国王一家の家族会議
公爵家でユーリを除く面子での家族会議が行われている頃、王宮ではギルロイとミレイが話し合っていた。
「謁見後、貴族達は早々に謁見室から出て行ったぞ」
セリスは楽しそうに笑いながら
「あら。そうでしたの?私は久しぶりにセリス様とゆっくりお話しができましたわ。アロルド殿はエドワードとユーリの縁談についてはどうお考えになっているのかが気になりますわね。」
ギルロイもセリスも、謁見室から出て行った貴族達がこぞって公爵家へ縁談の申し入れをした事をこの時はまだ知らなかった。
「う~む・・・まぁ、良くは思っていないだろうな・・・明日以降はユーリへの縁談の申し入れが殺到するだろうがな・・・できれば他の貴族と婚約を結ばれる前に、早々に王太子妃候補として発表したい所なのだが・・・」
「そうですわね。私としても、ユーリがエドワードのお嫁さんになってくれるととても嬉しいのですが。ですが、ユーリが今どう考えているのかも知りたい所ですわね。セリス様には久しぶりに会いたいので一度ユーリを王宮へ連れてきて欲しいとは伝えてありますが?」
「そうなのか?では、明日以降エドワードの公務は減らすか・・・ユーリがミレイの所へ訪れる際にはエドワードも同席させても大丈夫か?」
「私はかまいませんが・・・エドワードが久方ぶりにユーリと会ったら暴走しそうで心配ですわね・・・」
7年前にエドワードが取った態度と、その後自身の下に来る縁談を全てすげなく断っている息子の様子を思い出す。
7年間も会うことすら出来なかった想いを寄せる女の子が目の前に、しかも王宮という場所で再会したら自分の想いを受けてくれたと思ってしまうのではないかとミレイは心配していた。
しばらくの間、ユーリとエドワードのことで話し合っていた二人の下に侍従が手紙を持ってくる。
「王妃陛下。ハーバリー公爵夫人セリス様より急ぎの文が届いております。」
侍従はミレイにセリスからの手紙を手渡す。
「あら。セリス様から?なにかしら?」
ミレイは早速、受け取った手紙を読み始める。
そこには、公爵夫妻が王宮から公爵邸へ戻るまでの間に、縁談の申し入れに来た貴族の使者達が殺到した事や、明日以降この騒動に結論が出るまでの間、ユーリを含む3人の子供達を連れて毎日ミレイの元へ訪れても良いかを訊ねる内容だった。
ミレイは笑いを抑える事ができずクスクスと笑う。
「ミレイよ。手紙には何と書いてあったのだ?」
「本日、謁見室から早々に出て行った貴族達は早速ユーリに縁談の申し入れをするため使者を公爵邸へ赴かせたようですわ。ユージーンとジェラル、それに公爵邸の使用人達が対応に追われてしまったそうですわ」
ギルロイは呆れて果ててしまう。
アロルドがセリスを伴い謁見室に現れた時はただ驚いただけだった。
2人が謁見室を後にすると、早々に貴族達も出て行ったが、その後の貴族達は執務中もどこか上の空というかソワソワしていて仕事にならないと各部署の責任者から報告が上がってきていたのだ。
「それでか・・・・・・」
セリスはアロルドが重い溜息をついた事を不思議に思い訊ねる。
「どうかなさったのですか?」
「いやな・・・『この時にも公爵家へ縁談が来ているかも知れない』とは言ったが、こんなに早く貴族達が行動に移すとは思わなかった・・・それに今日、各部署の責任者から貴族達が上の空だとか、ソワソワしていて仕事にならないと報告が上がってきていたのだ。普段からこれ位早く行動に移してくれれば公務も捗るんだがなぁ・・・」
再度、ギルロイは溜息を吐く。
そんな様子のギルロイをミレイはクスクスと笑いながら続ける。
「とりあえず、この騒動に結論が出るまでの間、子供達を連れて私の元へ毎日訪れても良いかと訊ねる内容ですわ。・・・いかがです?謁見室での陛下の発言が原因の1つですし、ハーバリー公爵家の子供達が毎日私の元を訪れてもかまいませんか?」
「それはかまわないが・・・ユーリだけではなく、ユージーンとジェラルもか?」
ギルロイは何故、公爵子息の2人も一緒なのかがわからない様子だった。
ミレイは少々呆れた様子で
「現在、離宮には隣国の第2王子が滞在中です。何かあった場合に王宮の警護をしている騎士達では対応できない可能性があります。公爵子息の2人ならば家族だという事も含めて対応できるからとアロルド殿が判断したのではないでしょうか?」
「なるほどな。それならユージーンとジェラルが同席しても問題はなかろう。いずれユージーンはエドワードの側近として、ジェラルは近衛として王宮に入るだろうからな。今のうちにエドワードと交流を持たせるの良いだろう。」
「では、明日から早速ユーリ達を連れて来るようセリス様へお返事をしますわ」
「頼めるか?ついでに、エドワードの公務を少し減らして同席させる旨も伝えてくれるか?」
「わかりましたわ。ではその様にお返事を致します」
ギルロイはエドワードを呼び出すと明日以降について説明をする。
「実は今日ハーバリー公爵家へユーリへの縁談申し入れの使者が殺到した。」
エドワードは唇をかみ締める。
「そうですか・・・ハーバリー公爵がその縁談を受けるから、それを伝える為に私は呼ばれたのですか?」
「いや、そうではない。先ほどセリスからミレイ宛で急ぎの文が参ってな。明日以降セリスがユージーン、ジェラル、ユーリを伴ってミレイの元を訪れる。今回の縁談騒動に結論がでるまでの間、毎日王宮へ来ることになった」
「そうなのですか。父上、母上・・・時間がある時には私も母上の元を訪れても良いでしょうか?決して公務を疎かには致しません。」
国王夫妻は息子の成長に驚き、目を見開く。
「いや。この騒動に結論が出るまでの間はお前の公務の量を減らす事にした。ユーリだけではなく、ユージーンとジェラルも一緒に来るからな。」
エドワードは父国王が何を言っているのか判断できかねた。
「それは一体どういう事でしょうか?」
「現在、離宮には隣国の第2王子が滞在している。何か問題が発生した時に護衛の騎士達では対応できない可能性があるからな。公爵子息の2人がいればある程度は大丈夫だとは思うが・・・それに将来、ユージーンはお前の側近に、ジェラルは近衛として王宮へ入る事になるだろう。この機会に交流を持たせようと思ってな。」
「わかりました。では、空いた時間は母上の所へお伺いし、従兄妹殿達と一緒に過ごします。」
「あぁ、そうしてくれ。できればユーリから色よい返事を得られると尚良いのだがな・・・」
「父上・・・それはいささか性急過ぎるかと・・・まずは会えなかった7年を埋める事からです。」
「そうだな・・・急ぎのモノ以外の公務は全てこちらで処理しておく。ミレイにはセリスに急ぎ返事を書くよう頼んである。」
「わかりました。では、明日以降はなるべく母上の所に赴き一日でも早く色よい返事がもらえる様に努力します。」
「そうしてくれ。急に呼び出して悪かったな。ユーリが王宮に来るのにお前が何も知らないのは問題があると思ったからな」
「いえ・・・教えていただきありがとうございます。私はまだ公務が少し残っておりますので、これで失礼します。」
「あぁ。あまり根を詰めないようにな。」
「はい。では失礼します。」
国王一家もアロルドが息子2人の縁談対策でユーリに同行する事を許可した事を知らなかった。
こうして、公爵家での騒動を対岸の火事と思っていた国王夫妻は翌日以降の王宮内で起こる騒動を想像できずにいた。
まさしく『嵐の前の静けさ』といった所だった。




