家族
深田の家は通学路沿いにある、住宅街の一軒家。
家の外装は2階建ての特別な所はほぼ無い平凡の家である。
深田の家と根拠付ける物は行書体で書かれた「深田」の表札。
「いってきまーす。」
朝の7時5分。妹が学校に行く。
深田には一人妹がいる。
深田はこの妹の声を聞くのが嫌いだ。
なぜなら学校を楽しんでいる妹が嫌いだからだ。
ただし、妹はそうではない。
妹は空助のことを心配している。長男空助を嫌ってはいない。
「コンコンッ」
7時20分。母親が俺の部屋の前にご飯を置く。
深田はこのノック音を聞くのが大嫌いだ。
黙って朝食をおいていけばいい。
ドアに向かって投げられたヘッドホンの回数は百を超えている。
母親はそんな空助のことが大好きである。
7時50分。父親が出勤に行く。
父親は無言で会社に行く、俺はそんな父親が大嫌いだ。
なぜなら楽しそうに会社に行かないからだ。
そんなに嫌なら会社をやめちまえばいい。
しかし、父親はそうではない。
父親は息子空助のことが大好きである。
深田には毎日課題がある。
「トイレ」、「風呂」、「アイスクリーム」の三つだ。
深田の嫌いな家族の目を盗み、以上三つのクエストを
毎日クリアしなければならないのだ。
夕方6時半、我慢してた便意と尿意が限界を向かえ、
第一ミッションの始まりを告げる。
ドアに耳を当て、人がいないか確認をする。
妹が隣の部屋にいるため、ここでばったり妹と顔を合わせてしまうのはまずい。
足音、人の息遣いなどが聞こえないのを確認し、ドアに1センチの隙間を開けさらに人の影がないかを確認。
ここまできたらあとはドアを静かに開け、俺が部屋から廊下へと足を踏み出す。
先ほど廊下に片付けた夕食の食器が綺麗さっぱり消えている。
いつものように足音を鳴らさないまま階段を上り、食器の音を鳴らさないまま俺の洗い物を回収していく母親の技術に恐怖に近い何かを俺は感じた。
廊下を出るとすぐに腰を低くし、匍匐前進で階段まで深田は這って行く。
少し階段の下を除き、人影がないか確認し、そっと立ち上がる。
目標のトイレは階段を降りて、リビングに通じる渡り廊下の側面にある。
俺は階段の踊り場で再び一階の渡り廊下に注意を配る。
「・・・よし。」
確信を得た俺は階段を下り終える。
一瞬油断を許した俺は、肛門に力が抜ける。
もう少しで朝からためた排泄物を一気に開放できる。
足音を殺し、トイレのドアの前に立ち、ひんやりとしたドアノブに手をかける。
「いやぁあああああああああああああああ!!」
そこには便座に座り、用を足している妹の姿があった。
「どけ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
半分パニック状態だった俺は廊下へ妹をつまみだし、便座に腰を落とす。
「ふぅ・・・。とりあえずセーフだが・・・。」
トイレを済ませた俺は、大声を出したにも関わらず排泄のおかげで
とりあえず冷静でいられた。
「ちょっとお父さん~~~~~~~~~~!!!!!」
廊下で大声で叫び続けている妹の声が耳障りだ。
「次は風呂か・・・。」
風呂の位置はこのトイレの部屋の向かい側。
なのでこのまますぐにバスルームに移動すれば難なく
第二のミッションはクリアだ。
おしりを綺麗にふき取り、俺はドアを開ける。
ここで、先ほどの慎重さはいらない、なぜならもうすでに
俺は妹に発見報告をされてしまったからだ。
「ふんっ・・・。」
廊下にはやはり涙目で俺を見つめている妹がいる。
知ったこっちゃない、俺が糞をしたかったからどいてもらったまでだ。
「私・・・まだちゃんとおしり拭いてないんだけど・・・!!」
うるさい女だ。また一発怒鳴ってやってもいいが、勘弁してやることにした。
妹はそそくさと、トイレに入り、鍵をかけた音がした。
その音を聞き俺はつい小声で声を漏らしてしまった。
「そもそもなんでお前鍵かけてなかったんだよ。」
返事を待たずに俺は向かいのバスルームのドアをあける。
「いやあああああああああああああああああ!!」
そこには今からお風呂に入ろうとする下着姿の母親の姿があった。
母親が息子に対して冗談でも顔を赤らめて悲鳴を上げる姿は、
俺の神経を逆撫でした。
「大災害日だ…。」
暫く虚を疲れた俺だったが、すぐに体勢を立て直す。
「糞ババア、勿論俺が先に入る。どきな」
俺は母親を廊下につまみだし、扉を閉める。
服を脱ぎ、素早くシャワーを浴びる。
母親が楽しみにしてたであろう湯船に唾を吐をはき、
約10分ほどで俺はお風呂場を後にする。
廊下では律儀に待っている母親の姿があった。
「も~くーちゃんはなんでそんないけずなの~?」
女を横目で流し俺は渡り廊下を堂々と歩きリビングに向かう。
おそらくリビングには父親がいる。
だが、もはやここまでくると作戦失敗、計画倒れだ。
ミッションを放棄。
力ずくでリビングの冷蔵庫の中にあるアイスクリームを取りにいくことにする。
「おい空助。」
父親が俺のアイスクリーム奪還を阻止しようとする。
が、そうではない。
「お前アルバイトしてみろ、じゃないとアイスクリームは禁止だ。」
「親父、俺がアイスクリームを止められた所で働くと思ってるのか?」
馬鹿な話だ。
親父はにっこりと笑って部屋へ戻っていく俺に一言も声をかけなかった。
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アイスクリームを止められて翌日。俺は、近くのコンビニアルバイトを
始める事になった。
次週アルバイト編