表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/35

19 偽陰神社、七夕祭、簪/髪挿し、学帽

 アルベルトから聞くところによると、

思忍ちゃんは休むことなく学校に通ってはいるが、

もの思いに耽っていることが多いらしい。


 今日は七月七日、世間は七夕だ。

織姫と彦星の『〽浪漫♪神さま』だとかに興味はないが、

ここは一つ綾かって彼女を外に連れ出そうと、

昨日の内に地元の七夕祭に誘っておいた。

 梅雨はまだ明けず台風もあったが、

今年の七夕は青天に恵まれた。

蒸し暑い夜の星空、

空気が比較的きれいで光害の少ないネオたまは、

都内23区よりもたくさんの星に照らされる。


 ネオたまの七夕祭にやって来た彼女は、

艶やかな白い浴衣姿だ。帯は紫で少し大人びて見える。

 俺はと言うと、いつもの半袖シャツや短パンにサンダル姿で、

風情の欠片もない。ヴァイザーはカウボーイ・ハットから

麦藁のカンカン帽に変え……あんまり変わってないか。


 昔からある古くて細い道の両側、

街路樹の枝々に吊るされた提灯の明かりと出店屋台や

ハビ屋がずらっと並び、祭を楽しむ大勢の人で賑わっている。

屋台には射的などの景品遊戯、綿飴や〈ネオたま焼きそば〉

などの菓子・軽食、カキ氷やラムネなどの甘くて冷たい(しゃっこい)ものが

並ぶ。ネオたまっ子はもう夢中だ。

……ん~? “ネオたま”焼きそばって何だ? 

いつの間にそんなものが。


 石畳でカランコロンと軽い音を立てていた木製の下駄、彼女の足がふと止まる。


 別に鼻緒が切れたわけじゃなく、

彼女の目線の先にあるのは、お面の屋台。誰もが知っている

アニメ・マンガの主人公やヒーローの顔ぶれが所狭しと

並んでいる。版権なんか端っから無視しているか、

劣化コピーのパクリ商品・パチモンばっかりだ。

 ふと見覚えのあるお面を見つけて、ようやくハッと気が付く俺。

しくじった、気づいていれば彼女に見えないように誘導することも

できただろうに。


「うふっ…… あ~、コレだったんですネ」と微笑む彼女。

 演技のようには見えない素の笑顔を見てホッと一安心する俺。

どうやらトラウマがフラッシュバックするようなことには

ならなかったらしい。


 祭用の急ごしらえな木製の長椅子に彼女と並んで腰掛けて涼む。

屋台から焼とうもろこしの香りが漂ってきた。香ばしい焦がし醤油

のタレが食欲をそそる。日本では夏の風物で、丸ごとを茹でたり

焼いたりして、茎を両手で摘んで齧り付く。お行儀の良い食べ方で

ないからか、料理としてはあまり発展していない。国産の甘い

トウモロコシはお菓子やおやつの延長だな。輸入されているのは

主に鳥や豚の餌になるらしい。


 カンカン帽を脱いでポマード頭を仰ぐ俺。

 こちらに左頬を向けて座り、祭を眺める彼女。

長い黒髪をまとめ上げて、浴衣の襟から

うなじを覗かせている。

ほんのり汗ばんでいる産毛が……とても艶かしい。

 その上で髪をまとめているのは……1本の玉簪。

鬼の耳掻きのような大きな棒に付いているのは、

色鮮やかなホオヅキ玉。

 そのとき、LED提灯に照らされる橙を見たとたん、

忘れていた昔の思い出が津波のように押し寄せてきた。


 あのときの俺はまだ18歳になったばかり。

彼女は……しずゑさんは28だった。

大学受験に向けての勉強ばかりで鬱屈していた俺を

ニコたまの七夕祭に誘ってくれたのは彼女だ。てっきり

また白州家の行事に駆り出されたのかと思って行ったら、

待っていたのは浴衣姿の雫恵さん1人だけだった。

他の家族は用事で出掛けていて来ていないのだとか。

 そう、あのときもこんな風に横に並んで座り、

彼女は長い黒髪を持て余し気味で――


……懐から1本の髪挿しを出すと、俺に手伝ってくれと言う。

髪を結ぶようにまとめて両手で持ち上げる彼女。

後ろから失礼して髪挿しを挿そうとする俺。

初めてのことで挿しては抜き、挿しては抜き。

彼女は挿されては違う、挿されてはもう少し上とか言う。

俺は髪のことよりも、浴衣の襟から覗く綺麗な

うなじに堪らなく興奮していて、それどころじゃなく――


……何度も、何度も、失敗した。

ようやく上手く挿せたとき、

橙色のホオヅキ玉が

やや上を向く格好になっていた。


 男が使うことはまずないし、

今どきは女だってほとんどしない、

古風すぎる道具、それが簪/髪挿しだ。

鬼灯(ホオヅキ)玉はただの飾り。

耳掻きと共に弥生時代以前から続く、

そのシンプルな形状。

寝所にあっては唯一の……女の武器。

 たった1本の棒切れが、

長く豊かな髪の毛を見事に巻き取って、

頭の後ろで黒い毛玉にまとめ上げていた。

その簡潔にして見事な出来栄えに驚き、


空流だ(cool)……」と思わず声を漏らし感心した俺。

「髪挿しがなければ鉛筆でもいいのよ、三郎くん」と微笑んだ

彼女、「ちゃあんと太くて硬い棒だったら何でもいいの。

それでいいのよ、それ1本さえあれば……」と振り向いて

俺を見上げ……眠たげな目で見つめるのだった。


――そうだ、それで思い出した。

今ようやく気づいた。

簪だけじゃない、あのときの衣装、

雫恵さんの白い浴衣と紫の帯を

今、思忍ちゃんが着ている。


その浴衣と帯を、記憶というよりは感触で、俺は思い出していた。



「神社にお参りしたいんです」と微笑む思忍ちゃん、

提灯の明かりに照らされて色白の肌がいっそう際立つ。

 正月には欠かさず初詣に行っているらしいが、

ツキが回っていないと感じたり神頼みしたいときには、

いつだって願掛けしたくなるってもんだ。


 ん? でも、願い事だったらさっき

短冊に書いて笹の葉にぶら下げたのにな、

『お料理が上手になれますように』って。

「あれは……電子レンジを使わないお料理が、

もっと上手になりたいんです」

 それは……得意だと言っていたのは

レンジでチンのことだってバレちゃったよ、

思忍ちゃん。

 ちなみに、俺の願い事はざっくりしていて、

『間に合いますように 間違えませんように』だ。

色々と選択を誤ってきたような気がする

今日この頃だからだ。

「神社でお祈りしたいのは他の事で、

自分の事ではないので……」

と彼女は上目遣いで言う。


 七夕祭、特に屋台関係は神社主幹なんで、

すぐ近くにある《偽陰(にせかげ)神社》まで2人して歩く。

 背の高い杉の木が生い茂り、辺り一面の緑が水を蓄え、

ひんやりとした清浄で心地よい空気で包んでくれる。

気の早い鈴虫がリーン・リーン……と唄うのが、

どこからともなく聞こえてくる。


 石造りの広い階段を上がり、

カランコロン・ペタンペタンと石畳を歩き、

大きな漆塗りの鳥居をくぐろうとしたら、

シャツの裾を摘んで引き止める彼女、

「真ん中は神様の通り道ですよー」

と鳥居の柱までグイグイ引っ張る。

 2人して端っこで一礼して改めて境内へ向かう。

 彼女は恭しく二礼二拍手して願を掛ける。

 俺も同じようにして手を合わせながら

目を閉じ、それから願を考え始め

――とにかく宜しく――

黙って念じた。



 帰りしな鳥居の前で、

もう一つお願いがあると言い出す思忍ちゃん、

「今日でなくてもいいんですけど、後日お寺さんまで

付き合ってほしいんです」


 他の参拝客の邪魔になりそうだったんで、

鳥居の真ん中近くまで移動し、

すぐ近くに《義鬼(ギヲン)寺》ならあるが

早いほうが良くないかと尋ねると、

懐から包み紙を出して見せる彼女、

「いぇ、急ぎではないんですが……お焚き上げを

お願いしたくって」両手の平に乗せた包みを開いて見せる。


 真白で上品な和紙に包まれていたのは、黒髪の房、

長さにして10センチmほどの毛が数百本は集まって、

まるで光ファイバー束のようにして、黄色い紐で括られている。

長すぎたんで撮影前に俺が切らせた、あの髪の毛だ。

他に考えられない。だがなぜ『お焚き上げ』? 

意味が解らない。理由が判らない。

……まただ、またこれだ。


 確信は全くないが、

抜き差しならない事態に追い込まれているのを

ひしひしと感じる。彼女の目が……潤んでいる、

とても悲しげに。

 考えろ俺、なぜお焚き上げなのか。彼女には訊けない。

あんな目で、察してくださいと言わんばかりじゃないか。

お焚き上げさせるべきなのか? 

お焚き上げに付き合うべきなのか、俺は? 


「お焚……」それじゃまるで火葬だ、供養だ、

だが誰の? 

「お焚きぁ……」過去の彼女、撮影前の彼女の髪、

それは少女性を失う前の彼女。

「お焚き上げ――」少女だった頃の彼女、

その象徴にして形代。

「……しなくていい」咄嗟に口に出して言った。


 そして彼女の目から涙が溢れて……

零れ落ちた、悲しい顔をそのままに。


 何だ、いったい何だって涙を流す? また俺はしくじったのか。

お焚き上げ、させたくなかったんだ、俺は。燃やしてしまったら

最後、少女だった頃の彼女は永遠に失われてしまう気がする。


……いや、違う。髪の毛そのものではなく本当の彼女、目の前の

思忍ちゃんはすでに撮影を終えて、変わってしまっている。

俺がお焚き上げさせたくないということは、今の彼女よりも、

すでに過ぎ去った以前の彼女に価値を置いているということ。

今の彼女に価値を見出していないということになりはしないか。

前言撤回するなら今の内だ。お焚き上げに付き合ってしまえ。


……いや待てよ、すると逆のことになりはしないか。

以前の彼女よりも今の彼女のほうに価値があると言えば

聞こえはいいが、彼女のこれまで、苦悩した少女時代、

確かにあった俺の思いも灰にすることになる。

過去を否定して現在を肯定できるもの、なのか。


「……お焚き上げなんて、しないでくれ」もう一度繰り返す。

 悲しい顔で見上げる彼女の両手の上には、束ねられた髪の房。

「髪は俺がもらう……」それを右手で撫で、

「君も俺がもらう……」左手で彼女の背中をそっと抱き寄せ、

「両方とも俺がもらう、2人とも欲しいんだ」と、ゆっくり

噛み締めながら伝える。


 それまで悲しみに満ちていた彼女の両目が大きく開いて、

大粒の涙が零れ落ちた。まっすぐ俺を見つめる彼女の顔は

初めて見る、喜びの笑み。何も言わずに涙を流しながら

喜んでいる。

 あぁ……この微笑みが、

堪らなく……愛おしい。


 危うく俺はまた、しくじるところだった。

過去と現在のどちらを採るべきか、これは

そんな二者択一でもなければ二律背反でもない。

両方とも連続している同じものだ。

少女時代の彼女と少女を卒業した彼女、2人で1人だ。

分けて考えることなどできない……しては、ならない。

俺は彼女の手を握り締め、帯を抱き寄せ……唇を重ねる。

 ただ唇を重ねる、それだけ。

触れるか触れないかの曖昧な距離を保ちつつ、

唇で唇を撫でる。



 その衝撃は、まるで天地がひっくり返ったかのよう。

2人を中心にして景色が一時ポーズ、急速にズーム・アウト、

鳥居の下にいる自分の背中を遠く上から眺めている俺、

2人を包む透明な球体の上を周るようにして

引きずられたと思ったら、

急激にズーム・イン。


 今度は君の背中を、

浴衣の襟首を、

帯の結び目を見ている。

君の両腕が俺の背中の方へ

そろそろと回る。

俺が君で、君が俺で……

そんな、不思議な浮遊感。



 それはほんの一瞬のことで、世界は唐突にリプレイする。


 腕の中でひしひしと悦びに満ち溢れる彼女を感じ、

俺も幸せに包まれてゆく。唇をゆっくりと離し、

吐息を漏らす彼女の腰へと右手を回す。

両腕で強く抱きしめると、

濡れた右頬が俺の頬を優しく撫でる。

 橙の玉簪をくぐるようにして、後ろ髪に鼻を埋める俺、

目を開けると襟元には、喜びにうち震える艶かしい……うなじ。


雫恵さんのことはもう、思い出さなくなっていた。



「――やり直しましょっ、もう一度」和紙の包みを懐にしまい

ながら、静かに微笑んで言う思忍、俺のシャツの裾を軽く摘んで

ゆっくりと引っ張ってゆく。向かう先は鳥居の柱、入ったときとは

反対で、向かって右の方だ。


 俺の背中を押して柱の右側から、

メカニカル時計の針とは反対に周るように

言う彼女、柱の左側から時計回りに進む。

 柱の奥ですぐにまた出くわす2人。

これじゃぁ、“隠れんぼ”にもならない。


 微笑むだけで黙っている彼女の目は何かを求め訴えている。

 熱い口づけと抱擁を済ませた直後でのぼせている俺、

やり直すというのは何のことだか……見当も付かない。


「あ~、ん? やぁ……見つけた……しのぶ???」

問いかけるように彼女の名を呼ぶ。

「はい、こんばんは、三郎さんっ」何だかもの足りなさそうに、

でも微笑んで俺の名を呼ぶ彼女。


 思忍は俺の左腕にしがみ付くようにして、腕をからめて

離さない。今まで塞ぎ込んでいたのが嘘だったかのように

晴れ晴れとして、ウキ2ルン2したウグイス、いや、JKへと

戻ったようだ。

 下駄の足元に注意するように優しく声をかけてやり、

石造りの階段を2人でゆっくりと下りてゆく。


 カラン♪コロン♪

 祭を一通り楽しんだ人々、

もののついでとばかり階段を

上って来る大勢と擦れ違う。

 復刻版〈ダカラ ダッコちゃん ()〉人形JK2――

ちび●ろ(CHIBIKURO)バージョンじゃないけどな――を左腕に

ぶら下げている俺。


 カラン♪コロン♪

『雨降って地固まる』

『終わりよければすべて良し』だ。

肩の荷がすべてダウンロードされ、

これからの彼女との2人の人生について、

夢を馳せる。まずは両親や親戚筋に理解して

もらわなきゃな。ま、何とかなるさ、

してみせる。


 カラン♪コロン♪

 雲ひとつない満天の星空。

彼女の屈託のない笑顔と可憐な陽気さが

俺にも伝わって、幸せが連鎖反応を起こす。


 カラン♪コロン♪

 ついつい気が大きくなってしまい、上がってくる参拝客の

1人と擦れ違いざまに右肩が軽く当たってしまう俺、


「おっとォ、御免なさいよッ」と首だけで振り向いて

威勢よく非礼を詫びる。

 2段上の階段で振り返ったのは、白い半袖シャツに黒い学生

ズボン、年の頃なら15歳で見るからに中学生だ。律儀というか、

今どき珍しく、黒い学生帽をちゃんと被っている。

 学帽のつばを2本指で摘み、

ほんの少しだけ上げて見せ、

こちらに半身で振り向き、

言葉を返す少年、

「こちらこそ失敬――」

あっさり受け流して、

そのまま境内の方へと向かった。


 カラン♪コロン♪

……聞き違いか(たぶん)


 カラン♪コロン♪

……聞き違いだろう(きっと)


 カラン♪コロン♪

 3段ほど下りたところで

気分が暗転し始める俺、

麦藁ヴァイザーで後方映像を確認。


 カラン♪コロン♪

 少年の姿は可視域からすでに消え失せている。

待機させていた豆柴に目配せし、プレイバックPart10秒前。


 カラン♪コロン♪

 録画で見返しても少年の印象は変わらず、やはりお堅い学校の

中坊風。周りの雑踏や虫の声も拾っていて、録音状態が良くない。


 カラン♪コロン♪

「環境ノイズをフィルター」静かに呟き、

「リップ・シンク噛まして、スロー再生50%」


 カラン♪コロン♪

 ヴァイザー内で身構えていたケン太が即応し、


『こ ち ら……』唇の動き、口パクを読み、

『……こ そ……』特定音声の抽出と、

『……失 敬……』文字起こしをしてくれる。


 カラン♪コロン♪

『……黒 子……』

『……天狗 Pさん』


カラン……コロッ



 流しのタクシーを捕まえて、

後部座席へ思忍を乗せた俺、

雲●(KUMOSUKE)の運ちゃんにサイフをかざして見せる。

ニコたまの白州邸までの運賃、遠運(とぉくぅん)

俺のサイフ持ちで事後決済される。

 急用を思い出したなどとベタな言い訳をしたが、

彼女はただ微笑むだけで何も訊かない。


 神社前からハイドロ・カーが音もなく発車し、一本道を進んで

視界から消えるまで見守ったが、怪しい尾行のような者は……

見てとれない。仔細は伏せたまま、〈索敵モード〉で護衛するよう

アルベルトへ電信しておく。踵を返して、俺はまた石段を上がる。


 大戦時の絨毯爆撃を免れた古くて広い石段、

その両脇には暗く鬱蒼とした杉林。

石段を一段また一段と踏みしめる度に

虫ケラどもが騒ぎ立てる。

リーン・リーン……と、まるで警告音のように。

湿った空気が体中にまとわり付いて、実に不快だ。


 石段を上がり切ると、鳥居の前には奴が1人きり。

警告音もなくなり耳が痛いほどの静寂に包まれている。

独り? さっきまであんなに大勢いたのに……。

 何気ない顔で鳥居をくぐろうとして、

奥の境内に向かって一礼する俺。


「先程はどうも……クロコさん」と鳥居中央から

ややこちら寄りに立つ、アイツが話しかけてきた。

「……は? あぁさっきの……

でも、人違いじゃないかな」

「失礼、間違えてしまったようです。【モデリングの天狗】さん」

 野郎っ……二重三重にムカつくっ。

しかも、そこまで調べが付いているとは。

「……【モデリングのサブ】、に何か御用で?」


 二つ名まで知られていて観念した、という訳でもないが、

ハスに構えるのを止めて冷静に正対することにする。

金メッキの校章が付いた黒い学帽を目深に被り佇む中坊、いや、

正確には坊主頭じゃなく、耳まで隠れるウェーブ掛かった黒髪。


「ええ、それはもう。色々とお話を伺いたく思いまして」

 大人ぶった慇懃無礼な話し方をする奴だ。

中坊なら中坊らしく、もっと

KUSOガキっぽくしてろってんだ。

「話より、得手なのはモデリングなもんで……

何か作成の依頼でも?」

「いえ、これまでに創ったモノのお話を聞かせてもらえませんか、

“みるくクラウン”の話を」

 バレている、すべてお見通し、というわけか。

「その、みるく何とかっていうのは、どんな物なんで?」

「ご存じないというのなら仕方ありませんね。

お連れさんにでも訊くことにしましょうか」

「彼女は関係ないッ、もう帰した」思わず怒気を漏らしていた声に

自分でも驚く。

「関係ないかどうかは、こちらで判断します。

あなたのお話が参考になれば、“話”は別、ですが」

「……いいだろう」

お惚けはもう止めだ。


どんよりとした大きな黒雲が現れて、星々を覆って目隠しをする。

 七夕のお話を7日が過ぎてから投稿するというのは、なんだか気が引けたのですが、どうせ太陽暦なんだし構わないだろうと割り切りました。

 実際、今年(2015年)の7日は全国的に雨模様でしたし。

 旧暦・太陰暦での七月七日のことを伝統的七夕とも云うそうで、今年の七夕は8月20日(木)らしいですな。

 短冊の後に参詣・祈願すると相乗効果(コンボ)あるかも。

 ちなみに本作中では太陽暦でして、この年この日の月は更待月(ふけまちづき)、月の出は午後10時頃。月明かりに邪魔されずに星を眺めることができたことでしょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ