反省
生活観がない部屋で、死人のように静かだった俺が寝返り、
布団と俺が着ている衣類が擦れ、部屋に音が漏れる。
死人だった俺が、むっくりと体を起こし始める。
朝7時に目を覚ます。
7時20分、深田のわがまま朝ごはんが到着。
約10分で朝食を終え、速やかに廊下に食器を片付ける。
「今日は何をするか・・・」
考えながら俺はパソコンの電源を入れる。
「アニメでもみるか・・・」
年季のはいったヘッドホンを頭に被せ、朝からアニメを見ることにした。
アニメは俺の大好物だ。スポーツ、バトル、ロボット、萌え、ファンタジー。
どれも俺の守備範囲である。
アニメをみていると、部屋の壁にかかった時計が、時刻12時を注げる。
そこでいつも通り、ドアのノック音が鳴る。昼ごはんの到着。
ルームサービスのような完全な待遇に慣れてしまった深田は、5分でも昼ごはんが遅れたり、早かったりすると、暴れ回ってしまう。
昼食を約15分で終えると、また暇つぶしに悩む俺。
「さっきのアニメもまたライトノベルが原作かぁ・・・。」
俺はライトノベル原作のアニメがあまり好きではない。
だが最近アニメはライトノベルが原作、というアニメが多いのである。
あいつらはずるい。どのライトノベルも主人公がハッピーすぎる。
環境に恵まれているか、もしくは世界観に救われていたり、次第には生まれた瞬間から勇者スタートだったりもする。
「俺も異世界にはいって冒険者になって、ハーレム経験して、魔法つかいて~」
俺の貧乏揺すりがエスカレートしていく。左手は頬杖をつき、俺の右手が不規則なリズムを取っている。
手癖の悪い俺の指が、リズムを刻むのをとめる。ここで俺は思いつく。
「俺でも作れるんじゃね・・・?これ・・・。」
ライトノベルを書くことにした。
知識もなし、コネもなし、技術もなし。ただし、
どこから溢れて来るのかわからない、誰にも負けない自信だけは持っていた。
すぐにデビューの方法を考える。
考えながらパソコンで調べていると、一つのサイトに目を留める。
「小説家になろう・・・か・・・。」
俺は聞いたことがあった。
ここでは大勢の人がデビューしている。
「まぁここでいいか。よし書くか・・・・・・。」
サイトはあまり重要ではないと俺は判断し、早速取り掛かる。
普段パソコンばかり触っているせいか、タイピングは人並み以上だ。
深田がここで書いた小説は非常にチープなものだった。
パンをくわえた少年が朝遅刻して、
学校の通学路の曲がり道で異次元にぶつかり。異世界へ進入。
異世界はかわいい女の子がいっぱいいて、女の子を救うため、
魔物がたくさんいるダンジョンへ冒険しにいくという物だった。
「俺、才能あるかも・・・。」
書き終えて、投稿確認ボタンを押す。
「よし、これで3時間もすりゃ目つけられて、俺もデビューか~。」
その間、アニメをみて時間を潰すことにした。
そして3時間後、
「・・・・・・。」
総合評価2。
所持ポイント数に2ポイントと書かれていた。
このサイトでは、10ポイント最大に評価できて、最低評価ポイントが
2ポイントである。
この数値は日刊のランキング一位が約3000ポイント前後であるからして、
当然深田の満足するポイントではない。
俺は下唇が麻痺するまで前歯で噛み続けた。
「どうして・・・。なんで・・・。俺は天才だろ・・・。」
物事を理解するのに、20分の時間を要した。
正確には理解はできなかったが、俺は冷静を取り戻すのに20分かかった。
だが、すぐに俺は名案を思い浮かぶ。
「そうか、・・・。どんな作品も、見てもらえなきゃ駄作。見てもらえる機会が必要なんだ・・。だったら・・・。」
俺はサイトのランキング一覧1位~300位の感想欄に、こう書き記した。
「勉強のため全部見させていただきました。僕のも暇のとき是非アドバイスをいただければと思います。っと・・・。」
当然全部見てなどいない。だがしかし、
これが思ったより功を奏した。
次々に深田の小説は来客が訪れた。
(見にきました!!なかなか面白いですね!)
(いい作品です!もう少し文が長いといいかもしれません!)
(応援してます!がんばってください!!)
が、順調にいったのは前半だけである、こんな非常識なことをやったのだ、
深田を許す聖人もいれば、激怒する人もいる。
悪いことした人間に必ずバチはあたる。
馬鹿な深田は想像もしていなかった。
次第に深田の作品の感想欄が、穏やかじゃなくなっていく。
(貴方は本当に私の作品を読んだのでしょうか、)
(他のところでもみました、どこでもこの定型文を貼り付けていますね。)
(貴方の作品のいいところはひとつもありません。乞食行為はやめましょう。)
(こんなことしてまで人気を得たいですか?)
(ハゲ)
「・・・・・・。」
額に青筋が一つ、二つと増えていく。
「・・・・・・。こいつら・・・。」
次々と荒れる感想欄、見て見ぬふりをできない俺は強く
何度もブラウザの更新ボタンであるF5キーを連打する。
数々の誹謗中傷の感想欄に、俺は暴言で応戦。
ますます荒れていく感想欄。
違う意味で俺の小説はランキングに食い込んでいく。
そろそろ取り返しの事態がたたなくなるところで、
あるアイコンに目がいく。
「なんだこれ・・・。」
感想欄とは別に、メッセージ機能があるのを俺は初めて気づいた。
そこには40件も誹謗中傷メッセージがぎっしりとははいっていた。
しかし、俺が気にかかったのは一番最初に届いていたメッセージだ。
メッセージ時刻は14時13分。ユーザー名はブック博士と書かれていた。
メッセージ内容は、応援しています。今後も期待です、と簡素に書かれていた。
今の俺にはそのメッセージの意味が理解できた。
おそらくこのファンメールをくれた人は、俺が最初の3時間待機して、
正規の方法で得たファンだ。メッセージ時刻がなによりの証拠だった。
極度の精神不安定状態だった、俺の両目からは
たくさんの涙が無意識に流れていた。
「ぐぞぉ・・・!!なんだこの涙は・・・!!」
両手で目を覆い、鼻、口。それぞれから透明の体液をこぼす。
錯乱するこの状況下で普段より倍に、応援メッセージが俺の心に痛いほどに突き刺さった。
「反省だ、反省しよう・・・。」
俺の口から反省という言葉が出てくるとは思わなかった。
反省した俺はアカウントを削除。退会し、事態の火消し含め、
反省の意を示した。
深田が反省したのは、19年生きてきて初めてだという。
「ライトノベルを俺は甘く見ていたのかもしれないな・・・。」
体の脱力感と、疲れが一気に襲ってきた俺は、
夕飯の合図のノック音を無視し、ベットに横たわる。
初めて、反省して涙を流した深田の疲労感は、徐々に俺の視力を奪っていく。
しかし、このファンメッセージをくれた最初の読者がよくよく考えると自分の小説に最低評価である2という点数をつけたという事実に気づくのは、翌日の朝だったという。
深田にはならないようにきをつけます。