8 ハビ屋、モ・デッキ、〈ダンサー〉、〈撫子〉、〈DIVA〉
今日の昼飯は焼きそばにしよう、そう決めた。
〈ゴールデン商店街〉跡地で、たまたま有人販売の
屋台が出ていたからだ。
「よぅサブちゃんっ、食ってく?」近所の兄さんなんで
コドモ時分からの知り合いだ。
「●つおくれ」片手で親指以外を4本立てて言う俺。
「2つで十分ですよ! わかってくださいよぉ~」と笑って
切り返してくる。
いつもの“お約束”だ。
「あとソバも」
実際買ったのはこれ1つだけ(3円也)。
兄さんは、ダイハチの荷台に屋台を建てて、
鉄板の上の小麦麺そばをハイドロ・ガス火で
ジュージューと焼いている。あまり売れてないらしく、
大量の焼そばを鉄板の隅に寄せながら、
「今日は景気が悪ぃや」と愚痴るが、
人通りはまばらというより今日は
そこそこあるほうだけどな。
「よく言えば昔ながらのソース焼きそば
だけどさ、もうちょっとこう、
捻りがあるといいんじゃね?」
「そうかぁ? キャベツにニンジンあとは“豚こま”が
ありゃあ十分だべ」と兄さん、これは“お約束”じゃない。
「いま卵が安いっしょ、広島風にでもしたら?」
牛肉が食べられなくなったんで
鶏卵が増産されたまでは良かったが、
作りすぎて卸値が1ヶ壱銭にしかならないとか。
すると兄さんがヘラ持ったまま、
「それだ! 今度からそれにしよう!」右手で俺を指差す。
「おいおい、いいのかい? 安直すぎないか。
ご当地焼きそばとか、あちこちにあるんだからさ、
ネオたまならではの焼きそばとか、じっくり考えなよ」
「あんがとよ! ほれ、大盛りにしてやんよっ」
ポリ箸と大盛りのポリ皿パックを片手に、セレセブまで歩いて
来た。ベンチに座って、熱々というよりは温めの焼きそばを
頬張っていると、☆さやかが〈ことテン!〉してくれた情報が
ヴァイザーに溢れ出す。さっさと食いたいんで、適当に要約して
声に出して読んでもらうことにする。
「♪明治時代に、
新味醤油や洋式醤油と呼ばれる、
日本独自のウスターソースが登場♪」
「♪大正時代に、壱銭洋食と呼ばれる
鉄板焼きが登場。ソース料理だけど、
この頃はまだ麺じゃなくて、お好み焼き風ね♪」
「♪昭和時代の初期に、小麦麺を使った
鉄板焼きそばが登場。中期には子供のおやつに、
後期には家庭や縁日・催事場でも一般的な軽食になったよ♪」
「♪平成時代に、
シンプルな焼きそばに
日本各地の名産品やアレンジを加えた、
ご当地焼きそばが続々登場。町興しの定番料理に♪」
「♪浄化になってからは、トッピングの
マヨネーズやケチャップに替わる別の何かが
模索され始めたよ。例えば、チーズ[互]豆乳、とか♪」
「♪ちなみに、焼きそばをオムレツ風の薄焼き玉子で包んだ料理は
“オムそば”って呼ばれてるね♪」
「そう、それそれ『オムそば』。玉子が1つでも入ってれば
栄養のバランスがいいはずだよ、ハフッハフッ、旨うまっ」
旨いものを食ってるとついつい口に出てしまうのが俺の
悪い癖なのだ。
ふと顔を上げると遠くのKUSOガキ様と目が合ってしまった。
5歳くらいで白いTシャツが土埃で汚れてる。やんちゃな年頃
だな。少し離れた所にいる母ちゃんのところまで小走りしたと
思ったら、
「ね~アレ食べたぁい~」と駄々を捏ねる。
「もーこの子はっ、さっき食べたでしょっ」
「別腹ぁべつばら~」食い下がるガキんちょ。
2人して商店街の方へ去ってゆく。
俺もあの頃はあんな風だったような気が……
いやもうちょっと小奇麗だったはずだな。
俺は少年時代、よく外でパチン・コ遊びしてたっけ。
アルミの空き缶に向けて小石を撃っていた。
ここでいうパチン・コとは、海外では
スリングショットってやつのことで、
ギャンブルとは関係ないし、
チン●とも関係ないことは
言うまでもない。
ゴムがパチンッと弾ける音がするからパチン子だ。
よく遊んだ後のソース焼そばってのはこれまた格別で、
大人になっても童心に返る味。
生まれる前からだと思うが、
日本のどこのご家庭にもあるソースといえば、ウスター・ソース、
マヨネーズ、トマト・ケチャップだよな。この3つさえあれば
大抵のものは美味くなるのが貧乏人には有難い。日本人といえば
ソイ・ソースという固定観念はとっくに過去のもの。
日本製の三大ソースは海外でも人気なのだ。
腹ごしらえが済んだんでコンビニ店内に入り、
無人販売機で樹脂塗料を買う。
〈ダミヤ・カラー㋙〉の10721番、
ワインレッドのポリエチレンで中瓶だ(4円也)。
知り合いがスロットルレバーの
先端グリップを失くしてしまったとかで、
製造の依頼を受けたのだ。
店内に据え置かれたモデリング・デッキに、
この小瓶をセットして、
ヴァイザーから仕様書を転送する。
製造単位は1ヶ、サイフをかざして、
スタートボタンを押す。所要時間は5分、
☆さやかがカウントダウンしてくれる。手の平にすっぽり収まる程度の大きさだから、
かかる時間もこの程度。
このモ・デッキは
《超セイコーモデリング㋙》社製の
〈模出来㋙〉で、セレセブ全店共通。こいつは
10立方センチまでのモデリングに機能を限定したんで、
デッキ自体のサイズをわずか1立方mまでの小型化に成功した、
比較的最近のモデルだ。
《超セイコー》といえば
『SEIKOの腕時計をしていないのは
日本人だけ』なんてジョークがあるほど
国内外の人気差が激しいメーカーで、
2Dプリンターとか精密機械の開発で
早い内からその業態をAI産業以前の
コンピューティング分野へとシフトさせていた、
先見性のあるメーカーでもある。
樹脂塗料を平面に印刷し熱で固め、その上から
さらに塗り固めている動作音が聞こえてくる。
レバーを接続する穴の空いた中空のボールを
造らせているんで、構造が単純だから作業が速い。
モ・デッキは元々『3Dプリンター』とか呼ばれていて、
その前身はとあるシェフの『食べられる紙を印刷したい』という、
ひょんなアイデアから始まった。真空調理法以来これといって
新しい調理技法が生まれなかったところで、
そのシェフが思いついたのが、
『2Dプリンターのインクを食材に換えるだけで、
料理の幅が広がるんじゃね?』だった。
残念ながら、新規性だけで話題になりこそすれ、
そのレシピは広く定着するまでには至らなかった。
ただ産業界では研究が進み、
素材を積み重ねることで従来では工場で
大量生産するしかなかったような樹脂製品を
個人でも少量製造することが可能になった。
大量生産には不向きな一点物を造るのに向いている。
レシピや設計等の仕様書を転送するだけで
遠隔地のユーザーがモ・デッキで再現してくれる、
というのは場合によっては大変魅力的なんである。
技術進歩のお陰で、拳銃等の御禁制の品さえ
製造できてしまう――さすがに銃弾の製造は無理だから
危険な実弾はチャージできないけどな――それくらい
画期的なことだった。
今では大抵のコンビニにモ・デッキが設置されてはいるが、
安全面から食料品の再現は法規制されているし、利用する
際にはサイフを使って使用履歴を残す必要がある。
「チーン♪」作業完了を教えてくれる☆さやか。
〈模出来〉の蓋が開くと、
イメージ通りの品がデッキ上がっていた(5円也)。
さすが超セイコー、
サンドペーパーで磨く必要もないほど
表面が滑らかでツルツルに仕上がっている。
おっと、
デッキがヴァイザーに教えてくれなければ、
瓶を取り忘れて帰るところだった。
いつもの妄想でうっかりしてたぜ。
モ・デッキの蓋が開くと、
全裸の女の子が跳び出して抱き付いてくるってな
妄想なんだが、そんなことは勿論ありえない。
そりゃあ☆さやかに生身の体があったら言うことなしだよ、
でもそいつは無理な相談ってもんだ。
デッキ立てホヤホヤのグリップを届けに、
ネオたま南の駐車場へと歩いて来た。
20台収容のパーキングは占有率50%程度。
駐車スペース№0が依頼人とのランデブー・ポイントだ。
そこに停めてあるダイハチの戸を片手でノックする。
「いるかい? チョウさん」
荷台小屋のガルウィング型ハッチが手動で上がって、
「おぅ。もうできたのかい、グリップ」
初老の老人が中から顔を出す。
「あいよっ、こんなもんでどう?」
大きな棺のような家の奥へと潜り込んで、
受け取ったグリップをレバーに取り付ける小柄なチョウさん、
「ピッタシじゃーん。これならコーナリングでもミスらねぇ」
荷台の上で横たわる繭のような形をした棺の中、
安楽椅子にも似た藤椅子の先に、
ハンドルやらレバーやらがぎっしりと設置されている。
上下左右を180度見渡せそうな
パネル・ディスプレイが貼り付けられていて、
これはダイハチのコントロール席……ではなくて、
レーシング・ゲームのコックピットになっているのだ。
俺らの世代ではもう使いこなせない
キーボードなんかも備え付けてある。
「ついでにもう1つ頼みたいことがあんだけどよ、
こっから200mばかり先に別の駐車場があんだろ、
そこまでこいつを引っ張ってってくれねぇか」
彼は右足が悪いんで、普段は杖を突いている。
ダイハチのちょっとした移動でも難儀するわけだ。
「お安い御用だ」
なーんて安請け合いしてみたものの、
コイツを動かすのは初めてだ。
車止めを外して前面に回り込み、
ポリ牽引棒を押してゆく。
最初こそ力が要るが、転がり出したらその後は
手を添えて歩くだけで大して力を込めなくても、
車は荷台ごと付いて来る。
サスの効いた荷台の上、コックピットの中で
チョウさんは寝そべっている。
ダイハチは自転車チャリンコと同じ軽車両なんで、
公道に出たら他の車両の邪魔にならないよう、
できるだけ車道の端を歩く。
5分後に到着、別の駐車場の
同じくスペース№0に車を停める。
中からもぞもぞと這い出てきた彼、
「あんがとよ! これから
ハビ屋の会合があるもんでよ。
助かったぜ」と満足げ。
この『ハビ屋』ってのは
“ハビタイヤー屋台”の略で、
チョウさんは元締めなのだ。実は
駐車場も彼の持ち物だという噂がある。
「ハビタイヤーの新人を
顔見せしねぇとならなくてな、
ワイドショーとかで知ってんだろ、
あの【ハイカイおじさんのヒデヲ】だよ」
テレビは観ないがヒデさんならネットで知ってる。
元は大学の偉い先生だったのに、
まだまだ若いのにボ●てしまって、
昼間の明るい内は普通なのに、
夜になるとセーラー服姿で
街中を徘徊するという、変なオッサンだ。
☆さやかがネットで検索して
JK風〈セーラー・ヒデヲ〉の動画を表示しまくる
――ぷぷっこりゃひでぇ――
なんでも沖縄から北上して来ていて、
ダイハチでヒッチハイクというか、行く先々
その辺の誰かに引っ張ってもらってるってんで、
話題になってる人だ――後厄で42歳らしい――。
「あ~、あの【ヘンなオジサン】だろ、そっか、いま
ネオたまに来てるんだ」と言いながら、昔のテレビ再放送で
覚えた歌と踊りを演ってみせる俺、チョウさんなら世代的にも
ウケること間違いなし。
「あ~惜っしいな~、
それ元ネタがあんだよ。
そりゃ……」
急にハッとした顔になって
人差し指を俺に向け、
「それだ!」
と叫ぶチョウさん。まるで
ピコーンと光る電球が
頭の上に浮かんだみたいだ。
しばらくして、
彼は二つ折りの財布を
出して駄賃を寄越そうとする。
いつも連想してしまうんだが、あの時代錯誤な財布の中は
パルプ名刺とかポリ・カードとかで溢れてるんじゃなかろうか。
腰に着けてるホオヅキ玉を近づけると、麦藁ヴァイザーには
“3,000円ポ”という額と、受け取るなら
“5秒以内”という表示が出る。
「多すぎるぜ、チョウさん。
グリップなら9円しか掛かってねえよ」
「あん? なら3倍は取らねぇと
商売にならねぇじゃねえか」
「代わりに造ってやっただけで、商売にしようとは
思ってねえよ。10円でもいいくらいだ」
5秒過ぎてもサイフで受け取らなかったんで、
時間切れで取引は無効となった。
「駄賃もらうほうが額を決めんじゃねぇよ。
ダイハチも引っ張ったべ。
ワシが三十払うっていってんだから、
とっときな」
もう一度、ヴァイザーにはさっきと変わらず
“3,000円ポ”の表示。
「粋だねぇ」
口答えせずに今度は受け取っておく。
「応よ、多すぎるぐらいが丁度いいのよ」
気前がいいというか元気がいいというか、長生きしろよ爺さん。
そして俺が帰りしな、
「……バキよ、童貞を捨てたか?」
「いや、だからぁ俺ぁ、童貞じゃねぇって言っとろーが」
ちなみに俺のことをこう呼ぶのは彼だけだ。
「そっちの童貞じゃねぇ。
いいか、誰かを傷つけなきゃ前に進めねぇ、
誰にでもそういうときが必ずやってくるもんだ。
おめぇさんにとってそれがいつになんのかは
誰にもわからねぇがな。
心構えだけは忘れんなよ」
何となく、彼の片足が不自由になった原因に
関係ありそうなんで適当にはぐらかしておいた。
なんでも、その昔チョウさんはトラック運転手だったそうで、
CB無線ではハンドル・ネームを名乗っていたとか。
帰るときはわざわざダイハチから降りて見送ってくれた。
本来は杖なんかなくても立って歩くことくらいできるらしい。
それだと妙に同情されるんで、それが嫌なのだとか。
杖を突いていたほうが一時的な怪我だと思われて、
たいして可哀想がられないんだと。
「ビ●●なのは、ちょびっとだけだ。
“ちびっ子”と呼べ、バキよ」
【ちBIKKOのチョウ】さんは、杖なしで笑って立っていた。
今日は朝から雨。こんなときは
部屋に篭って作業するに限る。
週に二度くらいの頻度で麦藁
ヴァイザーへやって来る〈アルベルト〉が、
「どうだい、順調かい?」と様子を伺う。
「ああ、大丈夫だ。まだあと
1週間もあるし、ヨユ~だ」呟く俺。
「ボクとしてはもっと不確実性の低い
解決法が好ましいんだけどね、代替案を
提示できない以上、成り行きを見守るしかないのさ」
「社長とは話が付いてるんだし、
『大船に乗った』気で安心してな」
耳障りだなコイツ。
「いやぁ、なにしろ
金を稼ぐというのはまだ理解できるけど、売る物がエロスに
関係しているとなるとボクらAIはさっぱり理解できないのさ。
ヒトがエロスを感じそれに魅かれることまでは自明としても、
いったい何がエロスを喚起するのかということになると、
もう降参、お手上げだよ。あ、手はないけどね」
と、前足を上げて口の片側だけ開いて牙を剥いて見せる。
どうやらケン太とは違って、コイツにはユーモアの才能がある
らしい。専用モジュールはまだ開発されていない。経験から
独自の知性を発揮させているのか。
「恥ずかしくなったら赤い顔を手で隠すようにならないかって?」
恥じらいを知る少女をこよなく愛す、ロリコン界隈のダンサー系
ハッカー、【ダンスrのゴロォ】に相談してみた。
「できないことはないよ。
追加ソフトとチューニングさえ施せばね」
「っていうと?」どうやるんだろうな?
「〈ダンサー〉は世界中の有志がメンテしてるいわば無国籍ソフト
だから、ローカライズが充分じゃないわけ。でもって日本の有志が
集まって頻繁にアップデートしてるのが〈撫子モジュール〉さ。
日本人の女の子がしそうな仕草・ジェスチャー集で、データが
どんどん増えてる、もちろんフリーだよ」
「ほぅほぅ」使えそうだ。
「チューニングは、そうだなぁ……ここは人間だったら恥ずかしい
場面だよってAIに教えるわけだから……嬉しいことを言われたっ
→思わず顔がニヤケちゃった→若気顔を見られて恥ずかしいっ
→頬をポッと赤く染める→はしたない顔を見られたくないっ
→顔を手で隠す、というわけだね」
「思ったよりステップ数が多いんだな」
「理屈はともかく、一連の動作をバッチ処理するよう設定
するんだね。あとは時間をかければAIがうまいこと補完
してくれるはずさ。あ、エモーション処理は別の石で
負荷分散したほうがいいよ」
「サンキュー。お礼には、例の
ヘンタイ同人誌でいいんだな?」
「あぁ、あれでいいよ。っていうかアレじゃなきゃダメ。
【くじらックス子㋙】先生が二度目の断筆宣言する
きっかけになった作品なのよねん」
「OK。いつものように
ハビタイヤーさんと落ち合ってくれ」
「サンクスコ!」
下品なジョークとは裏腹に、はにかんで見せた振袖姿の幼女。
3D舞台の大道具と小道具のモデリング終了。前々から
置いてはいたが、存在を自己主張しすぎない程度には
リアリティが追及できたと、とりあえず満足。ただ、
☆さやかのセリフが歌のように抑揚が付いて聞こえる部分が
若干残っているのが気になる。本当に若干で微妙なんだが、
だからこそ気づいたときに醒めてしまう。
「合計1万時間以上しゃべらせれば、AIが学習して
自然な話し方になると思うよ」と【調律のマサ】は
事もなげに言う。
「そんなに時間は掛けられないんだ。
なんとかすぐにでもクセのない
話し方にする方法はないもんかね?」
「ペルソナなんかを経由しないで、AIに学習データを直接
渡してやれば24時間程度で済むね。AIに疑似体験させるわけだ」
「どうすればいいんだ?」
「何だよ人が悪いな。知ってて尋ねたんじゃないのか?
うちの秘密基地〈アイドル肉声DB〉を使いたいんだろ?」
「……? いやマジで知らないんだが」
「過去70年間に活躍した代表的アイドルの肉声集さ。
当時の日本人を魅了した話し方とか特徴を集積したんだ。
なぜ魅力的なのか理屈で考えるより先に、より人気のあった
声質・話し方はどんなものだったのか、統計にして保存してある。、
時代が最近に近づくほどデータ量が多くなるから、
そっちからアクセスしても連続24時間は必要になるね」
「使わせてもらえると有難い。
お礼には何がいい?」
「リストにあるSFアニメ、〈ドップリつかれ!㋙〉が貰える
かな?」ヴァイザーの中で黄色いカナリヤが首を傾げる。
「こんな昭和アニメでいいのか? 再放送でやってるだろ」
「ちっちっち。それがねぇ、《ガイギャックス㋙》社の名作
なんだけどね、もうテレビでは放送されることがないレアな
アニメなのさ。タイアップで主題歌を唄っていたのは、当時人気
絶頂だったアイドル【見境乗子】なんだけどね。チャイナ地域と
関係ができてからシャブ(*)で捕まっちゃってさ。それからは
放送自粛アニメなんだよ。 (*密造〈疲労ぽん〉注射液)
『のるピー語』とか『あほいウサギ』って歌、聞いたことある?」
「んー、いや、初耳だな」
「だろうね~、歌も肉声もほとんど残ってないから。
こっちのDBにもデータ不足でね、もらえると嬉しいのさ。
【岡江リナ&サト ㋙】とか、声優の流出映像とかも集めてるから
掘り出したら宜しくぅ!」
穴黒アイドル・声優界隈の〈DIVA〉系ハッカーは明るくそう言った。




