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9 池袋、パノプティ公園、〈ハイドロ発電木〉、〈ブラウンダム〉

 1日平均13時間、ヴァイザーで

☆さやかを目にしているとすると、

毎日最低1回はデジャブゥを覚えることに気づいた。

口癖や仕草に特定のパターンが見出せそうなのだ。

 試しに彼女にコイン・トスを百万回させて

表/裏の結果を分析することにした。


「とりあえず」囁く☆さやか、「2のべき乗回目の結果は

必ず表、7と13の倍数回目は80%以上の確率で裏となる

パターンが見つかったわ。時間をかければもっと見つかる

かもだけど、自分自身の構造解析をしているみたいで、

何だか落ち着かなくなるわね」

「わかった、もういいよ」


 AIの自己保存機能が危険域を感じ取っているのだろう。

深追いは禁物と判断した。別に、ビッグバンを

シミュレーションするだとかの科学技術演算を

させるわけじゃなし、この程度の偏りは

無視するのがフツーだろう。が、ここは

興醒めしないためにも何らかの

ランダム発生器が必要だ。


 とある石ハッカーに言わせると、

2つのスカラー石を組み合わせた〈ブラウンダム〉とやらを

カードに載せてポーリーに挿せば解決するらしい。



【ゼロ(ヘルツ)プロセッサ】

 動作周波数の保証ゼロ・廃熱ゼロ・追加電力ゼロを目標に開発されたスカラー型プロセッサ。日本半導体メーカーの技術力をアピールするためだけに製造され、「可逆回路」で構成される。


【可逆回路】

 AND等の不可逆ゲートをCCNゲートで置き換えた〈論理回路[互]CCN〉。従来の論理回路では、回路再利用時のレジスター強制初期化や動作周波数を一定に保とうとする際に追加電力を要し、それに比例して発熱が増大する。可逆回路では、回路への入力から得られた出力を同じ回路に逆向きに入力することで、得られる出力は最初の入力と同値となる。結果、電力消費ほぼゼロで回路をゼロ・クリアし、次のサイクルで処理実行することが可能。

 一連の処理は投入電力の追加ゼロ、かかる処理時間は不定となるため、動作周波数の保証なし、そのため「ゼロ㎐」と呼ばれる。厳密には1G㎐(ギガヘルツ)前後の低周波数で動作し、消費電力も発熱もゼロではないものの、限りなくゼロに近いその発熱は回路を逆転する際に利用されるため、廃熱は事実上ゼロである。真空の無重力空間で衝突するビリヤード玉によって実現される、ゼロ摩擦の計算処理モデルに端を発している。


【ブラウンダム】

 微細加工された「可逆回路」は、ブラウン運動の影響を避けられないため処理途中でも不規則に可逆してしまう、千鳥足型である。予測不能な千鳥足、それ自体を観測する従来のプロセッサは、物理的な乱数発生器として機能し得る。

 ブラウンダム(Browndom)と称される、この複合プロセッサ自体は商業的には成功しなかったが、ランダム発生器としての応用に着目したネットカジノ業界が、ポーカーAIにこれを採用、派生品の普及に繋がる。


 〈ことテン〉おわり。読んでも何がなんだか、さっぱりだな。



「そっちの『要らないものリスト』の中に

〈●プティ●ン()〉っていうスカラー石があるだろ。そいつの

放熱板をカミソリで外して、チップ周辺の回路を鉛筆でなぞって

ショートさせてやれば、リミッターが外れる。必要なのは

HB以上のグラフェンだけ。その石のロット・ナンバーなら

間違いない」と件のハッカー、【確変のカツ】。


「そんな旨い話、

聞いたこともねぇ」

と半信半疑な俺。

「そりゃそうさ。製造された石の内で百万個に一個の割合しか

なかったからな。昔のアキバにはそういうのが世界中から

集まって来てたもんさ」

「失敗したら壊れるだろ」

「あぁ、素人にはお勧めできない。『石橋を叩いても渡らない』

タイプか?」

「それをいうなら、

石を叩き壊したくない

タイプだな」


「わかった。じゃあ、俺が持ってる改造済みのやつをくれてやる。

俺はそっちの未改造の石がもらえればいい。それでどうだ? 元々

新品じゃないんだし、動作することは俺が保証する。悪い話じゃ

ないはずだ」

「そこまでしてアンタ、引き換えに

こんなコインを売ってほしいのかね」


 とあるハビタイヤーさんが、にっぽんネット本籍地で公開

している『要らないものリスト』に〈ヘンテコな五百円玉〉と

あり、実は解る人にはわかる符丁で2万円もの値が付いている。

浄化七年と製造年が刻印されていて、穴の位置が中心から微妙に

ずれてしまっている、いわゆるエラー・コインだ。


「五百円玉はこれまでに10億枚以上発行されてるが、エラーが

見つかったのは他にないんだよ。製造時に選別AIから逃れたほど

ラッキーなコイツに渡りを付けてくれるんなら、改造品なんざ

安いもんだ。2万円以上で買ってもいい。人間、最後に頼りに

なるのは天運(ツキ)だけだからな」


 些か唐突だが、平成末期までの日本には

公営ギャンブルと未公認ギャンブルの2種類が存在した。

未公認ギャンブルは「パチンコ」パーラーと自称し、

無人販売機から発展したピンボールやスロットマシンを

日本で独自に発展させた玉ゲームが、パチンコ(またはパチスロ)。

ゲームで手に入る景品がパーラーとは別の交換所で

間接的に現金化されるというカラクリだ。


 パチンコは国内で『現代日本文化の恥』とまで呼ばれ蔑まれた。

昭和の大戦前にデッチ上げられた、ただの暇つぶし遊戯だったはず

なのに、大戦後になって事実上の賭博として蔓延したためだ。


 煙草等の特殊景品を客がヤクザに売り、その資金源を巡る

ヤクザ同士の抗争激化を憂慮した警察(ないし合法ヤクザ)が

『三店方式』などという法の網の目を掻い潜るような

カラクリを黙認して数十年後、パチンコ・ジャンキーは

全人口の10%、そのアガリは――統計可能な数字だけでも――

日本のGDPの実に5%にもなっていた。


 平成になってデジタル化が進んだことで、

映画、ドラマ、特撮、マンガ、アニメ、ゲーム作品などとの

タイアップが始まると、若年層を中心にして養分となってしまう

犠牲者が続出。


 浄化になってようやく、

ヤクザとパチンコの両方を同時に根絶することとなり、

ヤクザ資金の流れを追跡し廃業に追い込むと同時に、

パチンコ客が交換所で特殊景品を換金する際は

サイフでのみ可とし、現金との交換を違法化した。


 しかし、それでギャンブル依存症の廃人が一斉にいなくなるわけ

ではなかった。パチンコと入れ替わるようにして台頭したのが

《地下カジノ》だ。ネットにのみ存在するが、サイフを使わず

現金で報酬を得ることができるという何らかのカラクリで、

政府もその実体や全容を把握できていない(らしい)。


『少額の遊びを提供してパチンコ●●ガイ(KICHIGAI)どものリハビリをする、

これはいわば慈善事業なんだよ』と例のハッカーはうそぶく。

ギャンブラーどもの利用記録や個体情報を政府に横流ししている

偽悪者とも噂されている。


 ヴァイザーの中では格闘ゲームの空手家がこちらを挑発している。


「オーケー。ハビタイヤーさんと会って、

〈ブラウンダム〉は動作品を渡してくれ」

「そうこなくっちゃな、俺様のカジノではこれを使うことで客に

パターンを解析されたことは一度だってないんだ。そもそも存在

しないパターンを見つけることなどできはしない、そうだろ?」


“地下ジノ”界隈の石ハッカーは、ご機嫌にそう言い放った。



 納期の1日前、土曜の朝に作品が完成。

徹夜明けのまま一睡もせず、池袋は

バッキーズ・プロのビル前までやって来た。

 思忍ちゃんも一緒だ。治安やガラがいいとは

お世辞にも言えないような池袋に

彼女を連れて来るのは躊躇われたが、

どうしても付いて来ると言うんで、

ビル前までならという約束で、

そうなった次第。


 彼女には道路の向かい側にある別のビルの陰で

30分ほど待っていてもらうことに。警護AIがあるから

面倒なことにはならないとは思うが。


「〈警戒/索敵モード〉で護衛するからね」と〈アルベルト〉、

「相手が余程の身の程知らずかヴァイザーを持たない

モノでもない限り、トラブルは未然に防ぐことが

できるはずさ」眼光鋭く、こんなときは

頼もしい限りだ。


 応接間でソファに座って待っていると、

社長が出先から帰社。

 その場で光ディスクを手渡す。

90分のニンフ作品は3Dデータとして、

これに焼き付けてある。実写ポルノ・ビデオならぬ、

AId3D(CG)ヘンタイ・ムービーといったところだ。


 レイバンを掛けたまま、彼は自前のプレイヤーでメディアを

再生し、スキップを繰り返しては、内容や出来など品質を

確かめること十数分――

 販売OKのお墨付きを得た。仮に手直しの要請が出たとしたら

今日中に済ませるつもりだったが、何も足さず

何も引かなくていいとのこと。

 ふふん。なにしろ、モデル女優も含めて俺の自信作だからな。

ようやく前金の15(ケィ)円――キロ():=1000――を

受け取る時が来た。


 社長が四角くて平たいパルプ箱をガラス・テーブルに乗せ、

両手でこちらへ押してよこす。いかにもアナクロな時代劇を

彷彿とさせるが、じっさい後ろめたいカネなんで、このくらいで

丁度いいのかもな。


 菓子折り箱の上蓋を上げてみると

上等な箱の中身は、〈東京銘菓ぴよ子()〉だ。

 ヴァイザーの中で☆さやかが焼き菓子に興味を示す。

 〈ぴよ子〉はもともと九州は福岡県で有名なお菓子だったが、

昭和中期の東京オリンピックを契機に東京都へ進出。その際の

宣伝文句で「東京銘菓」を自称したところ大ヒット商品となって

今に至る。

 そもそもが福岡の博多銘菓というルーツを知っている人のほうが

少ないんじゃなかろうか。って、俺もいま知ったし。


 そのお菓子は小さくて可愛らしいヒヨコの形をしていて、

小麦粉の焼生地の中には卵黄やレンズ豆から練り上げたフワフワの

餡が詰まって、ほんのりと甘く、お茶請けとして喜ばれている。


 さて、1箱30ヶ個入りのお菓子の個包装それぞれを

持ってみて、その重さを確かめる。上品な和紙に包まれた

フワフワのぴよ子は軽いお菓子のはずなのに、

これは大福餅に近い確かな重さ。

 どうせまたここに足を運ぶことになるんで、

今ここで中身を開けてまで確認する必要はないとみた。


 肝心の後金は8日後の日曜、

その間に1000枚売れることが条件だ。

ブツを捌くのは社長任せで、常連顧客ばかりの

会員制クラスターの中だけで目立たず

ひっそりと売ってくれる。


「いったんバズれば口コミとかでメンバー同士の間に噂が広まる

からね、ディスク千枚なんてアッという間さ。コレならイケるよ~

間違いないねっ」

 陽気に言い放つ社長。ちなみに、予約件数や販売数量は

サイトでリアルタイムにチェックできるとのこと。



 受け取った経木の折箱を手提げ袋に入れて雑居ビルを後にする。

可愛らしいキャラが大きく描かれたぴよ子印の紙袋。

周りからは上京したてのおノボリさんにしか見えなくなる。


 四つ角で待っている思忍ちゃんと合流しよう。

通りの反対側に立っている彼女に向かって

親指を立てて見せ、「15k、ゲットだぜ!」

と電信を送る。


「何事もなかったようだな」と様子を見て

安心し、まず〈アルベルト〉に声を掛ける。

「1ダースほどの通行人から許容範囲外の目線を察知したけどね。

透明度を下げて唸り声を送ってやったら、そのまま通り過ぎたり

踵を返して行ってしまったよ」

「え?」軽く驚く彼女、

「そんなの私ぜんぜん気づかなかったよ……」

「とまぁ事程左様に、護衛のし甲斐のあるご主人様なのさ」


 と言って眉を下げモードも下げる、黒いGシェパード型。



 制服姿のJKと二人して、治安のマシな南へ歩いて公園に着く。

アスファルトだらけの都内でもここは例外的に土の地面で、

所どころ人工芝が植えられている。、

『都会の中のオアシス』をテーマにしている公園だ。


 都会を離れて田舎の村落などへ行くと、

野菜の無人販売所があって驚いたりするわけだが、

農家の百●(HYAKUSHOU)に感謝しつつ取れたての野菜を貰い、

無用心に置いてある箱に代金を入れる。不思議と

誰も盗んだり代金をチョロまかしたりしない、

牧歌的な治安の良さ(アルカディア)。

 そんな日本人の原風景を都会にも積極的に

取り入れようとしている、らしい。


 半径200mほどの大きな公園の中心には、

お決まりのコンビニがある。

屋根が噴水になっている円形の建物には

テナントが4軒は入りそうだ。

さすが都内23区なんでコンビニもでかい。


 独りでにスライドした〈歩けドア()〉を抜けると店内は活気が

あり、中央の円陣レジには店員が何人もいる。円陣レジを中心に

いくつもの無人販売機や商品棚が放射状に並んでいて、レジ待ちの

客――主に、サイフを持たない外国人観光客――の列が、やはり

放射状に伸びている。


 テナントには〈ポピュラス()〉と〈ファミソラ()〉、

それにセレセブ姉妹店の〈11/PM()〉が入っていて、

主に物品以外で各社独自のサービスを提供しているようだ。


 さて、別に買い物しに来たわけじゃないんで、

彼女を待たせて、店内の隅にたくさんある

トイレを借りることにする。

公園内には公衆トイレはないんで、

コンビニで借りるのだ(無料)。



 個室の洋式便器に腰を下ろし、

念のために監視AI等をタグらせてみたが、

☆さやか曰くAIの反応なしとのこと。思った通りだが

ココは当然、俺様の私事プライバシーが完全に保たれている、

希少で貴重なスポット。だが安心して長居しすぎると、

不審に思った監視店員が様子を伺いに来ることになるんで、

早速作業に入る。


 折箱から出して1つずつ菓子の包み紙を剥がし、

中に仕込まれてあった五百円玉を取り出す。

1枚また1枚と組紐に通してゆき、全部で30枚、

締めて壱万五千、確かに受け取った。

 腰のベルトに紐を結び、布製の紫袱紗に包んだ玉束を

見えないよう、短パンのポケットに滑り込ませる。

ずっしりと重い。


 最高額面の五百円玉硬貨は俺も滅多に見ることのない物で、

銀色に光る表面には靖国神社がホログラム刻印されている。

他のコインよりも一回りも二回りも大きく、それだけ重いのだ。

 腰の反対側には五円玉50枚弱の束もぶら下がってるが、

五百円玉30枚のほうが断然重くてバランスが悪い。

といっても、それだけの大金の重みというわけで、

自分のカネじゃないとはいえ、何だか気が大きくなってくる。


 用は足してないが地味なアリバイ工作として

トイレの水を手動で流しておく。貯水タンクから

シュワシュワっと供給される雨水フラッシュが

勿体なくて、なんだか申し訳ない。

 個室を出て洗面所、蛇口に手をかざし、

チョロチョロと出てくる水道水で両手を洗う。


 日本はまだまだ水に恵まれているほうだが、

世界では水が不足している。特にアフリカ地域は深刻で、

日本を始め世界中から良心的な科学者が集まって

緑化を試してはいるが、遅々として進んでいない。

 大型発電パネルを砂漠にずらっと並べて発電、

パネルで日陰になった砂地をなんとか土壌に変えようと

しているが、どうやら『焼け石に水』らしい。


 アラブ諸国も『明日は我が身』だが、どうにか体制を保って

いられるのは軍事的・経済的な同盟関係が功を奏しているからで、

《インド-アラブ-ユーロ連帯(IAEU(イーウ))》がそれだ。母音の

“O”が足りないんで「O-omitted」とか

『The Omitted』などと呼ばれたりもする。


 洗面台の鏡には、やや汗ばみ目の下にうっすら隈をつくった、

もう若くもない貧相な男が映っている。

 両手で水をすくって顔を洗い、気分をリフレッシュさせ

心の中で呟く。よし、金額は確かめたぞ。後はニコたまの

安全な所で彼女にこれを渡せば、今日の仕事は終わりだ。



 コンビニを出て公園のベンチで彼女と並んで腰を下ろす。

ベンチといっても背もたれはなく、横倒しにした長い

バウムクーヘンのようにアーチを描いたポリ丸太だから、

座るというよりは腰を下ろすという表現がしっくりくる。

 土曜でも休みでない下級サラリーマン達も別のベンチに

腰を下ろしながら、スーツ姿でコンビニ弁当をパクついている。


 そういえば、土曜だというのに

彼女の服装も学校の制服で、あのワンピースだ。

「学校はお休みなんですけど、むかし土曜がお休みでなかった

頃の名残で、制服を着てなくちゃいけないんです、校則で」

 別に苦ではないといった風で微笑んで説明する彼女。


 都会のコンクリート・ジャングルの中で、

この公園は土と芝生で整備され、

周りには植林された緑の木々が風に吹かれ

枝と枝とが擦れ合って、さわさわと音を立てている。

晴れ間のない曇り空、とはいえ

湿った空気が今は心地よい。


 植樹それぞれには〈ハイドロ発電木〉が寄り添って

建てられていて、日光をお裾分けしてもらっている。

 昔は農地を潰して太陽光発電パネルを大規模に並べよう

といった計画もあったらしいが、終日・年間を通しての

発電量が期待していたほどではなく、折からの

世界的な水不足と食糧危機も相まって、そんなものは

あっさり頓挫した。


 今では発電・蓄電する人工樹木という道を歩み、

主に持歩器のような低電力デバイス向けに電力を提供している。

その弱い電力は常時大出力などという保証こそないものの、

誰もが無料で利用できる。AIを通して使用履歴を残すことが

条件で、それさえ厭わなければ出先でバッテリー残量が乏しく

なったとしても、都内23区なら〈発電木〉から

無料で充電することができるわけだ。


 効率優先の大型発電パネルは

日光を貪欲に吸収するが、

パネル自体も含めて環境によろしくない。

効率を追求するのは程々にして、

垂直な〈発電木〉を並べて植えるほうが

トータル・バランスは上がるのだ。


 バランスといえば、どうやら彼女は

徹夜明けの俺の顔つきや様子が心配だったから

付いて来たそうだ。大金が動くんで、てっきり

信用されてないのかなと勘繰っていたが、

そうじゃなかったらしい。


 ☆さやかに《バッキーズ》のサイトをチェックさせて

みると、あのヘンタイ・ムービーの予約件数が

早くも50を越えたとのこと。

販売開始は明日からだからまだ安心はできないが、

このペースなら後金の壱万五千も無事ゲットできそうだ。

 そこで、景気づけに何か旨いものでも食いに行こうと

彼女を誘った。公園の出入り口まで連れ立って歩いて行く。



 公園の地下には緊急時の貯水プール設備があって

平時には駐車場・駐輪場として機能しているらしい。

消防車が待機していたり、燃料電池車のための

ハイドロ補給所もあったりする。


 都内の物流・配給の要にしようということで、

《日本公供物流》社が運営している公園だ。

〈発電木〉は《日本公供太陽》社の管轄、

植樹は《日本公供火木》社の管轄だ。


 プールを含め水素関連全般は

《日本公供土金水》社の管轄。

国土の隅々まで上下水道を張り巡らし、

レアアース等の金属資源を確保、

ハイドロ補給線を維持して、

水素結合させる役割を担う、

エネルギーの主役だ。


 こんな公園が都内23区なら1キロm()四方に1つは造られ、

災害有事の際には避難所の役目も果たすそうだ。

政府主導の公園には洒落た名前が付けられていて、

一般公募で〈パ・ノ・プティ()〉に決まった。

小さくない公園という意味の造語だそうで、

「パノプティ公園」とか「パノプティ・コンビニ園州」と

呼ばれて親しまれている。

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