騒動の前触れ
ユーリとエドワードが東屋を出て、庭園を歩いているとハーバリー公爵家の兄弟が2人に近づいてきた。
ユーリが客室に居ると思っていたユージーンとジェラルは、庭園に案内されて驚いた。
お茶会でのエドワードの雰囲気がかなり柔らかくなっていたのも驚いた要因の1つだった。
「エドワード殿下。こちらにいらしたのですか。」
「2人とも母上のお茶会に参加しなくて良いのか?」
兄弟は揃って苦笑を漏らす。
「王妃様の許可を得てユーリの様子を見に来たのですよ。そうしたら客室ではなく庭園に案内されたので少々驚きました」
「そうか・・・客室に案内する前にユーリと話しがしたかったからこの庭園にきたんだよ」
「そうでしたか。ゆっくりとお話しはできましたか?」
「あぁ。7年前の誤解も解けたしな。自分の気持ちも伝えた」
「「っ!!」」
2人は揃って息を呑む。
父公爵からエドワード王太子がユーリを王太子妃候補に迎えたいと思っていると聞いていた。
お茶会に出席している令嬢達には目もくれず、ユーリだけを見つめていた王太子の様子から父から聞いていた王太子の気持ちが確認できていた。
しかし、エドワード王太子の気持ちは7年前から変わっていなくとも、ユーリの誤解を解かなければならないのはユージーンもジェラルも分かっていた。
この短時間でユーリの誤解を解く事が出来たのには驚いた。
「ユーリは殿下のお気持ちを聞いてどう思ったんだ?」
急に話しを振られてユーリはビクリと身体を震わせた。
「・・・今は自分の変化に手一杯だからお返事を待って下さいってお願いしました・・・」
実際、これは言い訳でも何でもなくユーリの素直な気持ちだった。
ここ数日の間に、今まで使えなかった魔法が使えるようになり、魔法の属性数は『全能』、縁談の申し入れの使者が屋敷に殺到し、初恋相手の従兄から7年前の事について謝罪を受け、王太子妃候補どころか婚約者になって欲しいとまで言われたのだ。
ユーリのキャパシティを超えてしまっていた。
「ユージーン。あまりユーリを追い詰めないでやってくれ。嫌われてしまっては元も子もない。あまりにも急激に状況が変化してしまったのだから、ユーリが手一杯になってしまうのは仕方がないからね。」
「殿下がそうおっしゃるのなら・・・ところで、先ほどこちらに参る際にあちらの回廊に見なれない服装の青年がいらっしゃったのですが、どなたなのでしょうか?」
「っ!?それは黒髪に金の瞳だったか?」
「ぇ?はい。確かに黒髪でしたが・・・何か問題でもあるのですか?」
隣国の第2王子が滞在しているのは知っていたが、容姿まではエドワード以外は知らないのだ。
しかし、エドワードも隣国の王子が来訪した本当の理由を知らなかった。
見聞を広めるためという事は国王であるギルロイから聞かされているが、浮名を流す王子に自覚を促すためという本当の理由までは知らなかったのだ。
「ユージーン達が見かけた黒髪の青年は、隣国の第2王子エルフリード・アルディ・カルディール殿だ。見聞を広げるために現在、王宮に滞在している。」
「あの方が隣国の第2王子でしたか・・・殿下達を見ながら何やらお付の方と話してましたが・・・」
ユージーンとエドワードは何か嫌な予感がした。
隣国の王太子には既に婚約者がいるが、第2王子には婚約者どころか王子妃候補がいるという話しは聞いた事がないからだ。
『女性に興味がないから』だとか『側近のディール伯爵の嫡男と恋人関係にあるから』だとか本人が聞いたら憤死してしまうのではないかという中々残念な噂話が流れていた。
実際は女癖が悪く、1人の女性に縛られたくないからなのだが・・・
第2王子が見ていたのは十中八九ユーリだとユージーンとジェラルは感じた。
兄弟の様子を見たエドワードは噂話が単なるデマだと直感で悟った。
「ユーリ。王宮に来たときには必ずユージーンかジェラルと一緒に居るんだよ?僕が一緒に居られるときは僕が一緒にいるから」
「?えぇ。わかりました。1人にならないようにいたします。」
「ユージーン、ジェラル。王宮にいる間はユーリを絶対に1人にしないでくれ。何か嫌な予感がする」
「はい。侍女や侍従がいても、相手が隣国の王子では対処はできないと思いますので。ジェラルも分かったな?絶対にユーリを1人にしないようにしてくれ」
「わかりました兄様。姉様も絶対に1人にならないようにしてくださいね?身分的にもミーナでも対処できないのですから」
「わかってるわよ。みんな心配性なんだから・・・」
ユーリが隣国の王子に目を付けられた事をこの時は誰も知らなかった。
翌日からエルフリードからの猛アピールが始まるまでは。




