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15 小部屋、ターニング・クローコ(Turning Cloako)

……俺は大莫迦(ばか)野郎だ。

ずっと順調だったのに

最後の最後で、しくじった。

いつからだ……どこからだ……。

思忍ちゃんからの依頼を引き受けたときか? 

あのときはできそうな気がしたんだ。

再三確認して結論を出した。実際、

あのAId3Dムービーは完成したし、

ちゃんと値が付いた。


 だが池袋での打ち合わせのとき、

現金指定しなかった。あンのレイバン野郎っ、

円点でしか払えないなら最初から言えよってんだ。

……いや、社長に八つ当たりしても仕方ない。

前金は現金で貰ってるし、後金だって

円点でなら払うと言ってくれている。


 それから……それからポーリーを、野良デッキを

カスタマイズして渋谷へ行った。☆さやかのためだ。

新宿にも行った。☆さやかのためだ。

……いや、違う。俺自身の欲望を満たすためだ。

……考えてみれば、

あのムービー作品も☆さやかのことも

俺のエゴ(egoism)にすぎない。

……欲をかきすぎたのか。欲に目が眩んでいたからか。

俺は、本当に思忍ちゃんを救おうとしていたのか、

彼女のことをどれだけ考えていたというんだ。

大金を稼いでいる気になって、

〈☆さやか〉と遊び呆けていた。

AIなんかに(うつつ)を抜かしていた、

『〽愚か♪者よ』。


……罰なのか、これは。

どうしてこうなった……。可愛い従妹が……

あのおしとやかな思忍ちゃんが……自分からっ……

オムぁんこ(OMANKO)を、おっぴろげているっ……

あんなにもっ破廉恥な格好で。

見るからに難民、家なし仮設暮らし、下層階級の男達に

笑って全裸を晒して……。


 何の罰なんだよ、これは……。

俺は見ることしかできない。

いや、視ることを強いられている。

 やはりこれは罰なのか、

こんなにも救い出してあげたいのにっ、

いますぐ殴り込んでっ……

ぜんぶ終わりにしてやりたいのにっ……。


 10人もの男達がひしめく

八畳ほどの、こんな狭苦しい部屋の中で、

ビデオカメラのファインダーLCDを経由して

ヴァイザー越しに彼女を見続け、

ただただ撮影するしかない俺。

 片手持ちの小型カメラにはペン型LEDが取り付けてある。

その赤い光で彼女は俺の……カメラの現在位置を探してすぐに

見つけることができる。目線を寄越した彼女に見えるのは

赤いビームとカメラだけ。俺の顔や姿は見えない。


……彼女に会わせる顔なんて、ない。

カメラを持つ俺の手は見えても、

手首から全身に至るまで

光学迷彩(optorpass)で不可視だ。

今の俺は第三世代のカクレミノAIを

頭からすっぽり被り、その下では

全身が黒ずくめな黒子(くろこ)姿だ。


 バッキーズから借りたこの黒子衣装だけ見たら、

外国人なら新手のニンジャかと思うだろうな。

いないことにしてください、という黒衣(くろご)

舞台文化における日本の伝統。

 その上から、伝説の化物“天狗”の秘密道具、

透明人間にしてくれる“隠れ蓑”(cloakmanteau)で

姿を隠している俺は……

さしづめ、「黒子天狗(クローコ)」だ。

透明カメラマン兼影のプロデューサー、

【黒子天狗P】だ、KUSOったれ!


……男どもが嬉々として

彼女のOSHIKKOを飲み始めた。

醜い……酷すぎる。なんなんだよ、これは。

 あんなに可愛くって綺麗で、

どこに出しても恥ずかしくない彼女が、

あんなことを……こんな淫らなことを……

させているのは俺だ……

追い込んでしまったのは俺だ。

どうしてこうなった……。


「一時は危なかったけど、なんとかなったねー。よかったぁ」

頭巾ヴァイザーに映る

☆さやかが呑気に言う。


 良いわけあるか。そもそも、

奴らが反則なりNGさえしていれば、

それをダシに疑似Xビデオの撮影を

とっとと始めて、彼女は無事なまま

ポルノ作品をデッチ上げることが

できたはずなんだ。

 なのに奴らときたら、10ゲーム

すべてクリアーしやがった。


 だいたいだな、シークレット・

ライブって何だよ、何の相談もなく

急にアドリブかましやがって。

「ごめんね、咄嗟のことだったんで、ああするしかなかったの」

 かしこまって言う☆さやか、百合の花びらの上で膝を抱え、

赤いコスチュームに身を包みながら、

「ああでもしなかったら“抜け駆け”が発生して収拾が付かずに、

ルール無用の集団強姦(ギャングバン)が発生していたはずなの、

確度77・7%でね」


 そんな馬●(BAKA)な、そんな雰囲気じゃなかったぞ。

「お願い、あたしの因果予測をもう少し信じて。

ステージ10途中までの傾向分析の結果、

それに『ナイトタウン』での経験から判るのっ。

あの10人の中の約1名が聖水プレイに目覚めて

“抜け駆け”することになったはずなの」


 信じていないわけじゃない。実際☆さやかは

良くやってくれている。俺からの指示や台詞を彼女に伝え、

演技指導までしてくれてるんだからな。やりすぎなくらいだ。

 問題は奴らなんだ、テキトーに集めた男ども。俺から見ても

ヤバそうな雰囲気になったのは一度や二度じゃないしな。


……仲間割れしている場合じゃない。

今の俺には☆さやかが必要だ、

思忍ちゃんを無事に取り戻すためにも、

「みるくクラウン」をデッチ上げるためにも。


 だが解っているんだろうな? “唇と純潔”、両方を

温存したまま撮影を無事終了する、それが彼女の切実な願いだ。

 これまでのゲームの進行はほぼ、あのAId3Dムービー

原作の筋書き通り。

 そしてこの後、観客達によってニンフは犯されるのだ……しかも

自分から悦んで。


 それだけは、それだけは再現してはならないっ。

「AI,AI,sir! 

筋書きを変えるためにも、

数分でいいから時間を稼いでっ、サブロー。

その隙にギャングバン・シミュレーションと

新しいシナリオを練るからっ」


 そう囁いて笑顔でウィンクして見せる☆さやか、


「ねっ信じて。ここからは

筋書き通りにはさせないっ。

結末は変えてみせるよっ、

あの〈Nymphomorphose〉とは別のネッ」

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