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大好きな君へ。【結夏と優香】  作者: 四色美美
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私の王子様

優香にとって隼は王子様だった。

 『王子様……』


私は思わず言っていた。


だって目の前にいるのが、小さい頃から憧れていた相澤隼さんだったのだから……



何故王子様かは良く覚えてはいないのだけど、テレビの中で頭に冠付けて笑っていたんだ。



『この王子様ね、お隣の隼君だよ』


パパがそう言っていた。


格好いいと思った。



(何時も遊んでもらっている隼お兄ちゃんは、本当は王子様だったんだ)

幼心にそう刻み付けてしまったのだ。



だから私にとっては、相澤隼さんは王子様なのだ。



(なんであの時気付かなかったのだろう。園長先生は『隼君って言っていたのに……)


それに睫毛の長いこの端正なマスク。

忘れって言われても、絶対に忘れることの出来ない顔なのに……



そうだよ。隼お兄ちゃんは私が小さな胸をときめかせた、いわば初恋の人だったのだ。



今私の目の前に居るのは、小さい頃から大好きな隼お兄ちゃんだったのだ。





 私はこの太鼓橋このから見えるアパートに住んでいた。

隣の部屋には一つ年上の、テレビで子役をしていた隼お兄ちゃんと叔父さんにあたる信二さんと住んでいた。


物凄く格好良くて素敵だったから、幼心にときめいたものだ。



その子が相澤隼さんだったのだ。



私達は何時も一緒に保育園に通っていた。

隼を育てていた信二さんは朝早くから仕事に出掛けていた。

隼はまだ始まっていない保育園の前で職員が来るまで待たされていたんだ。



見かねた母が父に相談して、私達は一緒に通うことになったらしい。



母は私の妹を背負って、自転車の前後に二人を乗せて保育園に連れて行ってくれていたんだ。



でも、年下の私は同じクラスに入れなかった。


当たり前って言ってしまえばそれまでだけど、私は隼お兄ちゃんが保育園にいる時くらい一緒に居たかったんだ。



大好きだった隼お兄ちゃんと……



私が生まれるずっと以前にそのアパートには、叔父さんの親友とその恋人が住んでいたと亡くなった母が言っていた。


その恋人があの女優さんらしいのだ。

だから母は、相澤隼の本当の両親はその二人だと思っていたのだった。





 何だか唄の題名みたいな再会だな。


春風のいたずら……

みたいで、ロマンチックなひとときだった。



だって私、初めて男性の運転するバイクに乗ったのよ。

物凄く怖かったけど、スリル満点だった。


あぁ、又乗りたいな。



ねえ、隼お兄ちゃん。

もう一度乗せてね。





 「この先にあった公園覚えてる?」



「あぁ、覚えているよ。砂場の砂が堅くてトンネルが作れなかってことは」



「私が隼お兄ちゃんに遊んでもらいたくて、ブランコの柵を越えたら。頭に当たって……」



「えっ、あれ優香だったっけ?」



「そうよ。私よ。本当に悪いのは私なのに……叔父さん怒られていたわよね」



「確か、最後に土下座させられてた」



「ママね、本当に悪いのは自分だと判っていたの。だっておしゃべりに夢中で、私のこと放ったらかしていたからね」



「叔父もそのことは周りの人から言われたらしいよ。でも、ぶつけたのは隼だからって」



「ママもあの後反省してね、何時も傍にいるようになったな。でも迷惑だった」



「どうして?」



「そりゃそうよ。大好……」


私は告白しようとしていたに気付いて、慌てて口を閉ざした。



「ん? 今何か言った?」



「ううん、何も言ってない」


まともに隼お兄ちゃんを見られなくなった私は太鼓橋を渡り始めた。



「隼お兄ちゃんありがとう。もうすぐだから一人で大丈夫」


私はそう言いながらも、本当は隼お兄ちゃんが追い掛けて来てくれることを期待していた。





 母は示しが着かなくなったのか、私から隼お兄ちゃんを遠退けた。

私は大好きな隼お兄ちゃんと一緒に通えなくなった事実を、私への罰だと思っていたのだ。



私は又隼お兄ちゃんが独りぼっちで保育園の前で待たされていることが堪らなかった。

私のせいで悲しい思いをさせていることに小さな胸を痛めていたのだった。





 アパートの反対側にあった隼お兄ちゃんと良く遊んだ公園は無くなり、集会場に姿を変えていた。



私は思い出の場所が無くなってしまったことに改めて寂しさを感じていたんだ。


まさか……

そんな時に再会するなんて思いもよらなかった。

でも私は隼お兄ちゃんだと気付かなかった。あんなに隼お兄ちゃんが大好きだったのに……





 「公園無くなったんだね」


しんみりしていたら突然声がした。


慌てて振り返ると、隼お兄ちゃんが其処にいた。



その途端、心臓が跳ね上がった。





 「隼お兄ちゃん……」


それでも気付かれないように冷静を装った。



「あの優香……、悪いけど、その隼お兄ちゃんっての辞めてくれる。何だか恥ずかしいよ」



「それじゃ何て言えばいいの?」



「そうだね。うーん、隼がいいな」



「そんなー、呼び捨てなんて」



「ゆうかが言っていたから、その方が嬉しい」



「えっ、私言ったことあった?」



「えっ、うわ……」


私の一言で、隼お兄ちゃんが固まった。





 「隼お兄ちゃんどうかした?」



「ううん何でもない。あの優香、本当に此処で良いの?」



「うん、大丈夫。だってあれが私の家だもん」

私はそう言いながら、集会場の後ろにある家を指差した。



「オンボロアパートの目と鼻の先か? 又、随分近い場所に引っ越ししたな」


隼お兄ちゃんは笑いながら言った。



「悪いけど優香、それじゃそろそろ帰るね」



「隼お兄ちゃん、ありがとうございました」



「優香……思いっきり隼って言っちまいな」



「あっ。う、うん。じゃあ……隼。やっぱり恥ずかしいよ」


私の体温はきっと上がっていることだろう。

だって顔がこんなに熱い。


隼お兄……じゃあなくて隼にバレなきゃいいな。





 「ごめんね優香」

隼は何故か涙声だった。



「じゃあ又ね」


隼はバイクに股がり私の横を真っ直ぐ通り抜けた。



(あっ、住んでいる場所聞き逃した)


私は慌ててバイクを追い掛けた。





 サイドミラーで私を見つけたのだろうか? バイクは交差点の向こう側で止まってくれた。



「ごめん、ヘルメットそのままだったね」


隼は笑っていた。

私は頭に手をやって、その事実を確認した。



顔が火照る。

私は恥ずかしくなって俯いた。



「ごめんね。黒いキャップだったから違和感無くて……。そのゴーグルで気付いたんだ。ねえ、どうせならこのまま僕の家に行く?」


隼はそう言った。



「えっ!? 行ってもいいの?」

私は思わず歓喜の声を上げた。





 私は早速バイクに股った。



「えっ、本当に行くの? 家族の人が心配しない?」



「まだ早いから大丈夫」


私の言葉を受けて、バイクは再び走り始めた。



(何処へ連れていってくれるの? 本当に隼お兄ちゃんの部屋? だったら嬉しいけど、恥ずかしいな)


私のハートはドキドキものだった。



足の置き場だけあるバイクの後部座席は正直言って物凄く怖い。



それでももう一度乗せてねて願っていたから物凄く嬉しかったのだ。





 着いた場所は良く行くスーパーの隣にあるマンションだった。



「えっ!? 此処に住んでいたの?」



「うん。ほらこのスーパーの前に宝くじ売り場があるだろう? 彼処で叔父さんが当ててね」



「えっ、買ってもらったの?」



「いや、貸してもらってる。家賃は無いんだ。でも、修繕費とかで少し出しているけどね」



「そう言えばマンションってそれがあったのね。もしかしたらあのアパートの家賃より高かったりして……」



「実はそうなんだ。あのオンボロアパートより高いかも知れないな」



「幾ら安いと言っても考え物ですね」



「いやあのアパートに比べたら月とスッポンかな。ゆうかは……」


隼はそう言いながら又固まった。



「ごめん優香。部屋片付けてなかったよ。今日はスーパーのアイスクリームでいい?」


その言葉に頷いた。


私だっていきなり部屋は面食らう。

それでも嬉しくてつい付いてきてしまったのだ。



「私もその方が嬉しい」


私はそう言いながらそっと隼の手を取った。





 「美味しい。久し振りに此処のアイスクリーム食べたわ」


スーパーの正面入り口の横にあるアイスクリームショップ。

私は此処のアイスクリームが大好きだった。

でも、私には高級過ぎたのだ。


だから年に数回食べられれば良い方だったのだ。



「そんなに喜んでもらえて嬉しいな」



「だって、短大生には高嶺の花だったのよ」


隣には私の憧れの隼がいる。

私はこの時本当に幸せだった。





 「今年卒業して、すぐにあの保育園に就職出来た訳か」



「そう、ラッキーだったの。まさか、地方公務員の試験が一発で合格するなんて思わなかったしね。それに又こうして隼お兄……違った隼に逢えるなんて……。みんなあの保育園に就職出来たからね」


今の思いを素直に口に出してみた。本当は大好きな王子様に又逢えたからだって言いたかったのだ。



「そうだね。優香の夢は確か保母さんだったな。夢が叶った訳か? 羨ましいな。実は、僕はまだ就職決まっていないんだ」



「でも、卒業迄にはまだ結構ありますよ」



「いや、優秀な生徒は三年で決まることもあるんだよ。僕は一歩も二歩も遅れているよ」



「そうなんですか?」



「今年から就活の解禁が三ヶ月遅れになったんだけど、去年と同じように暮れから始めた企業もあるしなかなか大変なんだよね。大手企業の就活の内定は八月かんだよ。でも中小企業にはその規定がないらしいんだ。だから、大手企業狙いの人が中小企業の内定をもらっている。入試の滑り止めみたいかな?」



「大変なんですね。ところで大学では何を専行なされているのですか?」



「学部は健康科学で、専攻はスポーツ科学科だけど……あまり健康とは言えないな。朝はパンと牛乳だけだし……」



「お昼は?」



「家の大学、生徒の割りに食堂が少ないんだ。一応四つあるんだけどね。それに最近ボッチ席何てのが増えてね」



「そのボッチ席って?」



「独りぼっちのボッチだよ。テーブルの中央に仕切りがあるんだ。まあ、便所飯より良いけど」



「そう言えば便所飯って、最近良く聞きますね」



「昔に比べたらキレイだけどね。ボッチ席登場で益々席が取れない気がする。其処から溢れた生徒は調整池の回りにあるベンチや芝生の上で食べてるよ。僕も椅子を取れない日は購買部のパンだな」



「もしかしたら夜もパンとか? それはないか」



「取り合えず、スーパーだけは近いしね。何とかなってる」



「私結構料理好きなんだ。良かったら作ってあげるよ」


言ってしまってから焦った。



「ごめんなさい。調子に乗っちゃったみたい」


私は頭をかきかき、顔を反らした。



楽しいお喋りは続いる。

そんな中、じっと私を見ている目が気になった。



(私なのかな? それとも隼? ねえ、どっちを見ているの?)


イヤな印象はない。

寧ろ好感度なのだ。



(私と同じように相澤隼さんのファンに違いない)

私はそう思っていた。






アイスクリームショップにいた人は?

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