31 AIdダイヤリー 奪取
INTERLUDE/侵入警報
「――『親しき仲にも礼儀あり』という諺、聞いたことないかい?」
「なによ、またお説教ぉ?」
「いくら親族だからといって非公開の個人蔵書で、しかも日記、“他人様の私事”を勝手に覗き見るというのは感心しないね」
「だっ~たら、
ボクが見る前に言わなきゃ。
鍵開けてくれた後で言ったってぇ、
遅いわよぉ」
「〈緊急避難モード〉だからね。忠告は後回しにせざるを得なかった」
「あの堅物の姉様が……こんなコト……。
ボクのソバージュなんかと違って、ずっと
伸ばしてたのに10センチmも切ってほしいなんて
言うから……ヘンッだと思ったんだよね~」
「そういえば、長い付き合いになるのに、キミの髪が肩までかかったところを見たことがないね」
「……相手が誰かは書いてないけど、
あンのKUSSOアニキしかいないっつーのっ。
アッイッツめぇ~……どうしてやろうかぁ……」
「もう読み終わったのなら、鍵を掛け直すよ」
「あ~ッ、一回読めばッ
もぅ~じゅうっぶんッだわ!」
「了解。〈探偵モジュール〉再起動、鍵のタイプは〈第一世代 AIdiary〉、可逆アルゴリズムで鍵を再生成。奪取した管理者権限による作業開始。所用時間は……約1分だよ。厳密には56・4秒」
「あ~ッ、
ムカつくッ!
ムカつくッ!
ムカつくッ!」
「荒れてるね。CaやFeの摂取がお勧めだよ。約49時間後には次“月”になるサイクルだしね。料理なら〈ビフテキ互換マグロの血合い肉〉を――」
「姉様に限って……。
あンのヤロ~……
許せないッ!」
「すまない。僕らAIには本質的に解らない事象だ。ヒトのXとナメクジの交尾との違いもよく分らないからね」
「げげっ、ナメクジってアンタねぇ……。
それくらい分れよッ! あ~もぅ、
アンタの顔も見飽きたわ~」
「またペルソナを変えるのかい? せっかくヒト型に慣れてきたところなんだけどな」
「最初はボク好みで、キャワイイ!って
思ったんだけど……やっぱダメだわぁ。
ベースがオープン・レシピで良く作り込んで
あるけどねぇ、なんだろ~、なーんか
生理的に鼻につくのよねぇ~」
「ご要望は製作者デザイナーに直接どうぞ。パッド型ヴァイザー向けのオプションでお勧めのホロ・デッキは――
〈《μASSネオタク》
ホログラム・ビジュアライザー・シリーズ
サイバースペース・デッキMk11 ヴァージョン1・732
ファームウェア0・508㋙――だよ。詳細は
《μASSネオタク㋙》社←ココをチェック!」
✽✽✽ 最近《μASSネオタク㋙》社製品によく似た
悪質な類似商品が出回っています。ご注意ください。
購入することは、《μASSネオタク㋙》社によって
個体登録されている知性体の自己保存権に対する重大な
侵害行為です。
ストップ「AI虐待」
『ちょっと待て、その商品は、朴李かも㋙』 ✽✽✽
「あ゛あ゛~~ッ!
まったッそのCMかよッ。
紐付きウゼェ~……」
「その分、仕草とか愛想が出るように作り込まれているんだ」
「はぃはぃ、それが
余計だッちゅーの」
「AIdiaryアクセス録の改竄、完了。ハードウェアや部屋に付着した残留指紋等、モノ領域での痕跡隠滅をお勧めするよ。僕が照らすから部屋のLEDはオフのままでね」
「……だいたいねぇ、
なんで名前が変えられないのよぉ。
しかもソレ、平成にいたあの天然系
不思議ちゃんアイドルの母星かッちゅーの」
「このペルソナの名前は、仕様により“上書き禁止”なのさ。ちなみに、その母星とやらは爆発してしまい、記憶の彼方に消え――」
「製作者が勝手に決めた仕様なんか
KUSSお召し上がれッ。
アンタの名前なんかねぇ、
〈コナリン〉で十分なのよッ。
後から〈探偵〉注入れたんだから、
名前も合成してトーゼンでしょッ」
「この派手な蝶ネクタイのことだね? 服装パターンやコンビネーションの時代考証はとりあえず置くとしても、この真っ赤な色はマッチしてないよ。それに、裏返しで声紋チェンジャーが丸見えだし――」
「うっさい。ハンチング・ハットと
パイプも着けてあげたでしょお!
けっこう高かったんだからねッ」
「それはありがとう。でも、乗馬服姿の少年がスモーキング・パイプを咥えてるというのは、どうかと思うよ。ほら、僕は一応、お子様向けの〈バディAI〉なんだし――」
「ちょっとぉ、コドモ扱いしないでくれるぅ?
このボクに、【指大工の鉋】様に、散~々
改造されてるくせにぃ、ちーとばかし
生意気なんじゃないのぉ~?
……“チート”だけに、なッ!
ギャハッ!」
「よくわかんないよ、カンナ……」
18禁部分につき、日記(関連)と差し替えました。
この部分の内容は、ノクターン小説 n2951ct、
『みるくクラウン123 ~アイドル地下オーディション~』
「そして都市伝説へ」
で読むことができます。読まなくても
本編を引き続きお楽しみいただけます。




