兄として
俺には妹と弟が1人づついる。
弟のジェラル魔法騎士を目指して毎日の修錬をかかさない。
まぁ、見た目が母に似ているため、12歳の弟は美少女にしか見えないのが本人の密かな悩みだという事は周知の事実だ。
妹はまぁ・・身贔屓だと言われるかもしれないが、将来絶世の美女になると思わせる弟以上の美少女だ。
翌年に控えるデビュタントのエスコートは俺だろう。
父様は母様のエスコートだし、弟はまだ社交界に参加できる年齢ではない。
幸い(?)俺にはまだ婚約者がいないからな!
そんな妹は7年前のある日、王宮から帰ってくると酷く落ち込んでいた。
従兄でもあるエドワード王太子に会いに行くのだと、とても嬉しそうに朝、王宮へ出かけて行ったのに。
帰ってきてからしばらくの間は部屋に引き籠っていた。
当時のユーリは王太子妃候補の筆頭だったのに、いつの間にか候補から外されていて、王宮へ行く事もなくなった。
それに魔法が使えなくてずっと悩んでいたのを屋敷にいる人間はみんな知っている。
一昨日、ユーリが馬車で湖畔の別邸に向かう途中、盗賊に襲われた。
幸い、御者のアレスが盗賊達を振り切って、屋敷まで戻ってきた。
馬車の中でユーリは壁に頭をぶつけたらしく意識を失っていた。
あの時は本当に肝が冷えた・・・
あれ程、俺たちが護衛騎士を連れて行くように言ったのに!!
アレスとミーナから盗賊に遭遇した地点を聞きだし、すぐに騎士団本部へ連絡させた。
もちろん、公爵家の護衛騎士たちも向かわせた。
夕刻には盗賊達を全て捕らえたと報告を受けた。
これでユーリが別邸へ行く際の危険は取り除かれたな!
次の日、父様から訓練場へ来るよう言われて向かってみると、訓練場の中央にはユーリが立っていた。
昨日、ユーリが気づいた後、魔法が使えるようになったそうだ。
今日、ユーリがどの属性なのか確認したいと両親にお願いしたそうだ。
『カキュウ』と唱えると火の球がユーリの目の前に浮いていた。
「「っ!!」」母様と弟は息を呑んだ。
俺と父様も驚きに目を見張った。それ程の衝撃だった。
(昨日まで全く使えなかったし、父様はユーリに魔法の勉強はさせていなかったのに・・・何故いきなり現象を起こせるんだ?)
俺とジェラルでさえ、現象を起こせるようになるのに半年位はかかっていたのに・・・
その後、ユーリは全部で5種類の属性魔法を使ってみせた。
ユーリが部屋に戻った後、俺は父様の書斎を訪ねた。
書斎の扉をノックするとすぐに返事が返ってきたので中へ入る。
「失礼します。父様」
「ユージーン・・・よく来たな。まぁ座りなさい。」
俺は父様の向かいの椅子に腰掛けた。
「・・・ユージーン、今日のユーリの魔法を見たな?」
「・・・はい。父様、ユーリは今まで魔法の勉強は一切していなかったのですよね?」
「あぁ。今までは一般教養と淑女教育しかしていない。」
「では何故いきなり魔法を使って、その上現象を起こせたのでしょうか?」
「・・・わからん・・・昨夜、ミーナが慌てて呼びに来て、ユーリの部屋へ行ったら『魔法が使えるようになった』と言われたんだ。」
「・・・まさかとは思いますが、昨日ユーリが馬車の中で頭をぶつけた事がきっかけ・・・って事はないですか?」
「その可能性はあるが・・・まぁ、何が原因かは後でも良い。それよりもユーリが多属性持ちという事の方が問題だ。王宮側・・・というより陛下からユーリを王太子妃候補にと申し入れがあるかもしれん・・・」
ユージーンは眉を顰めて昔のことを思い出していた。
ユーリが酷く落ち込んで王宮から帰ってきた7年前のあの日を。
あの日、俺は父様が帰ってきてすぐにユーリに何があったのかを聞いた。
『陛下よりユーリの王宮への出入りを差し控えさせるよう指示を受けた。あと、王太子妃候補からも外すと』
『はぁっ!?なぜ急にそんな事になったのです!?』
『ユーリは魔法が使えないからな。属性も魔力の有無もわからないのでは王族として迎え入れる事はできないと言われた』
俺は不思議に思った。
それだけでユーリがあそこまで落ち込むだろうか?と。
部屋から出てくるようになってからは、以前と同じ明るい妹に戻ったが、ふと気づくと、とても寂しそうな目をしている事があった。
もっとも、ここ2~3年はそんな事もなくなったが・・・
ユーリの属性に驚いた翌日の晩餐の時、何故か父様と目を合わさず不機嫌なユーリと、視線を彷徨わせる挙動不審な父様。
(一体、何があった?)
疑問に思ったがあえて口にせずスルーした。
下手に口出しすると母様が怖いからな・・・
ようやく父様が口を開いたと思ったら、なぜか明日ユーリの属性確認を再度行うという。
更に、全員に話しがあるのでサロンで待つよう言われた。
食後のお茶はサロンでとる事になったので、両親より一足先に子供達だけで移動する。
ようやくサロンに顔を出した両親だが、その表情は対象的だった。
にこやかな母とこの世の終わりが来たような顔をした父。
(本当に一体何なんだ?)
家族全員の前に紅茶が入ったカップが置かれると、使用人達は全員サロンから出て行ってしまった。
家族だけになると、父様が早速話し始めた。
話しの内容については呆れ半分、驚き半分といったところか?
何に呆れたかって?
それはもちろん父様がユーリに来た縁談を本人に内緒で全て断っていたって事!しかも、今後はユーリに聞いてから断るとか言ってるし・・・父様・・・何で断るのが前提なんだよ!
まぁ・・・父様としてはずっとユーリを手元においておきたいからなんだろうなぁ・・・
ふと横を見るとジェラルも俺と同じような遠い目をしているし・・・
更に驚いたのは、ユーリが確認が取れている5属性以外の属性魔法が使えるかもしれないって事だ。だから父様は明日、再度確認すると言っていたのか・・・
他の属性って・・・まさか・・・伝承や神話の中にしか出てこない『特殊属性』も使える可能性があるって事か?
(・・・ん?待てよ・・・他の属性3種類と特殊属性が使えるって事になった場合、ユーリは『全能者』だって事か?)
その事に思い至り、俺は一気に血の気が引いた。
(でも・・・『全能者』だろうが『多属性持ち』だろうが、俺達家族全員でユーリを守ってやれば良い。公爵家の後継として、何より兄としてかわいい妹を守らなければ!!)
俺はそう心に決めた。
そんな俺の様子を両親は満足そうな笑顔を浮かべて見ていた。




