黒刀
真っ白な空間。龍騎とアーレスは向かい合っていた。
「ルールは簡単だ。今から我が十秒間攻撃する。その攻撃を見事耐えきることが出来ればお主の勝ちだ」
「たったの十秒か?案外簡単なんだな」
少し挑発をしてみたが、アーレスは黙っている。
まぁ、十秒位なら充分耐えきれる自信がある。俺は今の時点でもそこそこ強い分類に入ると自負している位だ。十秒位なら余裕だろう。
「では、この剣が地面に刺さったら開始だ」
俺は、アーレスに返事はしなかった。深呼吸をして集中する。まわりから音と色がなくなる。
と言っても、この空間では音と色がなくなっても見た目的には何も変わらないのだが、集中は出来た。
剣が空を舞う。剣が地面に刺さるまでの時間が異様に長く感じた。剣はゆっくりと落下していき、そして地面に刺さった。
「っ!?」
戦いが開始された瞬間、向かい合っていた筈のアーレスの姿が消えた。
そしてその直後、背後からとてつもない殺気を感じた。意識を失いそうな程の殺気だ
「そこっ!」
俺は振り向きながら裏拳を放つ。しかし手応えはない。
「ぐふっ!」
横からの衝撃。トラックに跳ねられた時よりも強い衝撃たった。
俺はとてつもない速度で吹き飛ばされていく。体勢を立て直そうと前を見るが、アーレスの姿はない。
「くそっ!何処だ!」
「ここにいるぞ」
背後から声が聞こえた。そして衝撃。吹き飛ばされている途中に衝撃。それが十秒間繰り返された。
戦いが終わると、まるで何事もなかったかのようにアーレスが目の前に現れた。
「ふむ。我の攻撃を耐えきるとは見事なり」
「そりゃどうも。全身ボロボロだけどな」
アーレスの攻撃を耐えきったが、俺の体はボロボロだった。両腕とも骨折しているし、内蔵もやられているだろう。こんな状態で意識が戻ったとき大丈夫なのか?
「案ずるな。ここで負った怪我はイデアにある体には影響せん」
「そりゃよかった。で、俺と戦った意味はなんだ?」
「お主が力を授けるに相応しいか試したかったものでな」
「力?」
「説明するより見てもらった方がはやい」
アーレスが手を前に突き出すと、そこから光の玉が出現した。
光の玉は、俺の前まで飛んできて、俺の心臓辺りに吸い込まれた。
「今のは?」
「我の力の一部を分け与えた。身体能力が大幅に強化されたはずだ」
言われてみると、何時もより力が沸いてきている。まるで羽がはえたように体が軽い。
アーレスの言う通り大幅に強化されたみたいだ。
「お主にはこれも授けよう」
「刀か」
アーレスが虚空に出現させたのは一本の刀だった。
無限の闇を思わせる漆黒の色をした刀。持ち手も鞘も刀身でさえ、まわりの光を吸収しているような黒だった。
「その刀は我が友、鍛冶の神と協力して完成させた一振である」
「そんなものくれるなんて太っ腹だな」
「お主はなかなか面白そうな人間であるからな。このくらいのことはする」
面白そうと言う理由だけでこんなすごいもの渡して大丈夫なのだろうか?
その内、神が作った武器を持った連中が溢れるなんてことになりそうで心配だ。
正直、そんなことになったら勝てる自信が全くない。
「有りがたく使わせて貰うよ」
「そうしてくれ。鍛冶の神も喜ぶだろう」
ウンウンと頷きながら微笑むアーレス。鍛冶の神様とは随分と仲が良いのだろう。
鍛冶の神様にもお礼しないとな。会えたらだけど。
「そろそろ意識が戻る頃だ。次はもっと強くなったお主と戦いたいものだ」
「そうかい。次はお前を倒してやるよ」
「それは楽しみだ。それでは」
俺の体が光を放ち始める。あまりの眩しさに目を瞑ってしまう。
そして光がおさまり、目を開けるとそこは俺が案内された王城の部屋だった。
「ふぅ。戻ってこれたか。怪我も全部治ってるな」
普通なら、今見ていたのは夢と思うかもしれないが、俺は夢じゃないと確信していた。
何故なら、俺の腰にはさっき貰った黒刀があるからだ。
「今更だけど、凄いもの貰ったな」
俺が黒刀を眺めていると、ノックの音が響いた。
「リューキ様、もうすぐ謁見の時間です。起きていらっしゃいますか?」
メイドさんがおこしにきてくれたようだ。俺はメイドさんに返事をしつつ、眠ったことによって乱れていた髪や服を直す。
よし!気持ちを切り替えて、さっさと謁見を済ませるか!




