうですか…。やっぱり駄目ですよ…………えっ?」

「だから、合格だ」

「えっ!?でも私、リューキさんに攻撃当てれなかったのに!」


 私は、驚きのあまり、リューキさんに詰めよってしまった。合格したのは嬉しいが、何で合格になったのか全然分からなかった

 リューキさんは、少し顔を赤くしながら、答えてくれる


「確かに、イリスの攻撃は俺に当たらなかった」

「じゃあ、なんで合格なんですか?」

「今回俺は、武器を使うつもりはなかった。でも、イリスは一瞬で俺の後ろをとり、武器を使わせた」

「でも私、何も出来ませんでした」


 そうだ、いくらリューキさんに武器を使わせたと言っても、そのあと何も出来ずに負けてしまった。それでは意味がない


「イリスはちゃんと鍛えれば、まだまだ成長する。もしかしたら近接だけなら、俺と同じくらいまでは成長するだろう」


 私は、リューキさんの言葉が信じられなかった。今まで私は、出来る限りの訓練はしてきた。だから、これ以上強くなれるとは思えなかった。しかも、リューキさん位までなんて、不可能だ


「私は、そんなに強くないですよ。これ以上強くなれるとは思えません」

「いや、イリスが気付いていないだけで、イリスには沢山の才能が埋まっている。試しにひとつ教えてやろう」

「私に才能が?どんな才能ですか?」

「氷の魔法だ。俺が使っていた詠唱は覚えているか?」

「覚えてますけど…。私は、軽い身体強化の魔法しか使えませんよ?」

「いいから、騙されたと思って唱えてみろ」

「分かりました」


 私は、半信半疑でリューキさんが使っていた魔法の詠唱を唱える


「世界を支えし氷の精霊よ、我が前に立ちはだかる敵を殲滅せよ!凍りつけ!《凍てつく氷蒼の大地(ニブルヘイム)》!」


 詠唱を唱えると、私の回りは、氷に包まれていた

リューキさんが使っていたものには数段劣るが、それでもちゃんと発動していた


「これは一体…」

「これで信じてもらえるか?ちなみに、イリスが使える魔法は氷魔法だけじゃないぞ?」

「本当ですか!?」

「本当だ。他にも色々とあるが、それは今度教えてやる」

「ありがとうございます!」


 私にこんな力があるなんて、いまだに信じられないが、これでリューキさんについていけると思うと、嬉しくてそんなことは気にならない

 リューキさんは、大喜びする私に向かって


「そんな訳だから、イリスについてきて欲しい。俺たちの仲間になってくれるか?」


 そういって、微笑んでくれた。こんなの、断る理由なんて一切ない


「はい!喜んで!」


 私は、満面の笑顔で返事をした







 翌日、早速私たちは村を出ることになった

私達は今、村の入り口に立っている。そこには、村の皆が見送りに来てくれていた。マルコもきていた

 村長が、私の目の前まで来て、頭を撫でてくれた


「イリス、リューキさん達に迷惑をかけないように頑張るんだぞ?」

「はい!勿論です!」

「あと、子供が出来たら一度みせにきてくれ」

「こ、ここここ子供!?」


 私は、村長の言葉に驚いて、変な声をだしてしまった

私の顔は、リンゴみたいに赤くなっているだろう


「いきなり何言うんですか!でも、本当に出来たら、見せにきますね!」

「ああ、頼むぞ?」


 私達が馬鹿な会話をしていると、リューキさんから声をかけられた


「イリス、そろそろ行こうか」

「はい!」


 私達は、リューキさんがこの村に来るときに乗ってきたらしい馬車に乗り込む

リューキさんが、馬に指示をだすと、馬車はゆっくりと進みはじめた


「みんなー!またいつか会いましょうねー!」


 私は、少しずつ小さくなっていく皆に、村が見えなくなるまで手をふり続けた


今回で閑話は一旦終了です!

次回からは、イリスと別れてからの物語に戻ります


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