32 ニッポン、基地、船、潜水艦
月が変わって八月、ある日の昼下がり、
自室にて。棚を見つめる少年はライタ。
流線型のエンタープライズ号、
☆さやかとの思い出が詰まったポリ箱、
そして3万円と交換した、あのセラミックスの
ティーカップが並んでいる。
無名のアーティスト(自称)がデッチ上げた陶器、
その白いソーサーが表現しているのは
“みるく”クラウンの波紋。
ソーサーの周りの小さなミルク玉に囲まれて、
波紋から現れ出でるのは大きな大きな、白いカップ。
「家まで来たってことは、
《ゆるれん》に手を貸す仕事が
できたってことか?」
「いえ、今のところは何も」
「ねーのかよっ」
「今のところは、ですよ。これからは『猫の手も借りたくなる』
ほど忙しくなりそうなんです。それにあたって、あと1つだけ
伝えておかなければならない“真実”があります」
「なんだ、まだあったのか」
お腹いっぱいだぞ、もう。
「何か、違和感を覚えることはありませんか? そう、例えば……
文明・文化の発展に進展がない、技術革新や進歩が停滞している、
世界経済が低迷したまま、とか」座布団の上で正座して、なにやら
改まって訊いてくるライタ。
「なんだそりゃ、
ざっくりしてるな」
ん~、そうだな……
学校の授業で習った知識や報道で見聞きした事件等を順を追って
話す俺。まず、世界的な異常気象で水不足に陥り、食糧危機が発生
した。飲み水やH燃料重視の生活様式へと変わり、格差の拡大で
中間層が激減した。
日本では人口減となり、出生率の低下、慢性的な高齢化、
就労人口の減少が社会問題となっている。税収減に陥った政府は
福祉の予算を削減し、業績が悪化した企業は知財の権利主張や
囲い込み戦略を加速させた。技術革新は停滞し、訴求力のある
商品・サービスはおろか需要自体も創出されなくなっている。
創作物の二次利用は抑制されて、独創性さえも失われて、
文化の停滞を招いた。今ではメディア視聴に長い時間を割いている
のは、無料/格安な再放送目当てのガキどもと、惰性で観ている
だけのジジババ様となる。
“あいどる”の絶滅は、その余波を受けたという好例だ。
「だいたいメディアで喧伝されている通りのイメージですよね」
「悪かったな、受け売りで」
訊いておいて茶々入れんじゃねーよ。
「いえ、そうなるのは仕方のないことなんです。“真実”は別の
ところにあります。ニッポンの内と外に分けて説明しましょう。
コホンッ」咳払いして語り出すライタ、
「まず、異常気象が起きたから水不足や食糧危機が発生した
わけではありません。実際はその逆で、自国の水資源や農産物を
高値維持したかった国家や大企業がメディアにプロパガンダを
流して異常気象を演出したんです。飲料水は確かに貴重ですが
農産物だけに限ってみれば、生産性は飛躍的に向上していて、
世界全体で供給量が不足してなどいないんです」
ハァ? なに言ってんだ、コイツ?
「本当なんです。力士に四股を踏ませる地鎮祭も空しく、
日本では地震や津波続きで難民が続出しているのは確かですが、
海外ではそれほどまでの天災はありませんから。ただ、理由は
どうであれ融通してもらえないのであれば、輸入食糧に
頼りきっていたニッポンにとっては大問題でした。食糧自給率の
改善それ自体も課題ですが、そもそも国民の消費性向に問題が
ありました。世界各国からあらゆる品目の食料を輸入して
大量消費していたのが当時の日本人だったわけですから」
「まだウシが食用になっていた頃は、毎日のように肉を食べる人が
多かったそうですよ。自国の畜産で供給できる量を遥かに超えて
いましたから、消費されていたのはそのほとんどが輸入肉でした」
「肉を輸入するということは、その肉となる動物を飼育するのに
消費された現地の水を仮想的に輸入するということです。これには
飼料作物の栽培に使われた水も含まれます。同じ量の肉を国内で
生産しようとしたなら膨大な水資源がまず不可欠となりますから、
生活様式を変えざるをえなかった。大量の真水を確保しつつ、
肉類の大量消費から鶏卵・魚類や穀類等の分散消費へと
国民の消費性向を転換する必要があったんです」
「これはあまり良い喩えではありませんが、仮想水の事情は
クジラと重なる点があります。クジラがなぜあんなにも
大食いなのかといえば、餌から真水を吸収・生成してる
からなんです。カバやウシと近縁の哺乳類であるクジラが
真水を直接摂取する手段があったなら、あんなにも大食い
でなくてもいいはずなんです。哀しい生き物ですよ。
餌や体脂肪がなくなったら飢え死により先に、
海の中で脱水で干からびるしかないんですから。
海では繁栄できない種であることが
宿命付けられてしまっていますね。
オキアミや小魚の群れがいなくなったなら、
真水のために共食いするしかないでしょう」
どうやらKUSSO長い話になりそうだな。
せめて、3行ずつで宜ぉ~。
「次に、貧富の格差問題も似たようなものです。
富裕層の人間が自己の利益を最大化し続けた結果、
貧困層が拡大したというのが世界的な傾向です。
金融/資本市場の連鎖暴落から第三次世界恐慌も
引き起こされましたね」
「株式や為替相場の瞬間取引などに
原始的なAI・集団的稚性が濫用されていましたが、
『変造合成の誤謬状態』は今では国際的に違法となり、
過度な投機行動は逆にAIによって常時監視されています。
猛威を奮っていた“デリバティブ”ウィルスはほぼ根絶され、
賭博性の低い一部の保険商品等だけが共存可能とみなされて、
厳重に隔離されていますね」
「人類の自滅をAIに幇助させてしまうような、
『ヱイヅ(AIDZ)』、ヱイド自滅は今後も引き続き
未然に防がねばなりません」
「経済の低迷は、日本国民の生活すべてに波及しました。
結婚や出産が減少して人口動態が変化した結果、
国家の税収や企業の売上高が激減していったんです。
それで最も影響を受けることになったのは、
他でもない富裕層や中間層だったわけですが」
「自分ではできないので他人に
“尻拭い”させる者、“皺寄せ”する者こそが、
現代の似非貴族や特権階級どもの正体です。加えて、
自分達以外を人とは思わない者どもでもあります。
責任転嫁に成功した連中は今でも
甘い汁を吸っているようですがね」
「ご存知の通り、浄化になってから
人工妊娠中絶の原則違法化を断行したことで、
数字の上では1億2千万の人口をどうにか維持できています。
就労人口は確かに減少しましたが、ジポ法やコジ法によって
自己同一性を保証する見返りに知性体から源泉徴収することで、
歳入の帳尻を合わせていますね(自己同一税)」
「企業の業績不振と過剰反応が技術や文化の停滞に
繋がったというのは、概ね仰った通りでしょう」
これまでに聞いたこともないような珍説や
情報の津波に押し流されてしまいそうだ。ふと、
机の抽斗にしまってある〈ギャボス〉のことを思い出した。
「肝心なのは、地球規模の異常気象だという情報操作が国外の欺瞞
だとすれば、国内にも1つ大きな嘘があったという点です。1億人
以上もの勤勉・勤労な国民がいて多額の税金を払い続けているのに
国が貧しくなる一方だというのは実は相当に奇妙なことなんです」
「政治家や公務員への給与支払いの半分を現金(政府硬貨)で、
残りをサイフ(AIdマネー/国内決済専用疑似通貨)で
支給してから明らかになったように、本来なら税収は政府の中に
留まっていないで、国内の民間に還流するのが基本なんです。
国外に流出する富を見逃せないのは勿論のことですが、
直接的な原因は別の所、ビッグ(ブラザーズ)データの外に
ありました」
「……実は、昭和末期頃から
政府は秘密裏に迂回に次ぐ迂回で
資金をプールしていました。歴代政府が
“ヘソクリ”していたんですよ。毎年毎年、
旧円にして数兆円もの額をです。これは
ニッポンだけのことではなくて、
海外の主要各国も同様です」
「時期を同じくして、主に先進国の政府がヘソクリし始めた。
これこそが、長く続く世界経済低迷の根本原因なんです」
呆か唖んとしてしまう俺、
「なん、だとぉ……何のために?」
自国政府が国民から
ヘソクリ取りすぎるとか、
思いもよらないことだ。
「その莫大な資金を使って実は――」間を置いて
勿体つけるライタ、「……月面基地と宇宙船を
造っていたんです、月の裏側で」
「はぁ~!? ウチューセン~?」
話が一気に三流SFになってきたぞ、ぉぃ。
「計画当時はまだ東西冷戦時代でしたから、
某国が宇宙船計画を実行に移すには
同時に他国をも巻き込むしか
実現のし様がなかったんでしょう。
言いだしっぺの国がどこなのかは定かではありません。
おそらく【ノストラダムス】の大予言とか信じちゃってた
可哀想な人達なんじゃないでしょうか。
西暦1999年7の月に人類が滅びるどころか
何事もなかったのを確認した乗組員は、
そのまま宇宙探査の航海に出発しました。
第一陣は国連の常任理事国で占められていて、
各国の船が別々の宙域に就航しました。
第二陣は非常任理事国の先進国で、
我が国の船は第一陣に遅れること
半年後に出航したそうです」
ウガァァ~……
ここにきてなぜか無性に
手裏剣でも投げてコイツの眉間に
ブッ刺してやりたくなってきた。
つっても、そんなもん家にはないが。
半径百キロm以内、いや、日本中どこを探したって
そんなもんありはしない。
シュリケンだのニンジャだのなんてぇのは
大昔から面白おかしく続いてるだけの法螺話、
江戸時代からの三文小説なんだからな。
いわゆる、『NINJA Is Not a Jap-Animation.』だ。
「忍者なんて、いませんよ、もちろん」
俺の呟きツッコミを聞き逃さなかったライタ、
「ただ……それに近い者たちなら、現代にも暗躍していますがね。
実は、六本銀坂で夜な夜な徘徊している酔っ払いの中には、
手練れが混じってるんです。『忍邪』あるいは『忍風』とも
呼ばれる彼らは、主として諜報活動が基本ですが、
緊急時には障害を排除したりもします。
会社帰りのサラリーマン/下級社員が、
頭にネクタイを巻きつけて、千鳥足でフラフラ、
片手に折箱の紐をぶら下げていたりするそうですよ」
「そりゃ、昔からいるただの酔っ払いだろ。
怒ってる奥さんが頭に鬼の角を生やして
玄関で仁王立ちしているんだろうし、
スシの折り詰めでも持って帰らなきゃ
家に入れてくれないだろ」
「そうかもしれませんし、そうでないかもしれない。それが分る
ときには、はたしてポリ箱の中身が手土産の寿司なのかどうか、
知ることになるでしょう」
「……ハァ。話の腰を折って
悪かったな。続けてくれ」
「――その船団の第一陣は昨日、月面基地へ無事に帰還しました。
明後日には我が国の〈イロハ丸〉が天ノ川方面から帰還する予定
です。航海中に原子核力推進エンジンを改良・改善することで
半年の遅れを77時間にまで短縮させることに成功したんです」
「各国の宇宙船には優秀な科学者が乗船したと言われています。
ある意味、優秀すぎる研究員が自由な実験場を求めて宇宙へ
旅立って行ったわけですね。その後の地球で技術革新が停滞して
いたのは、その影響もあってのことでしょう。宇宙で得られた
新技術は通信で地球に送られて秘密裏に実用化されました。
ナノ・テクはその一環なんです」
「世界的な大ニュースじゃないか!」
もう面倒くせぇから話を合わせておこう。
「ええ、ただ、なにしろヘソクリで始まった計画ですので、
向こう50年、半世紀以上は情報開示されることがないものと
思われます。宇宙で得られた成果が広く世界中に普及してから、
実はこういうことだったんだと、徐々にリークされていくん
でしょうね」
「なんてこった……
そんなトンデモない秘密を、
ぉ俺に教えてしまっても、
いいのかっ?」ゲラゲラッ。
「まぁ、問題ないでしょう。他言無用に願いますが、万が一漏れた
としても大丈夫なように、一部ウソを混ぜておきましたから」
「はァ!? 嘘ッパチなのかよ」
「ほんの一部、数%ですよ。そうでないと
漏洩したときに追跡できませんからね」
「はぁ~」一気に
うさん臭くなってきたな。
「機密防衛の基本です。悪く思わないでくださいよ、
保険のようなものなんですから」
「じゃあ、話半分に聞いておいてやんよ。
宇宙船が帰ってきて、これからどんな
イイことがあるんだ?」
「それが予測できればいいんですが。
旧合衆国――現《亜メリカ》――はバイオ・テクで目覚しい進歩が
あったそうです。仏英――現《ヨーロッパ共同責任体》所属――は
原子核力の制御面で、旧ロシア連邦――現《ソヴリン連帯》――は
半導体・シリコン技術でのブレイクスルーを、それぞれ達成した
そうです。そして中国――現《中〓共和国》――はなんと、
彗星を牽引して来ましたよ」
「アカが彗星を背負ってやって来たってか」と俺、「孕メリカは
――3回も世界恐慌の震源地になっておいて――バイオなのかよ。
ん~……ってことはアレじゃね?
またウシが食べられるようになるとか」
「それはどうでしょうか。バイオ技術で
解決できればいいですけどね」
「……なんだよ。何か知ってそうじゃないか、
ウシが食べられなくなった原因とか」
「いえ、僕も良くは知りません。何らかの原因でウシとヒトとの
相性が悪くなった、としか言えませんね。ただ、第四級国家機密と
聞いてますから、その原因はニッポンが責めを負うようなものでは
ないものの、国際協調を鑑みて公表を控えているようですよ。
きっと現在のような、
無人兵器(AIdrones:無差別破壊兵器)まで投入するほどの
内戦状態になる前の、旧合衆国に原因があったんでしょう、
《乱米》や《傍迷》ではなく、ね」
「相性……」とは、またやけに曖昧で
ピン暈けしてやがるな。第一級は、
〈爆縮レンズの設計〉とか
〈GDPの算出方法〉とか
〈サイフの暗号方式〉だってのが
有識者(自称)による有力な説だから、
それよりはずっと下らしい、
「それはそうと、日本の船は
どんなブレイクスルーを
成し遂げてきたんだ?」
「我が《日本帝国(Nyphon)》の成果は――」
よくぞ聞いてくれたとばかりにパァッと明るい顔になるライタ、
「詳しくは帰還後になりますが、
ダークマター研究とブラックホール制御で著しい進歩があった
ということです。そして独自の〈量子因果論〉を構築するに
至ったと聞き及んでいます」
「なるほど……わからん!
何かの役に立つのか?」
「ええ、それはもう。
とりあえず、ナノBH圧縮を応用して糞便を
小さく丸める経口薬が開発されたそうですよ」
「は!? なんだそりゃ! ウサギの
UNKOみたいにする飲み薬ってことか!?」
「下の話だと思ってBAKAにしちゃいけません。排泄物を原料に
してバイオマス工場でPETボトルが造られたりするわけです
しね。特に無重力空間での宇宙飛行士にとっては、排便は非常に
ストレスの溜まる行為でしてね。彼らがどんな努力と改善をして
きたか、知ったら驚くと思いますよ」
「言われてみれば、無重力でUNKOって
どうやるのか知らねーや。OSHIKKOは
ホースで吸い取るんだよな、確か」
「そうですね。
小さくて丸い固形のブラックマターをダークホールから吸収する
という簡便な方式になって、船内での活動が随分と快適になった
らしいですよ。やり方は、口で説明するのは難しいんですが、
無重力ビリヤードとパチンコを足して2で割ったようなものに
なります。それを実現してくれる経口薬が近々、地上でも
販売開始される予定だとか」
「マジでー!?」ちょっとだけ
ウケる。ちょっとだけ、な。
「はい。
商品名もほぼ決まっていて、〈強力圧縮わがもん(仮)〉です。
女の子とか喜びそうですね~。そうとは知らずにBHを飲むことに
なりますけど」
はぁ……兆円単位のヘソクリを使って、
できたのがUNKO薬とは……なんだか情けない。
他国の研究のほうが軍事的にも経済的にも
よっぽど役立ちそうなのにな。さすが、
ヘンタイ立国にっぽん。
「ん~まぁでも、それが本当なら、これから
景気は上向くだろうし技術も発達する
良い世の中になりそうだなっ」と楽観的で
明るい話に持っていこうとする俺。
「だといいんですが……」なにやら難しい顔つきへと変わる
ライタ、「生産性のない月面基地を維持するためには、莫大な
資金が依然として必要ですし、他国の先端技術を簡単に
利用させてもらえるとは期待できません。当面は世界に
あまり大きな変化はないと思いますよ」と続けて、
「それに、
77時間のビハインドが後々どのように響くか分りません。
地球から超大国がなくなってからというもの、群雄割拠の時代。
各国が自国の覇権を目指していますからね。新興BRACcの
動向も油断できませんし……」
この《ブラク》というのは、近年勢力が増しつつある国々や衰退
していった国家を十把一絡げにしてレッテルを貼った呼び方だ。
《ブラジル》は緑のレンズ豆腐、《ロシア》はボルシチの紅大根、
《オーストラリア》は養豚ピンクスライム、《キューバ》は
富裕層向けの最高級葉巻、と輸出が盛んだ。
そしてオチ、もとい、大トリを務める最後の
《中化》は――青い空を失い『〽黄色い砂塵♪』渦巻く土地では
毒菜・毒肉の買い手がいないんで――各国の死刑囚や重大犯罪人の
収容受け入れ地となることで、歳入の足しにしている。
また《中十》の新逃人を追跡するそのついでに、
各国の国際脱税犯をも確保する代理ビジネスが好調だとか。
《中ナ》の【追徴犬】部隊といえば、世界の富裕層が震え上がる。
まったく、《中ーノ》人はいつの時代でも逞しい。
「――宇宙での研究成果という未知の要因が加わって、
今後の世界情勢が混沌として予測不可能になってきました。
資源紛争、食糧紛争、飲用水紛争……大きな戦争など
起こらなければいいんですが……。
我が国は最深度を航行可能な原子核力潜水艦を多数実戦配備
していて、最強の防衛力と同時に最強の攻撃力も備えていますが、
未知の技術によって覆されてしまうのかもしれません」
そう、日本のニンジャ潜水艦は
姿も音も熱も知られずに、七つの海をステルス航行し、
搭載するAId兵器は核ミサイルさえも打ち落とす、
世界最強の攻防力を有するのだ……とりあえず、
今のところは。
「そんな、我が国が不利な情勢になってしまわないように、
情報収集と分析を日夜続けているのが、《ゆるれん》です。
あなたにお呼びが掛かる日も案外近いのかもしれませんよ」
「ほ~ぅ」
やなこった。
「なにせ、《ニッポン》のニンキョーは
世界でも優秀な、待機要員なんですから」
「よせやい。ま、そんときゃそんときだね。
俺に何ができるのか、自分でもよく分らんのだし。
ところで、イロハマルゥってのにはやっぱ、
フェイザー砲とかフォトン魚雷とか
付いてたりすんのかな?」
「いえ? 純粋に探査・研究用の船ですから、
戦艦のような艤装は一切していないはずです」
ハハハ、コイツめ!
たぶん再放送とか観てないとは思うが……
完璧な答えじゃねーか、イイね! そんでもって
船体が流線型だったりしたら、サイコーだぜ!
「宇宙人とのファースト・コンタクトとかさっ、
突然エンカウントして友好を深めたとかさっ、
なーんかドラマがあったんじゃね?」
「“ウチュージン”ですか?」
ふいに怪訝そうな顔になるライタ、
「……あぁ、
『ビトレイヤー(国賊/売国奴)』、
『アナーキスト(反政府分子)』、
『グローバリスト(亜化気触れ)』だとか、
『テラニスト(地球連邦主義者)』ども、
ではなく、ですね――
……いぇ、そういうものが
発見されたという話は……
聞いてませんねぇ」
まるでコドモでも見るような目つきで俺をしげしげと眺めつつ、
溜息をつくライタだった。




