アルバイト1
昼の1時、街には様々な人々が交差して歩く中。
人気の多い道路沿いに建つその、コンビニエンスストアに活気は無い。
「ピロピロピロピロ」
ここは某コンビニエンスストア。
自動ドアが開くと店内に鳴り響く音が深田の機嫌を損ねる。
「いらさせ。」
いらっしゃいませ。
とはっきり言わない深田が作る店内のムードは最低に近い。
明らかに働きたくないという彼の気持ちが態度と顔に滲み出ている。
「店長、新人の方大丈夫なんでしょうか。働く人間の顔じゃないですよ…。」
同じアルバイトの従業員に陰口を叩かれてるのをいざ知らず。
淡々と、レジを打つ深田。
「仕方ないだろ…人が足りなくて、面接で彼とネパール人の二人だったんだ。やむを得なくだな…。」
不満をこぼす従業員に対して溜息交じりで、店長も愚痴をこぼした。
「とりあえず今日が始めてでさっき簡単にレジを教えただけだから、他の業務も教えてあげてくれ。」
半ば投げやりの店長に従業員は呆れた。
「深田さん、私中嶋ですよろしくお願いします。」
中嶋はこの店で約2年働いている大学3回生だ。年齢的に深田の一つ上となる。
「うっすよろしくお願いします。」
深く頭を下げた。
その姿勢にわずかだが、中嶋は案外ちゃんとしたやつかもな。と思い直した。
「いや、年もそんな変わんないんだしさ、タメ口でいいよ。」
深田の第一印象は最低だったが、中嶋の人の良さが彼を受け付けた。
が、
「中嶋。レジ変われ。」
何を思ったか、深田、出勤して20分でレジ打ちをギブアップ。
目をぱちくりさせながら前かがみになる彼に、中嶋は殺意を覚える。
「じゃ、じゃあ品だししてもらってていいかな?」
いくらなんでも20分で休憩させるわけには行かないと判断した中嶋は、
すかさず、別の仕事を依頼する。
が
「やめとくわ、それ」
深田、拒否。
まさかお金を稼ぎに働きに来たアルバイトの人間が、初日で自分の頼みを拒否されると思わなかった中嶋には、状況が理解できなかった。
静かに湧き上がる怒りと、深田という人間に対しての危機感。
中嶋はどうすることも出来ない。
声がつまり、休憩室へ歩いていく新人の深田に声をかける事が出来なかった。
「おや?どうしたのかね?」
ずかずかと、休憩室に入ってくる深田に対して質問する。
「自分休憩いただきます。」
出勤して約30分。
30分で休憩。
頭の中を整理し、言葉選びに時間をかける店長の前で、
疲れきった表情の深田は椅子に腰を落とし、店のコーヒーの蓋を開ける。
「コーヒーか…久々だな。」
「あれ、深田君、今お店。あれ、中嶋君なんていってたの?あれ」
纏まりのない言葉に、深田は苛立ちを隠しきれなかった。
「っち、中嶋はレジ打ってますよ。」
勢いをつけて店長が椅子から離れ、店内の中嶋の様子を伺う。
中嶋は涙を流しながらレジの前に立っていた。
「うっぐ、なんなんだあいつはぁ…くそぉ…くそぉ…。」
遠くからは聞こえない音量で中嶋はぶつぶつとつぶやいている。
何も言えずレジの前に立っている自分への情けなさから、
彼の目から溢れ出る涙が止まる気配はまったくない。
「なんてやつだ…。」
悲惨。野球でたとえるなら一回目表で30点。
なんとかしてこの男をどうにかできないかと考えている店長の横を影が通り過ぎる。
「今日はここまでにしておきます。明日も1時に来ます。」
出勤1:00退勤1:40分。
この日の勤務手当て、およそ620円
深田は帰りながら初給料で何味のハーゲンダッツを買うか悩んでいた。