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13 五均バー、三死街、〈Xドール〉

 明けて木曜の朝、

自室のベッドで寝転びながらサイトをチェックすると、

例のムービーの売れ行きが700枚以上になっていた。

この調子なら今日明日にでも1000枚を超えるのは確実だ。


 ☆さやかはあれからずっと早朝まで、

歌舞伎町『ナイトタウン』に接続しっ放しだった。

何を学んできたのかは解らないが、目に見えて現れた変化は

彼女のコスチュームだ。

 一度は自分で仕立てたあの可愛らしい衣装を

ヘンタイドル(Hentai-Idol)仕様に仕立て直した。

改造衣装を身に纏った彼女は小悪魔的で、

実に……男心をくすぐるのだ。


「どう? こういうの……好き?」囁く☆さやか。

「イイね! 前はなかった白いストッキングとかグローブとか

特に……いいね。そこだけ見たらまるで花嫁衣裳みたいだ」

「えへへっ、でも……他はそうでもない、よ」

「あぁ……スカートなんか、ぐっと短くなっちゃって……

いやらしい女だねぇ」

「やんっ、サブローの前でだけ、だよ」

顔を赤らめて恥らってみせる。

「いけない娘だ……こっちへおいで……」


 麦藁ヴァイザーから跳び出す勢いで

抱き付いて俺の上へと跨る☆さやか、

濡れる唇を尖らせてキス顔、やがて

頬を寄せ、見えるのは耳から後ろ髪

そして……愛らしいうなじ。


 その感触も体温すらも味わえないまま、虚ろな夢の中で

彼女を抱きしめながら、俺はベッドに横たわり続ける。



 次の日の金曜、陽が高く昇ってもう昼前。

飯とトイレ以外はずっとベッドの上で

☆さやかと2人きり。

俺のデック・テクニックによって

矢印ネクタイの先っぽをビショビショに濡らした

彼女は、ヴァイザーの中で善がり果てている。

 今まで気に留めもしなかったが隅々まで体を点検してみて、

ヘソを造り忘れていたことに気づいた。なくても

困らないし、まっそのままでいいだろう。


 ベランダに出て長煙管を咥えて一服し始めた俺、

〈Xドール〉を買おうか真剣に悩み中。メーカーお仕着せの

内蔵AIを無効化して☆さやかに入れ換えれば、

お互いにもっと愉しめるはずだ。彼女の感触を

この身で直に感じることができるのは勿論のこと、

彼女だってドールの性感インターフェイスを介して

俺のデックニックをダイレクトに知覚することができる。


 さてと、問題は価格だな。

なにせ安くても1体壱万円は下らない、

値が張る大人向け等身大人形だ。

政府補助金を足せばハイドロ・カーが1台

買えてしまうような高額商品。まぁ、

俺はペーパー・ドライバーで

自家用車は持たない主義だから

――家には駐車スペースがないのだ――

デック人形の1体くらい持っていても

贅沢ではないのかもしれないが。


 そうそう、《ソフト・オン・バンク()》社製のは

避けないとな。なんでも、X機能未搭載だった

初代〈クルーゾー()〉が一斉に狂ったとき以来の不祥事で、

今度はユーザーのDNA情報が大量に国外流出したとか。

『専業メーカーのくせに、いったい何バンクなんだよ!』

『もう、ドールっていうレベルじゃねぇぞ!』って

大騒ぎになってるところだし……。


「ピン♪ポン♪パン♪ポーン♪」


やおら起き上がり素に戻って、定期巡回の報告を始める☆さやか、

「ムービー販売数が1000枚になったよっ!

 ムービー販売数が1000枚になったよっ!」

 口を丸く大きく開けてコーン型スピーカーになった後、

また突っ伏して果てたままに戻る。


「ぉっお~、予想通りだな~」両腕を上げて軽く伸びをしながら、

嬉しい予定調和に満足する俺。

 バッキーズの社長は土日よりも今日のほうが都合がいいらしい。

指定の期日よりも2日ほど早くなったわけだが、

後金を貰いに池袋まで出かけることにする。


「やっぱり行っちゃうの?」

寝返りを打ちながら

淋しそうな声で言う彼女。

「あぁ、付いておいで」着替えながら言う俺。

「部屋に居たほうが愉しいのにっ」

全裸でベッドから

ピョコンと跳び下りて、

爪先立ち。

「これも仕事の内だからね、キミも外行きの服に着替えてくれよ」

「そうぉ?」不服そうな顔をするも、

クルッと回って一瞬で身に纏うのは、

白いレオタード。

「そうさ」と俺ニヤリ、

「でないと俺が目のやり場に困ってしまうからネ」



 イイ女といるとツキが回ってくるもんだねぇ。

ここはいっちょ験を担いでカツ丼でも食うとしよう。

昔ながらの本物は贅沢すぎるんで、池袋駅前で見つけた

《丼亭()》に入る。数ある丼物屋の中で互換カツ丼が

いちばんマシなチェーン店だ。


 半無人の店の中、養豚カウンター席に着き、

注文・会計して1分でデッキ上がり。テーブルから

排出口を抜けてせり上がってきたそれは、

〈カツ丼[互]豚こま成型肉()〉だ(5円也)。


 丸々一頭の豚からブロック肉を、ブロック肉から

カツレツ向けの一枚肉を切り出したのは本物用で、

上流階級向けの食材だ。見栄えを整える際に

切り落とした細切れの肉がかなり出るんで、

それを掻き集めたのが豚こま肉。

 ピンクスライムへと加工される前に

厳選された屑肉が《オーストラリア(Oz)》や

《ニュージーランド(NZ)》から輸入されているとか。


 バラバラでペラペラの薄切りOrZ(オーズ)ポークに

テキトーな繋ぎを混ぜて一枚肉のように成型し、

テキトーなパン屑粉をまぶしてから

テキトーな食用油で揚げたもの、

それが大衆向けのトンカツ互換材となる。

 さらにそれを脱脂醤油ベースの甘い出汁で

玉ネギと一緒にさっと煮込み、溶き玉子で閉じて、

白飯の上に乗っける。


 火が通りすぎていないフワッフワの玉子と

カリッカリの揚げカツが醸し出す絶妙のハーモニー。

肉が安っぽくて脂身がちっとばかり多めなんだが、

慣れるとこれが結構オツなのだ。


 明治から続く日本独特な洋食文化、

カツ丼の歴史や薀蓄を

☆さやかがピックアップして表示する。

「旨っハフッうまっ」

 半分くらい食い終わったところで、

ふと店内を見渡してみると、大勢いる客の中で

丼を手に持って食ってるのが自分だけなのに気づく。

 チェーン店だからか、ここがどこだか忘れていたが、

北池袋にほど近いココはそういう場所柄、土地柄なのだ。


 長居は無用。カツ丼をさっさと平らげて、

出涸らし茶で口の中をさっぱりさせる。備え付けの

キャンディー・ジャーから生姜ドロップを1個もらい(無料)、

口の中へと放り込む。


 舌にこびりついた脂を拭うようにしてドロップを舐めながら、

そそくさと店を出た。



 雑居ビル3階の応接間、ガラステーブルを挟んで

バッキーズの社長と話す。


「いや~、売れ行き好調ぉ、

評判いいよ~、ツバッキーちゃ~んっ」

レイバンで目が隠れているものの

機嫌よさそうに笑う社長、

「今だから言うけどね、ちょっと

ファンタジー色が強いというか、

アートっぽいというか、

説教臭いっていうか、

正直どうかな~? って

思ってたんだけどねっ

結構ウケるもんなんだねぇ! 

はっはっはっ!」


「ハハッまぁ~何ていうか、処女作っすから、あんなもんですわ」

とりあえず謙遜しておく俺。

「いやホント

うちも勉強になったわ、

恩に着るよっ」

 そんな会話を繰り返し、話が

横道に逸れそうだったんで、

ちゃっちゃと本題に入る。


「で、約束の後金のことなんスけど、やっぱり日曜以降ですかね」

「いやいやいや! 

今あげるよん」

 社長は白いワニ革の長財布を

おもむろに懐から出して

テーブルの上に置く。

 また随分と趣味のいいことで、って、15kは嵩張るから

入り切るとは思えないが……。


「ホイッ、

受け取ってよ、

150万~銭~」

 ヴァイザーに表示されるのは

“1,500,000円ポ”の譲渡申請、

こちらの瞬き一つで受け取ることができる。


「……ぁ、いや、円点じゃなくて現金でもらえませんか、ね?」と

受け取りがタイムアウトになって、ようやく口が開く。

「え? 何よ?

円点じゃダメなの? でもー、

現金じゃ渡せないよ。うちも客からの

支払いは円点で済ませてるからね、

この商品の売上は円点ベースなのよ」


 マズイッ、

円点ではアシが付いてしまう。

俺が受け取る分には構わないが、

俺から白州家に渡す際には

大きな金額が記録として必ず残る。たとえ

伯父さんの会社が持ち直すことができたとしても、

後から調査名目でガサ入れを受けることは確実。

 円点取引は芋づる式に筒抜けだからだ。


「え~、それならそうと先に言ってくれないとねぇ、

こないだの話では現金指定とかなかったでしょ?」

 そうだったか? ……思い出せないが、

予想外の事態ってことは、きっとそうなのだ。


「あ……んでも、

どうしても現金でないと、

ダメ、なんスよ……」食い下がる俺。

「ふーん、ま、ワケは訊かないけどね」

 レイバンの向こうで値踏みするかのように思案して、

「現金で渡すことは、できないこともない、けどねぇ~」

 チラリとこちらを向いて話を切り出す社長、

「いや、実はね、あの作品、

うちの常連客に評判いいって言ったじゃない? 

客が言うにはだね、

『この“パイロット版”はイケる。実写で早ぅはよぅ』

だってさ。

 ほら、うちAVメーカーだからさぁ、

常連客もやっぱ実写がデフォなわけっ」

「はぁ……」

 歴とした作品のつもりなのに

試作品だと過小評価されたことに

ムッときて、俺はコトの深刻さに

気が付かない。


「そこでさ……」社長は声を潜めて、「あれを実写で再現した

ビデオがあれば、爆売れ間違いなしっだし、何より現金で買って

もらえるってわけよ。うちで創ってあげるからさっ、今度うちに

連れておいでよ~、モデルさん」チョビ髯がニタリと笑う。

「はっ? いや……

モデルとかそういうの、

いませんけどっ」

 と、慌てて咄嗟に口を突いて出る嘘。


「はっはっはっ、とーぼけちゃっても~う、こないだ近くまで

連れて来てたでしょっ。あんな上玉がこんな場所にいるのは

不自然すぎて目立つからねぇ。アタシほら、スカウト上がり

だからさ~、オンナ見る目は確かなのよっ」

レイバンを摘んでみせる社長、


「作品の女の娘と特徴がそっくりだったからねっ、ピンッときた

わけ。その場でスカウトしようと近づいたんだけどね、おっかない

犬がいたんで渋々諦めたのよ~。ねっ、こんど連れといでよ~。

パパッと撮影してササッと編集して、ジャンジャン売り捌くのに

1週間もかからないよっ。ほんで、ツバッキーちゃんは

現金バリバリだしっ、いい話でしょお~?」

 論外だッ、本当に、

びっくりするほど、だ!


「今月中に1万5千なんて、他に手はないと思うけどねぇ。

……そうだ! なら、自分で撮ってみる?」

「……はい?」

 頭が……

うまく回らない、

考えが、まとまらない。


「機材やら小道具なんかは、うちにあるもの使っていいからさ、

生データ持っておいでよ。うちがパッケにして捌いてあげるから

さっ。デキさえ良ければ、納品したその場で現金で買い取って

あげてもいいよん」

「いや、それもちょっと……」

 それって要は、体のいい

“下請け”ってことじゃないか?


「なら、円点で受け取っちゃいなよ~、

ハイドロ車でも買えちゃう額だよぉ。

どんなワケがあるのか知らないけどさ、

うちの問題じゃないからねぇ……。

まっ、2、3日よく考えてみてよ」



 社長への返事を保留してビルを出た。

昼間は晴れていたのに、

いつのまにか小雨が降っている。

六月になって早1週間が過ぎようとしている。

梅雨時で天気が変わりやすい時期だ。

 池袋駅まで濡れて歩く。雨に打たれるが、

麦藁ハットの下で血が上った

ポマード頭にはちょうどいい。

 なぜだ、なぜこうなった

なぜ今この手の中に15k円がない?


「キャッシュじゃないとダメだって言ってなかったのか、俺は」

独り言る。

「そうね、さやかもあの時いて聞いてたけど、

現金指定はなかったよ。ログみる?」と囁き。

「そうか……いや、いい」


 サンダルを履いた裸足の足が冷たくなってくる。

取り急ぎ報告のため〈アルベルト〉へ電信、それと

円点でも構わないか思忍ちゃんと確認するよう頼んだ。


 現状を整理、してみよう。

円点なら15k円相当はゲットできる、

そこまでは成功している。

現金でもらえるものと思い込んでいたのは……

俺のミスだ、片手落(かた・て)おちだ。

 最初にしっかりと条件を付けておくべきだったんだ。

KUSOったれ! 俺は……

自分のズリネタをAId3Dムービーにして悦に入る

ただのスクリプト・キディだった……。


 とはいえ一応、現金でゲットすることも可能だ。

社長の提示した条件を飲むなら、だが。それは……

それは思忍ちゃんを生贄(いけにえ)に捧げることを意味する。

それだけは……ダメだ、絶対ダメだ。


 バッキーズに彼女を渡してしまったら

最後、えげつない契約書にサインさせられて、

ありとあらゆるヘンタイ・プレイを強要されることだろう。

法律は味方してくれない。

おとなしく従ったとしても

賞味期限切れと判断されたなら、

「三死街」に売り飛ばされるのがオチだ。


 あそこは地下経済への入り口、もうこの世ではない。

いや、というより、この世のありとあらゆるヘンタイが

凝縮してしまった、異常性欲の吹き溜まりだ。

かつては認可されていた性フーゾク産業が

全面違法化されたとたん、

三死街で合流し、

一斉に深化(アングラ)した。


 例えば、六本銀坂の高級ホステスがストレス

発散のために新宿のホストクラブに通う。

ホストは闇の住人で彼女を篭絡する。

歌舞伎町のどこか地下で

ホストの欲()の前に跪く彼女。

関係がほしければ従えと言われ

欲望から拒否できないホステスは、

知らない男達に後ろから突かれまくるのだ。


 欲棒にむしゃぶりつく彼女にもやがて限界が来るが、

お構いなしにハーブを目に落とされ、生けるXドールと化す。

 その周りを取り囲むのは、撮影会と称して

人気ホステスの交尾を写真撮影する、カメコ達。

 何人目の男で彼女が果てるか

――正気や命自体が、という意味でだ――

延々と賭け続ける、ギャンブルKICHIGAIども。

 その一部始終を

さながらドキュメンタリーのように

動画撮影し続ける、地下ポルノ密売人。


 悪魔超人も裸足で逃げ出すほどの、サバトが現出するのだ。


 昔の言いぐさで『泡風呂に沈める』なんてのがあったが、

ソープランドが全面違法化となってからはすっかり廃れた。

今ではそんなカネに困った女達は、ただの供物なのだ、

変態性欲者という名の性器魔獣どもへの。

 きっと歌舞伎町では『〽今夜も♪1人』

誰かが『〽生きたまま♪聾人形の如く』、

哀れな『〽イケ(にえ)♪となる』のだろう――


……そんな、この世の地獄へ

思忍ちゃんを案内するわけには

いかない、絶対にだ。



 ネオたま駅前のビル地下にある行き着けのバー。

無性に酒を煽りたくなってグラス1杯の

ビール[互]発泡酒《キリッン》で喉を潤す俺、

立ったままカウンターに寄りかかり、考えを整理する。

『〽ドブネズ♪みたいに』濡れたまま押し黙っている俺のことを、

顔見知りのバーテンダーは適度に放っておいてくれている。


 グラスはすぐに空となり今度は《サントリヰ》をオーダーする、

俺。

 すぐに出してくれてポリ・コースターにグラスをコトリと置く、

バーテンダー。

 腰の組紐から抜き取られステンレス製トレイの上でチャリンと

音を立てる、黄銅の五円玉。


 行き着けのバーなんて格好つけたが、所詮は五均バーさ。

高くつくのはシェイクしてもらうときだけ。

 彼は『バーテン』と縮めて呼ばれようものなら

怒り出す、昔気質のバーテンダーだ。


 塩茹での枝豆――若造で青い大豆だ――を摘み(ツマミ)に、

互換ビールを味わいもせずグラスの半分まで飲み終わった頃、

ヴァイザーに現れる〈アルベルト〉、


「円点じゃダメだってさ、というか円点なら3万の足しになるほど

持ってるんだけど、それじゃ問題は解決しないんだって」

溜息のような鼻息を出して言うGシェパード型、

「やっぱり3万円分のキャッシュが必要らしいよ」

「さやか、コイツに詳細を」呟く俺、まるで

黒字倒産みたいな話になってきたと

呆れて説明する気にもならない。

「こんなことがあったんだよ~」

 と数瞬だけ〈アルベルト〉と会話、相互通信する☆さやか。

 AI言語による高速転送だ。


「ふぅん。ボクにはコトの重大さがまだよく解らないんだけどね、

シノブの安全にかかわるのかい?」と尋ねるお子様向けAIに

三死街サバトの典型例を説明してやる。

 俺にも聞こえるように、そこへ付け足す☆さやか、

「プレイ中にハート・ビートをロストしたとしても

プレミアがつくんだよ~、スナッフとして。仕入れは

ホステスに限らないけど、渋ヤクザとの協定で

未成年はそこまでにはならないようにって、

イチオー、仕切られてるみたい。

そうじゃないと警察との手打ちが難しくなるんだってっ」


 ますます気が滅入ってくる俺、

空のグラスを下げて《ヱビス》と

乾き物のミックス・ナッツを注文する。

 織部焼ボウルで出された安い

ミックス・ナッツの半分は

ピーナッツ、南京豆だ。


有耶無夜街(ノーィトタウン)』で収集した数々の情報を捲くし立てる☆さやか。

 太い眉を上げて興味津々で聞き入る〈アルベルト〉。

 ナッツもどきの南京豆に飽き飽きしていたとはいえ、迂闊にも

“びぃる”で喉に流し込んでしまう俺。


 社長から現金で貰えない以上、

円点で受け取るしかない。円点を

現金に換えることができればいいんだが、

銀行のような特別免許事業者以外は違法ときてる。

しかも、マネー・ローンダリングの大罪だ。

額が額なだけに、間に現物を挟んだとしても

追跡される恐れが極めて高い。

 なんとかアシを残さずに

円点を現金に換えることが

できないものか……。


 混ざり気なしの黒《ギィネス》をハーフ・パイント飲み干した

後(10円也)、へーゼルナッツのリキュールをワンショットした

エスプレッソをちびりちびり(店/バーテンの奢り)。


 すると黒い〈アルベルト〉が、

「残り時間も限られているのに、そんな不確実性の高い計画は

進めるべきではないだろうね」あっさり却下しやがる上に、

「確実に現金で手に入れる方法なら、そのレイバンマンが

教えてくれているじゃないか」などと知った風なことをほざく。


 からかうように長くて大きなベロを出して見せる、

黒いGシェパード型。

 その横で微笑みながら、うんうんと頷く、

淡いミント髪のニンフ。

 シェイカーが奏でる小気味いい

サウンドに耳を傾けながら、

長煙管の煙で輪っかを吹かして、

口を開けたままの俺。

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