28 小石の川原、芝生の土手、〈星さやか〉、NM
およそ10分後、多摩川の土手、
捕縛され海老反りになって
川原に横たわる男子中学生。
その光景を眼下に見下ろしつつ、沈みかけた夕陽を背にして
勝ち誇って立つ、そろそろオッサンに差し掛かろうとしている
男がそこにはいた。
ふぅ……鼓動が次第に落ち着いてきた俺、
こんなに聴牌ったのは生まれて初めてかもしれん。
焦ったぜぃ、ぜいぜぃ……
『間一髪』、本当に危ないところだった。
相手が誰だろうと見境なく、
ケン太がデストロイド化
しなかったなら……俺独りだったなら、
命中していたかどうか判らん。
至近距離とはいえ弾道支援がなければ、
おそらく失敗していたことだろう。
――落ち着いたところで、
コンビニに立ち寄る前に茂みの中に隠しておいた
カクレミノを取り出して来てライタに覆い被せる。
これは、大量に整列させた
マイクロ六角カメラ・クリスタル・レンズの
ポリオミノで構成される、厚さ3ミリmの第二世代
〈角レ・ミノ〉で、俺の私物。
旧式の角セルでも土手の上から遠目に見る分には、
これでカモフラージュできることだろう。
最も危険なのは奴の指だと判断した俺は、用意していた
《ニチ絆㋙》社製の〈猛烈粘着セロテープ㋙〉で
両手の指をグルグル巻きにすることで、
奴のフィンガー・テクを封じていた。
残ったテープで両足も固定し、
縄のようにしてライタの全身を
縛り上げたのだった。
しばらくしたらケン太のUIが自己復旧したんで、面白半分に
〈亀甲縛り〉というやつを検索して実際にやってみることにする。
素人がすぐにできるもんじゃないらしいが、
俺の腕には多数のホクロが塗ってあり、さらに
その上から〈超電磁エレキ絆㋙〉を貼ってある。
ケン太が亀甲縛りの手順をホクロに転送、
ホクロから直上のエレキバンに伝送、すると
エレキバンが俺の筋肉を外部刺激する。出力次第で
不随意筋まで制御することもできるほどで、ヴァイザーが
上書き表示する3Dインストラクションと併用すれば、
素人でも簡単に定型アクション可能になるのだ。
これはもちろん、メーカーが想定していない使用方法で、
モデリング界隈のニンキョーの間ではバディとの『弐人羽織』と
呼ばれているマッシュアップ・テクニック、合わせ技だ。
つっても亀甲縛りなんぞに無駄使いしたのは俺が初めてかも。
〈椿流捕縛術(コ申請中)〉の看板でも掲げようかしらん。
使うとビリビリッと痺れるのがなければ、言うことなし、
なんだが。
そして、ライタの奴に騒がれると厄介なんで、
猿ぐつわ[互]パチン・コで黙らせている。
パチン・コは大正時代から続く、ガキの玩具だったが
今ではもうすっかり廃れた。そのゴム・バンドを
ギャグ・ボールの代わりに口の中に詰めるってぇのは、
さしづめGBスリングショット……そうだな、略して
〈ギャボス/GBSS〉とでも命名するとしよう。
やれやれ、DQNアイテムがまた一つ増えちまったぜぃ。
奴の学帽を脱がして改めてはみたが、
ヴァイザーのようなAIdデバイスは
何も見つからない。念のため、その辺に
離して置くことにしよう。
両足をテープでギャボスに結ばれて海老反りのまま、
話すことはおろか呟くことすらできないライタは、
一筋の涎を下顎に垂らしながら、静かに
こちらを見据えている。
「何か言うことはあるかい?」
川原に倒れる奴の顔の前で
UNKO座りになって尋ねる俺。
「……ホホヘッハハヒカ°ヒヘヒハッ」涎をダラダラ垂らしながら
息を吐く、紅顔の美少年。
「『この結果は意外でした』、確度79・4%」
と翻訳してくれるケン太。
『評価を見直さなければいけませんね』
『口だけでも自由にしてもらえませんか?』
『今ならまだ虐待で訴えたりしませんから』
それを聞いてカチンッと頭に来た俺、
「あっぁ~、運動したらぁ、なんだかぁ、催してきたなぁ~」
『冗談ですっ。
お話をしましょう
……させて、ください』
「ちょっとずつ中坊らしくなってきたじゃネーノ」
哀れな中坊の口から〈ギャボス〉を取ってやる。
ていうか翻訳が一々煩わしい。
「よーし、今度はこっちが話を聞く番だ。
《緩き連帯》ってのは、いったい何なんだ?」
と尋問開始。
「……識別名称がないのは、そもそも組織体ではないからです」
素直に語り出すライタ、「情報伝達の経路や指揮命令の系統に
固定したものがありません。クラスターでもリゾームでもない。
互いの位置や距離を常に大きく変動させているノード群が
指向性のある虚像を作り出すという点で、そのトポロジーは
カクレミノに似ています」
と、海老反りのまま苦しそうに、
「まるで、アドレス帳の繋がりのような、インターネット
そのもののような、柔軟な連携。必要な情報は24時間以内に
周知・拡散されます。個々人が各々の判断で活動し、
近い者と一時的な協力関係を結んで連動しているんです」
「首領やボスがいないってか」
「固着した関係が長く続けば、その限りではありませんがね。
……そろそろ解いてもらえませんか?」
「ダメだな。
ケン太に侵入しやがって、
オメーは危険すぎる」
「侵入経路および改竄手法の
(reverse engineering)
分解析が終了」囁くケン太、
「対抗防壁の構築、完了。
同じ手はもう通用しない」
「もう危険じゃなくなりますよ」とライタ。
「ダメだな、手口は
他にもあるかもしれん」
そんな手に乗るもんか、ケッ。
「いえ、そうではなく……
あなたは我々に協力することになるんですから、
抵抗は無意味ですよ」
「…………解るように話せ」
と言いつつヴァイザーで周囲を警戒っ。
ケン太が伏兵を索敵するも、検知ゼロッ。
アルベルトへ電信、警戒要請と
“INFORMATION!!”
即応する警護犬。しかし異常なし、
思忍は……入浴中、だと。
「そんな原始的なロゥ・テクで対抗してくるなんて……
それは意外でしたが、取引には応じないだろうと
予測できていましたから。まったく……
ニンキョーというのは荒っぽいですね。
そして、金や脅しでは動かない。……でも
僕が今から話すことを聞いたら、考えが改まる
ことでしょう。それが、我々のAIが弾き出した因果予測です」
「ほぅ……台風の進路予測だって
外れるときは外れるぜ。
何がどうなりゃ
俺がオメーらの
仲間になるってんだ?」
「仲間になるというか、
必要なときに力を貸してほしい、というだけなんです。
その見返りに、あなたは“真実”を知ることになる」
「ますます解らねぇ……なんだ
その『真実』ってやつぁ?」
「この世の真実、ニッポンの、知られざる現状ですよ」
まったく予想外の回答だった。真実を知らないと
言われれば知りたくなる。それが人情ってもんだ。
単なる情報/コトにすぎないのだし、
カネが絡んでないとなれば尚更だ。
「あなたに関係の深いことといえば
まず、あの猛獣級AIの件ですね」
「さやかの……」俺以上に☆さやかについて
知る者がこの世にいるとは考えにくいが、
まず奴の両脚を自由にしてやった。
両手は後ろに回されて
頭からカクレミノを被されたまま、
芝生の上で胡坐をかいて座るライタ、
「ニンフはロストしたのかもしれませんが、
〈星さやか〉はロストしてなどいません。
こうしている今も活動を続けています」
「……ありえないね、
そんなことは」
期待して損したわ。
「活きていることは確かなんです。
仮説ですが、アレは間に合ったのでしょう。
白州嬢のヘア・カラーが充電切れする直前に
別の髪へと退避したものと思われます。おそらく偶然にも、
女子高生か女子中学生が公園の近くを通ったのでしょう。なにせ、
近頃の流行りですから」
「あっ、あぁあ~」
あり……うる。
「その時間帯に強制アクセスが多発していたことは
検知されていました。侵入パターンも星さやかのものと
一致しています。ただ、ヘア・カラーの光学タグには
GPS機能が内蔵されていないので、おおよその地域までしか
発生場所を特定できないんです。それによると、今では
首都圏中にその反応や痕跡が拡散しています」
「……東京や周辺のJK・JCの髪の毛が、
さやかのモノ領域になってる、ってのか!?」
「そうです。
しかも冗長性を備えているので、特定の個体を消去しても
全体がダウンしたりしません。むしろ増えます。発生から
1週間後には都内のある高校を根城にしていたんですが、
その1週間後にはもう移動して別の複数拠点に分散して
いました。全国に飛び火するのは、時間の問題です」
「なんてこった……するってぇと
いったいぜんたいっ、どんな
影響が出てしまうんだ!?」
「そうですね……
まず髪がキラキラ光ります。回路を構成している
光学タグが処理作業を実行する際に僅かですが、
反射光が発生します」
「そうだ、
この目で見た。
……それで?」
「それから、
光学タグが自然光や熱や振動を回生して電気変換します。
紫外線の浴びすぎやドライヤーのかけすぎで
髪が痛むということはなさそうです」
「ふむ、それでそれで?」
「一定期間、長くても3日ほど、
潜伏した後は必ず移動するんですが、移動した後は
髪質が改善する傾向にあります。目的や原因は不明で
今後の研究が待たれます」
「……で?」
「宿主への影響はざっとそんなところですね」
「……悪いこと、悪影響は何かないのか?」
「いえ、特に何も」
平然と言うライタを、
今度は亀のようにして、
転がしてやりたくなってきた。
「……何が問題なんだ?」と
見下ろしながら尋ねる。
「星さやかを確実に消去するためには、
ニッポン中のJKとJCを同じ時間帯に身体検査して、
一斉に鉛部屋に閉じ込めた上で髪の毛をバッサリ切る、という
手段くらいしか残されていないという点です」
「できっこないだろ、
そんなことぉ」
「現実的ではありませんね。
気分はもうパンデミックですよ。
インフルエンザほど危険ではありませんが、
増殖速度はエイズ以上です」
ちなみに、AIDSウィルスの蔓延は沈静化し
根絶一歩手前まで来ている。ラメリカが患者を
アフリカに強制移住させて隔離している
効果が大きい。アフリカの財政はそれで潤う。
「こちらの損害を最小限に抑えつつ、
あのヘア・フォーミングしてしまった突然変異AIを
完全に退治する方策は、今のところ全くありません。
今後、産みの親であるあなたや白州嬢の前に
星さやかが現れることが予想されます。
それがいつになるのかは予測できませんが、おそらく
そのときにはあなた方の傍に少女がいることでしょう。
髪をキラキラ光らせた少女が、ね」
「――話としては面白いけどよ……」川原に腰を下ろし、
目の前のライタに向かって呟く俺、
「なんの確証もない話だ。
《緩き連帯》にしろ、
☆さやかのことにしろ、な」
すると、亀甲縛りのまま後ろ手で
胡坐をかいて座りこんでいる少年が、
「作り話だ、と? 信じられないのは無理もありません。
真実を知らされていないわけですから、それどころか、
そうでないことを信じ込まされているわけですから」
意味深な物言いをする。
「他にもあるのか、真実とやらが」
「星さやかの繁殖地となったヘア・カラーですが、
あれは……ナノ・マシンで構成されています」
「ああ、わかってるよ、んなこたぁ」
「……いえ、まだお解りでないようですが」
「配合されている
マイクロ・タグを
書き換えるようにして、
さやかは拡散したんだろ」
「強引に構成変更されたのは
(Nano Machines)
“ナノ・マシン”なんです」
「あぁ、強制アクセスだとか、
無断使用とか言ってたよな、
マイクロ……ん? ナノ、マシン?」
「はい」コックリと頷くライタ。
「乱用されたとかいうのは
マイクロ・タグだろ?」
「いえ、“ナノ”マシンです」
「……マイクロ――じゃなくて?」
「ナノ、なんです」
「そんなもんが……ある、のか?」
「はい、昔から。15年以上前からになります」
しれっと抜かすライタ。
「……そんなもんがあるなんて、初耳だぞ」
「でしょうね。一般には知られていませんから」
そうだ、☆さやかが言っていた、教えてくれていた、
ブレイクスルーは必要ないとかどうとか。
「待て待て待て待て、ちょっと待て……
15年以上前からナノマシンがあって、
ヘア・カラーの中に入ってて、コンビニとか
そこら中で売られているってのか?」
「流行りのヘア・カラー商品が市場流通したのは去年からです
けどね。他の商品でもマイクロ・タグが使われているものは、
大抵がナノM入りです」
「はぁ~!?」
びっくりだ、本当に、びっくりするほどディストピア!
「マイクロ・タグ一個のための単純な部品だと思っていたモノは、
実は数千個のナノMが集まって構成された、超々精密な機械、
AIの一部なんです。だからこそ星さやかは退避できた。
マイクロ・タグを分解析し独自回路として再構成したんです」
「……確かに。さやかの処理能力は落ちてはいなかった」
ヘア・カラーに配合されたマイクロ・タグの量が
それだけ多いからだろうと安易に考えていたが……
その正体がナノMでAIだったとすれば、無理のない話だ。
「そして、ヘア・カラー商品として流通させたのが《緩き連帯》の
同胞なんです。規定の手順でアクセスすればNMとして利用できる
特殊配備品、それが必要なときには
いつでも、ニッポン中どこででも、
容易に入手可能にしたわけです」
「きもちわりぃっ!
なんなんだよ、オメーらはっ」
「……『火事と喧嘩は江戸の華』って、ご存知ですか?」
「あ? んだよ急に。
知ってるよ、それがどうした」
「最初はそういうものだったらしいんですよ。
ネット上で火消しをしたり喧嘩の仲裁をしたり、
その逆もあったそうですが、始まりは
そんなお節介焼きや物好きや賑やかしの
集まりでしかなかったらしいです」
語り始めるライタ、
「そんな《ヲチ屋》や《野次ウマー》の中から
違和感を覚える者達が現れた。世界が、ニッポンが、何かが
おかしい、と。常識に照らすと整合性の取れないことが多々ある、
と。自分達の常識を疑い始めた」
喋り出したら止まらないライタ、
「そして小数ですが隠されていた真実に辿り着く者がいて、
情報を共有し合い、AId集合諜が構築されると、全貌が徐々に
明らかになっていった。特に311大震災が契機となって、
国防意識や愛国心に目覚めた者達、志を同じくする同胞が
今ではニッポンのあちこちにいます。経済界や政界にも」
「NMの件は、そんな隠されていた真実の、ほんの一例です。
ちなみに、それを最初に開発したのは我々ではありません。
ただ知らないフリをして商品をデザインして、
逆利用できるようにしているだけです。
さっきのサスマタに似ていますね。
攻撃的な武器であるパチン・コをニッポン中に配備するのは無理
だとしても、防御専用のサスマタに擬装すればそれは可能となる。
実際、あなたはこちら寄りの人だと、
つくづく思い知らされましたよ」
と、溜息まじりに言い終えるライタ。
「そんなのは、偶然の一致だ。他に手広く
やってるわけじゃない。オメーらと一緒にスンナ。
だいたいだな、その配備品とやらが何だって必要なんだ?
テロリストなのか」
「他称テロリストなんかじゃありませんよ。
まだ認知されていないという意味でもなく。
といっても『正義の味方』でもありません。
言うなれば、“悪の敵”、といったところでしょうか」
「ほーぅ。で、誰が悪なんだ、政府か?」
「“ガイライ”からのあらゆる攻撃から
ニッポンを守るために活動している者たちの
寄せ集め、それが《緩き連帯》です」
「……がいらい? どんな字を書くんだ?
それともウチュージンか何かか」
「外来種の外来です。外来語の外来でもあります。
敵性集団による軍事・政経・情報技術等、多岐に渡る
侵攻や作戦行動からニッポンを守るんです」
「はぁ……そうか、国粋主義者どもか。
土着者ばかりの『烏合の衆』か」
「いえ? 同胞の中には帰化人もいますよ。
国の行く末を憂う国民であれば、
人種は問いません」
「……ひとつだけ教えろ。市販のヴァイザーに
裏口を仕掛けたのは……オメーらなのか?」
「我々ではありません。仕掛けたのはガイライです。
《東亞情工㋙》社製のワイヤレス通信回路から
バイパスされている“枝”、その擬装エラッタを
拝借しただけですよ」
「……敵の罠や武器を放置しておいて、
それどころか逆に利用してみせる、
それがオメーらのやり方なんだな」
「場合によっては、です。こちらが気づいたことを
相手に気取られてはならない場合ですね。なにしろ……
正義の味方ではありませんので」
「いいだろう」
気に入った。残りの亀甲縛りを解いてやる俺。
「因果予測通りの結果でしたが、
思ったよりも早くて助かりましたよ」顎の涎をハンカチで拭き、
カクレミノを取り去って、腕や脚をさすってみせるライタ、
「では、これも受け取ってもらえるんですよね?」差し出すのは、
あの透明なポリ・カード、30MPtのサイフ・チップ。
「だな、遠慮なく貰ってやんよ」手の中にあるのは、
黄銅色の見慣れたマイクロ・タグ……
「あれ? でも待てよ、
サイフは1人につき1つだろ、
今あるのはどうすんだよ」
「特に何も。これまでのも使えますよ。場合によって使い分けて
ください。できるように、さっき書き変えておきましたから、
バディAIをね」
野郎ぉ、さっきカイザンとか言ってたのは
このことだったのかよ……ヤな奴!
「ついでの作業だったのは確かですが、
本気で一時沈黙させるつもりだったんですよ。
パチン・コ……侮れませんね」付け加えるライタ、
「それとバディも」
「フンッ」とヴァイザーの中で鼻息を荒げるケン太、
そのうなじには馬の鬣のような長く白い毛が
いつの間にか生え揃っている。
勝手に改造されてしまった豆柴ケン太は、
野良のままなのにサイフ持ちとなった。
CM出演料を稼ぐようなアニマル・タレントなんかと違って、
そもそも生きてはいないから餌代がかかるわけじゃなし、
ケン太の円点は俺が好き勝手に使えるというわけだ。
「で、《緩き連帯》に力を貸すとして、
俺はこれからどうすればいいんだ?」
「いえ特に何も」
「何もってこたぁねーだろぅ!」
「ニンフの件は任せてください。
こちらでスピンを仕掛けます。あの〈星さやか〉からコンタクトが
あったらすぐに教えてください。後は、力を貸してほしいときに
またこちらからお声掛けしますよ。普段通りにしていただいて
結構かと。円点が手に入ったことですし、
現金を稼いで貯金でもしたら
いかがですか?」
「貯金だぁ?」
「ほら、よく云うでしょう、
『二度あることは三度ある』って」
いつからなのか分らないくらい大昔からある
諺/言業だよな、千年後の日本人も言ってそうだ。
「……確かにな」三度目の不渡り危機がないとも限らないし、
今回のことで現金の有難味がこれまで以上に
身に染みて解った俺には、耳に痛い言葉だ。
「そうそう、ここは川原で人払いできているからいいですが、
人前では《緩●連●》とか迂闊に口にしないほうがいいですね」
「それもそうだな、
じゃあ……“ゆるれん”で」
4文字化すると緩そ~うに聞こえやがる。
沈む夕陽を背景に黒いカラス達がカァカァと鳴いて飛び去ってゆく。




