アピール開始です
ユーリは王宮へ向かう事2日目にして『何もかも放り出して屋敷に引き篭もりたい』と感じてしまっていた。
セリスからは、今日は公爵一家と王妃のみのお茶会だと言われているが、気が重いのに変わりはない。
「はぁ・・・屋敷に帰りたい・・・」
つい、本音が口をついて出た。
「あらあら。屋敷を出てからそんなに経ってないわよ?」
セリスはうんざりした表情のユーリを楽しげに見ていた。
アロルドは昨夜ユージーンから報告を受けた隣国の第二王子エルフリードの事をセリスに話していない。
話したならば、王宮へ行くのを止めようと言われるかもしれないからだ。
殺到する縁談の申し入れをかわすためには、家族を屋敷に残して行くのが不安だったからだ。
昨日と違い、ギルロイの取り計らいで今日の執務は免除されている。
(おそらく、今日はギルロイも王妃のお茶会に参加するな・・・公務を放り出して・・・)
内心で溜息をつくアロルド。
その様子をセリスはジッと見ていた。
「あなた?何か懸念事項でもおありなのかしら?」
アロルドはセリスから声をかけられてビクッとしてしまう。
「い、いや。何もないが?」
「本当に?何もないのですか?」
「あぁ。なぜそう思った?」
「何か思い悩んでいるようでしたから。ほ・ん・と・う・に・何もないのですね?」
(うぅ・・・正直に話してしまおうか・・・黙っていたら屋敷に戻ってからが怖いしな・・・)
アロルドはセリスからの圧力に負けた。
王宮内では愛妻家で通っているハーバリー公爵だが、実際の所は恐妻家に限りなく近い。
「・・・実はな今日、王妃様のお茶会に家族全員で参加するために、陛下が私の執務を他の者に振り分けてくれているのだが・・・十中八九陛下も公務を放り出してくるのではないかと思ってな・・・明日以降にその皺寄せが来るかと思うと・・・」
「・・・まぁ。確かにお兄様なら公務を放り出して来そうね・・・ユーリのためですもの。そこは割り切って頂かないと」
「そうだな・・・あと、昨夜ユージーンから報告があってな。ユーリがエドワード王太子と庭園で話しているのを隣国の第二王子が回廊から見ていたらしい」
「王宮に客人として滞在しているという方ですわね?」
「あぁ。黒髪だと言っていたから間違いないだろう。ユージーンもエドワード王太子に確認したそうだからな・・・」
公爵夫妻は騒動が起きそうだと思った。
そんな両親のやり取りを子供たちは黙って気配を消していた。
下手に母が父を追及している時に口を挟むと飛び火してくるからだ。
「・・・まぁ想定の範囲内ですわ。見聞を広めるために来ているのですから、早々問題は起こさないでしょう」
「だと良いんだが・・・」
しばらくすると、馬車は王宮へと到着した。
そこには何故かエルフリード王子が居た。
昨夜、クリストファーから報告を受けたエルフリードが行動を開始した。




