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王太子の恋

僕にはとても大事に想っていた女の子がいた。

王太子妃候補の筆頭だった5才年下のかわいい従妹。

その子が来る予定の日は、自分が行う公務を最低限にしてできうる限り時間を作った。

その笑顔と鈴の鳴るような声で『エド兄様』と呼ばれる度に、王太子としての重圧に押し潰されそうだった僕の心を救ってくれた。


『将来、エド兄様のお嫁さんになる』

そう言われた時は嬉しかった。

僕は照れ隠しにそっけない返事をしてしまった。

その直後からなぜか王宮に顔を出さなくなった従妹。

不思議に思って周りの者に理由を聞いても誰も答えてはくれなかった。

気まずそうに目を逸らし、足早に立ち去ってしまう。


僕は思い切って国王である父に訊ねた。

『何故、急にユーリは王宮に来なくなったのか?』と。


父は

『ユーリは魔法が使えず、属性も魔力の有無もわからないから王太子妃候補から外し、王宮への出入りも差し控えるよう指示を出した。』という。

僕は生まれて初めて父に反抗した。

でも、指示が撤回される事はなかった。


目の前が真っ暗になった。

僕の大事な大事なかわいい従妹。

もう、2度と会う事ができないのだろうか?



あれから7年が過ぎた。

最近は早く妃を娶れと周りの貴族たちが煩い。

ユーリの父であるハーバリー公爵は何も言わない。

今、ユーリがどうしているのかも僕には知る手立てがない。

ユーリは誰かの横で笑っているのだろうか?自分ではない誰かの横で・・・。

そう考えるだけで、今でも胸がひどく痛む。


政略結婚しなければならないなら・・・

ユーリが王太子妃になれないなら・・・

相手は誰でも同じだ。僕はユーリの前でなければ笑う事もできない・・・。


ある日、王妃である母からの伝言を侍従が伝えてきた。

『公務が終わったら部屋へ来るように』と。

何だろうと思い、手早く公務を終えた僕は母の私室へと急いだ。


母の私室へ入るとソファへと案内された。

腰を落ち着けると侍女がお茶を出してすぐに部屋から出て行ってしまった。

母と2人きりになり重い沈黙が流れる。

一体何事かと恐々としていると母がようやく口を開いた。


「エドワード、あなたハーバリー公爵令嬢の事をどう思いますか?」


一瞬何を言われているのか理解できなかった

「母上・・・『どう思っているのか?』とは一体?」


戸惑う僕を見て母は溜息をこぼす。

「一人の女性としてどう思っているか。という意味です。」


ユーリを一人の女性として・・・か。

「母上、僕は今でもユーリの事を想っていますよ。妻に迎えるならユーリしか考えられないと思うほどに・・・。しかし、それは叶える事ができない望みですから・・・」


しかし今更こんな事を聞いてくるのは何故なのか?

僕は全くわからない。でも、母は嬉しそうな笑みを浮かべた後、真剣な表情で僕に聞いてきた。


「そうですか。あなたの気持ちはわかりました。では、もしもユーリが王太子妃になる事を了承した場合は、妃として迎えるのに異存はないと考えて良いのですね?」


「もちろんです。・・・ですが、7年前に父上からユーリは魔法を使えないという事で候補から外したと言われています。再度、王太子妃候補に加える事は出来ないのでは?貴族達も納得しないでしょう。」

それにユーリ自身がその話を受けるとは思えない。王宮への出入りを差し控えるよう言われる前に来た時・・・

僕が最後にユーリと会った時にそっけない態度を取ってしまった。その時にとても傷ついた表情をしていた。

今にも泣き出しそうだった・・・。

その直後に出入りを差し控えるよう言われたんだ。

きっとユーリは僕が父に頼んだと思っただろうな・・・


当時のことを思い出して胸が締め付けられる。


(もし・・・本当にもしもだけど・・・。ユーリが僕の妃になってくれるのなら・・・一生大事にする。ユーリの心を今度こそ守り抜く。必ず幸せにする。)


僕の様子をじっと見ていた母が今のユーリの状況を教えてくれた。

今日、公爵夫人であるセリス叔母上から手紙が来たのだと・・・。

僕は神に感謝した。


(ユーリが魔法を使えるようになったなんて!)

浮かれそうになった僕に母はしっかりと釘を刺してきた。


「エドワード。あくまでもユーリが了承した場合です。ハーバリー公爵は今までユーリに来た縁談は本人に内緒にしていますが全て断っているそうです。陛下の一存だったとはいえ、こちらから一方的に距離を取らされたのです。了承してくれる可能性は低いでしょう。」


「わかっています。ですが、もう諦めたくないのです。ユーリをこの手で守って幸せにしたいのです。」


「そうですか。あなたの気持ちはわかりました。後ほど陛下からユーリの事でお話があると思います。きちんとあなたの覚悟を伝えなさい。良いですね?」


「はいっ!!」


僕の返事を聞いて母は満足そうに頷いた。

ユーリを幸せにするのは僕だ。他のヤツには絶対に渡さない。誰にも文句は言わせない。

あの日までこの手の中にあった幸せを・・・ユーリを取り戻してみせる。

必ず公爵を説得してみせる。


僕は固く心に誓った。 

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