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父の苦悩 その1(アロルドの場合)

陛下へユーリの事を報告し、宰相としての執務を終え王宮から公爵邸へと帰ってくると使用人と共に不機嫌な様子の愛娘が出迎えてくれた。

何があったのかとユーリに訊ねると、ずっと秘密にしていた縁談について教えてもらったと聞かされて血の気が一気に引いた。

アロルドの顔色は青を通り越して白かった。


「父様?私にきた縁談を全て内緒で断っているって聞いたのだけど・・・それは本当の事なのですか?」


「っ!?ユーリなぜその事をお前が知っているんだ?」


「私がユーリに教えました。かわいい娘を手放したくないからって内緒で縁談を握り潰すのはどうかと常々思っていましたの。」

少し遅れてセリスがエントランスに姿を現した。


「セリス・・・なぜ教えてしまったんだ?」


「おかしなことをおっしゃいますわ。あなたは娘が幸せになるのがイヤなのですか?ユーリが魔法を使えなかったがためにずっと色々と悩んでいたのですよ?」


返す言葉もなく公爵は口をつぐんだ。

両親のやり取りを黙って見ていたユーリはアロルドに


「本当だったのね・・・父様最っ低!!大っ嫌いよ!」

そう言って自室へと駆けていった。

娘の後姿を呆然と見送っていたアロルドはセリスから声をかけられるまで立ち尽くしていた。


「あなた。とりあえずお部屋へ。ユーリの事で大切なお話がありますの。」


「わかった。今後の事について考えなければならないだろうしな・・・」


部屋に入ると早速、日中セリスがユーリと話した内容を語り始めたが、何故かイライラとしていて少々八つ当たりともとれるセリスの様子に若干引きつつ話しを聞いていた。


落ち着き始めたセリスが衝撃の一言を発した。


『ユーリは全能者である可能性があります』


あまりの内容に思考が止まってしまった。というより脳が理解する事を拒んでいるようだ。


「・・・はぁ?ユーリが『全能者』かもしれない?5属性だけじゃないって事なのか?」


「はい。ユーリが言うには昨日確認できた属性以外も使えそうだと・・・今後の事を考えると確認して対策を立てた方が良いと思いますわ。」


「そうだな・・・特に神殿対策は必須だからな。」


セリスは続いて王妃とやり取りした手紙について言及した。


「貴族達にはユーリの属性は3種類だと伝えると。あと、属性数は確認が取れたら必ず教えて欲しいとも・・・」


アロルドは深い溜息をついて頷いた。

「そうだな。まずは属性の確認をしなければな・・・多属性持ちなのか全能者なのかで周囲の騒がしさが変わるからな。」


「それと・・・王太子殿下の気持ちを確認してからになるそうですが、王太子妃候補への復帰についても・・・」


アロルドは眉を顰めた。

「今更か?7年前、陛下からの指示で王宮から距離を取らせたのに。」


セリスはクスクスと笑いながら、幼かったユーリの恋心をアロルドに教えた。

「ユーリは昔、エドワード王太子に告白した事があるそうですよ?『エド兄様のお嫁さんになる~』と言ったそうですわ。」


まだエドワード王太子とユーリを結婚させる事を諦めていなかったのか・・・とアロルドは頭を抱えたくなった。


「もっとも、ユーリが今エドワード王太子に対してどう思っているのかまでは聞いてませんわ。王妃からの手紙の内容について、ユーリに伝えるのかの判断はあなたにお任せしますわ。あと、エドワード王太子をどう思っているかも聞いて下さいね?」


妻・セリスの爆弾発言にアロルドは固まった。


(ユーリのあの状態を見た後でそんな事を言うなんて・・・鬼だ・・・今まで来た縁談を勝手に断った事に対して怒っているな・・・もの凄く・・・)


セリスはアロルドの様子を見て少しだけ溜飲を下げた。





晩餐の席でユーリは一切アロルドと目を合わせる事はなかった。

(こんな状態でどう話しを切り出せば・・・)


「あ~・・・ユーリ?明日もう一度お前の魔法属性を確認したいんだが・・・」


「・・・・・・」


「ユーリ?聞いているのか?」


「・・・・・・聞いておりますわ父様。」

しばしの沈黙の後、ようやく返事をしてくれた事に安堵した。


「では、明日使える属性を全て確認する。良いな?」


「・・・・・・。父様?そんな事よりも、私に言う事があるのではないの?」


「あ・・・あぁ・・・。その事だがな、後で話したいと思うのだが・・・。」


「・・・わかりました。後ほどお部屋へ伺えばよろしいですか?それともサロンでお待ちしますか?」


「そうだな・・・サロンで待っていてくれ。ユージーン、それにジェラルお前たちもだ。」


「「えっ!?僕たちもですか?」」


「あぁ。詳しい事はその時に話す。」


「「わかりました。ではサロンで待っています。」」


晩餐後、サロンに移動する子供達をセリスと共に見送った。


アロルドは重い足取りでサロンに向かう。入口の扉の前で深呼吸して覚悟を決める。


「・・・あなた?子供達に話しをするだけなのに、何故この世の終わりが来たような顔をしているのです?」


「そんな顔をしているか?」


「えぇ。そのような顔では子供達が緊張してしまいますわよ?」


クスクスと笑うセリスを見て、アロルドは緊張の糸が解れていくのを感じた。

再度、深呼吸してサロンにセリスと共に入る。

サロンには子供達が揃って待っていた。


「みんな揃っているな。まずはユーリ・・・今までお前に黙って縁談を断って悪かった。」


「もう、私に内緒で縁談を断ったりしないでね?」


「あぁ約束しよう。今後は必ずユーリに聞いてから断ろう。」


「「父様・・・勝手に来た縁談を本人に内緒で断ってたんだ・・・しかも断るのが前提って・・・」」

息子2人はボソリと呟いた。


これから話す内容を考えると胃が痛くなるハーバリー公爵アロルドだった。

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