父の苦悩 その2(ギルロイの場合)
アロルドが胃を痛くしている同時刻、国王ギルロイはミレイ王妃とエドワード王太子を前に盛大に冷や汗をかいていた。
ユーリの件をどの様に切り出せば良いのか考えあぐねていたのだ。
人払いをして3人だけになった部屋でミレイもエドワードも一言も発しない。
その事がギルロイにプレッシャーをかけている。
数十分後、沈黙に耐えられなくなったミレイが盛大な溜息をついた。
「・・・陛下?何かお話しがあるからエドワードをお呼びになったのでは?」
ちらりとエドワードを見ると無表情でこちらを見ている。
(・・・怖い・・・怖いぞ息子よ!!)
ギルロイは口を開いては閉じるを繰り返し、言葉を発せないでいる。
そんな状態のギルロイを見て、ミレイは埒が明かないと思い自分から話しをしようと思った。
「エドワード、あなたにお話しがあり来てもらいました。」
「はい。何でしょうか?母上」
2人はギルロイを無視して話し始めてしまった。
ミレイは公爵夫人セリスから来た手紙をエドワードに渡して読むように促す。
手紙を読み進めるエドワードの顔色がどんどん悪くなっていく。
(何だ?あの手紙には一体何が書かれている?)
ギルロイは手紙の内容を知らない。日中、ミレイと話し終えた後に来た手紙なのだから当たり前だが・・・
手紙を読み終えたエドワードはミレイに問う。
「この内容は間違いないのですか?」
「今のところは。とだけ言っておきましょう。確認が取れ次第こちらにも連絡するようお願いはしてありますから。」
1人蚊帳の外に置かれていたギルロイは恐る恐る2人に尋ねる。
「ミレイ・・・エドワード・・・その手紙は一体・・・?」
「あら陛下。お知りになりたいのですか?」
クスクスと笑いながらミレイは意地悪く言う。
「・・・・・・」ギルロイは気まずそうに目を逸らした。
「ハーバリー公爵夫人セリス様からのお手紙ですわ。ユーリの事について書かれています。」
「?ユーリの事についてか?」
「えぇ。確定した内容ではないのですが・・・ユーリは『全能者』の可能性があると・・・」
「っ!?それは真か?」
「はい。セリス様がユーリと話したそうですわ。その時にユーリが『試した属性以外も使えそうだ』と言っていたそうです。他の属性が使えるかどうかは確認をすると。結果については後日、知らせるよう返事をしてありますわ。」
「そうか・・・エドワード、ユーリの王宮への出入りを許可してそなたの妃候補に加えようと思うがどうだ?」
ギルロイは意を決して尋ねた。
「僕はユーリを王太子妃に・・・妃に迎えたいです。ですが、この事をハーバリー公爵は了承するでしょうか?」
さらっと毒を含ませるエドワード。微笑みを浮かべているが目が笑っていなかった。
「アロルドについては、私の方から話しをしよう。もし、ユーリが『全能者』だった場合だが・・・神殿が黙っていない可能性が高いぞ。それでもそなたの気持ちは変わらないと思って良いのだな?」
「はい。必ずユーリを守るとお約束します。」
ギルロイは頷くと、ミレイにセリス宛にユーリとアロルドにエドワードの気持ちを確認した事。その上で再度、王太子妃候補としたい旨を伝えて欲しいと手紙を認めるようお願いする。
ミレイはとても良い笑顔で頷き
「わかりましたわ。早速、明日の朝手紙を届けさせます。」と請け負った。
ハーバリー公爵家への対応はミレイが請け負ってくれた。
エドワードの気持ちも確認した。
あとは国内の貴族達と神殿の対策だ。
貴族達へはユーリが3属性の魔法が使える事が確認できたからと言えば何とかなるだろう。
しかし、神殿対策はどうするか決めかねていた。
不可侵を貫いているからこそ、こちらからアクションを起こせない。
しかし、何かの拍子にユーリの属性について知られた場合に何も対策を講じていないのではお話しにならない。
(とりあえず神殿対策は、後日アロルドと話し合えば良いか・・・)
エドワードを自室へ下がらせ、ミレイと2人だけになる。
ギルロイはまずミレイにお礼を言った。
「先ほどはありがとう。どう話しを切り出せば良いのか分からなかったから助かった。」
「礼には及びませんわ。あのままではいつまでたっても話しが出来ないと思いましたし、私もいい加減飽きてきた所でしたから。」
ミレイもさらっと毒を含ませる。
「しかし『全能者』か・・・多属性持ちは今までにもいたが、特殊属性なんて使える者は伝承や神話にしか出てこないが・・・」
「そうですわね・・・現在、確認が取れている属性数だけでもこれから先、様々な騒動を招きかねないですからねぇ・・・」
ギルロイは頭痛を堪えてミレイに聞いた。
「そういえば・・・あの手紙には何が書いてあったのだ?」
ミレイは微笑んだが目が笑っていなかった。更に黒オーラを纏う。
ギルロイは一気に汗が噴き出すのを感じた。
どうやら自ら墓穴を掘ってしまったようだ。
「ユーリが『全能者』である可能性がある事と、再度属性の確認を行う事。あとはアロルド殿がユーリに内緒で縁談を全て握り潰している事を本人に伝えたらとても怒っていたと。」
「そ・・・そうか・・・ところでミレイよ・・・何に怒っているのだ?」
ギルロイはようやくそう口にした。
ミレイは黒オーラを5割り増しにして笑みを深めた。
「陛下は先ほど、エドワードの気持ちをお聞きになりましたわよね?」
「あ・・・あぁ」
「7年前、陛下がアロルド殿にユーリが王宮に出入りするのを差し控えるよう指示を出したその日、エドワードはユーリと会っていたそうです。その時にユーリはエドワードに『エド兄様のお嫁さんになる』と告白したそうですわ。・・・もっとも?不甲斐ない事にエドワードは照れ隠しにそっけない態度をとってしまったそうですが。」
その時になってようやくギルロイはエドワードにユーリへ王宮への出入りを差し控えるよう指示を出したと言った時、中々納得しなかった理由に思い至った。
ユーリから告白を受けた時に、エドワードの気持ちは既に決まっていたのだ。
属性確認後にアロルドへユーリに王太子妃候補復帰について話さなければならない事と一筋縄では了承を得られないだろう事を考えると胃が痛くなる国王ギルロイだった。




