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動き出す運命

セリスとミレイが国王執務室に到着する前、アロルドは不機嫌さを隠さずに国王ギルロイの前に立っていた。

「アロルドよ・・・不機嫌さを隠す努力くらいはして欲しいのだが?」


「陛下は何故、謁見の間でユーリを王太子妃候補に復帰させたいとおっしゃったのですか?」


「何故って・・・それはエドワードがユーリを王太子妃に迎えたいと・・・」


「エドワード王太子の事ではなく、何故!貴族達が居並ぶ謁見の間でおっしゃったのかをお聞きしているのですが?」


ギルロイは誤魔化しがきかないと思い正直に話す事にした。

「ユーリが3属性持ちとなれば、貴族達からユーリへの縁談の申し入れが殺到するだろう。恐らく今この時も公爵邸へ申し入れの使者が訪れているかもしれないからな。それならば、王太子妃候補復帰という事で牽制くらいにはなるかと思ったのだ」


「はぁ・・・陛下?ユーリには王太子妃候補などという重責を私は背負わせたくはないのですが?」


アロルドは何としてもユーリを手放したくない。

ギルロイは何としてもユーリを王太子妃にしたい。

お互いの意見は平行線をたどっていた。


ちなみに、ギルロイの懸念は当たっていた。

ハーバリー公爵家に謁見の間に居た貴族達の家から縁談の申し入れの使者がきはじめていたのだ。

王太子妃候補に復帰してしまうと縁談の申し入れが出来なくなってしまうが、復帰前の今ならば結果はどうあれ申し入れ自体は問題ないからだ。

ハーバリー公爵が申し入れを受け入れユーリと婚約してしまえば、王家がその後に何と言ってこようと婚約の取り消しは出来ないからだ。


(やはりアロルドは反対するか・・・ミレイとセリスはどう思っているのか・・・)

先日、ミレイより注意されていたのに、ギルロイはまたしても失策を犯してしまう。

そう。ユーリの気持ちを確認していない事を忘れてしまっていたのだ。


「ですが陛下が7年前にユーリを王太子妃候補から外されたのですよ?覚えておられますか?」


「・・・覚えておる。忘れるほど耄碌しておらんわ」


「陛下からユーリの王宮への出入りを差し控えるよう指示された日からしばらくの間ユーリは部屋から一歩も出てこなかったのですよ」


「そうなのか?なぜだ?」


「ミレイ王妃からお聞きになっていないのですか?その日、ユーリはエドワード王太子に振られたそうですよ?」


「ミレイから聞いた。セリスからの手紙に書いてあったと」


「では、私が反対するのもお分かりになって頂けると思いますが?」


「エドワードは照れ隠しにそっけない態度をとってしまったと言っていた。それにユーリが王宮を訪れなくなった後に、何故ユーリが王宮に来なくなったのかを聞きに来た」


「エドワード王太子は陛下の言い分にご納得されていましたか?」


痛いところを突かれたギルロイは言いよどむ。

「・・・いや・・・納得はしていなかった・・・」


「では、ユーリが魔法を使えるようになったからと王太子妃候補にというのは如何なものかと私は思うのですが?」


(むむぅ・・・アロルドめ・・・痛いところをついてきよる・・・しかし、どこかで聞いたような事を言っているな・・・)


その時、執務室の扉がノックされた。

侍従に呼びに行かせたセリスとミレイがきたのだ。

入室を許可すると、アロルドとギルロイの間に流れるピリピリした雰囲気を察したのか、セリスとミレイは顔を見合わせ首を傾げた。


「お待たせいたしました。陛下いかがいたしました?」


「いや・・・何でもない。早速だが話しを始めたいのだが」

ギルロイはアロルドからの追求をかわすためと、ミレイとセリスからの援護を期待して話しを逸らした。

そんな様子をアロルドは胡乱下げな眼差しで見ていた。


「陛下、まずはユーリの属性についてなのですが・・・」


「うむ。謁見の間では先日の王妃からの手紙に書かれていたように3属性としていたな。実際はどうだったのだ?」


アロルドとセリスは言いよどむ。

「・・・・・・ユーリは『全能者』です。特殊属性の魔法を行使するのを確認しました」


ギルロイは瞠目した。

(『全能者』だと!?アロルドめ・・・なぜ先ほどは言わなかったのだ)


「そうか・・・では、ユーリを神殿から保護するためにも王太子妃候補として・・・」


そこまでギルロイが言うとミレイから待ったが入った。

「お待ちください陛下。確かにユーリを保護するには王太子妃候補とするのが手っ取り早いでしょう。ですが、ユーリにはまだ王太子候補復帰の打診をしていないのですよ?」


「公爵夫妻が了承すれば問題はなかろう?」

するとミレイは黒オーラを発した。


「陛下?本当にそのようにお考えですか?先日私が言った事を全くご理解頂けていないようですわね?」


ギルロイはその時になってようやく自分の失策に思い至った。

先日ミレイから言われた事と同じ事をアロルドが言っていた。

エドワードの気持ちは聞いたがユーリの気持ちを聞いていなかったのだ。


「あ・・・いや・・・悪かった。そうだな、まずはユーリの気持ちを確認しないとな。エドワードはユーリを王太子妃に迎えたいを言っている。アロルド、セリス。ユーリに王太子妃候補復帰について話してくれるか?できれば色よい返事をもらえると有難いが」


「本日、屋敷に戻ってから本人に聞いてみましょう。ですが、私は先ほども言ったようにユーリに重責を負わせたくないのです。」


「わかっておる。ユーリの気持ちを第一に考えよう」


「わかりました。神殿対策については明日以降でもよろしいでしょうか?」


「そうだな。とりあえず神殿の動向を探らせておく」


「ありがとうございます。ユーリの気持ちを確認するまではエドワード王太子にはユーリが『全能者』である事を伝えないで頂きたいのですが」


「なぜだ?話しても問題はないと思うが?」


「ユーリが『全能者』である事を知る人間を最小限にしたいからです。ユーリが王太子妃候補復帰を了承したならば、その時にお話しください」


「わかった。ではそのように取り計らおう。ミレイもエドワードには伝えないようにな。もし聞かれたらユーリの気持ちを確認してから話すと言っておいてくれ」


「わかりましたわ」



こうしてユーリが知らないところで状況は刻一刻と変化していった。

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