表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大好きな君へ。【結夏と優香】  作者: 四色美美
PR
40/40

優香と共に

優香は結夏の手紙を差し出した。

 《大好きな隼へ。》


隼、ごめんね。

私を許して……



私は何時も男の人に後を付けられていたの。


最初は、これがストーカーって言うヤツか。

何て呑気に考えていたの。


でも半年以上続くと、さすがに怖くなってきた。


このまま……

この人の餌食になるのかな?

何て思えてきて……



そんな時に、隼と再会した。



私……

こともあろうに、隼に抱き付いてしまったの。


だって地獄に仏だったんだもん。

小さな頃から隼のことが大好きだった。

だから本当に嬉しかったの。



でもそれは私の一人合点。

ストーカーが何を仕出かすか解らないから、本当は怖くて仕方ないの。



ねえ、隼覚えている?

私がずっと前に言ってたこと。



私ね、後ろ姿で隼だって解るの。



隼は何時も清潔そうなスポーツ刈りだったでしょう?


だから私、あの日のすぐに解ったの。



隼だと解った瞬間に、鳥肌が立った。

そうよ。私は隼を求めていた。

ストーカーに遣られる前に大好きな隼と結ばれたくなったの。



ごめんなさい隼……

本当に本当にごめんなさい。

もし、私に何かがあったとしても自分を責めないで……

隼の立場を知りながら、巻き込んだ私が悪いのだから……





 追伸。

今、私のお腹の中で小さな命が産声上げている……


子供が出来たの。

隼との子供が……



原島先生に何て言おう。先生の言う通り、お天道様はお見通しなのにね。


隼……

これだけは信じてね。

私……

隼以外の男の人とは経験ないの。



だから正真正銘、この子は隼の子供です。



まだ早いけど、隼人って名付けました。

隼の子供だからね。

この子が早く人になれますように……



隼。

きっと迷惑よね。

でも……

私隼が大好きです。



結夏。





 「結夏も隼人だって」



「思っていることは同じね」



「そうだね。やっぱり隼人に決めた。隼人、早く此処においで」


躊躇いながらお腹に手を伸ばしたら、その手を優香がきつく握った。



「十七番で戴いた遍路人形持ってる? 私のはお腹に、隼のは優香さんの手紙に添えて……」



「えっ、何をするの?」



「それでもう一度お願いしてみるの。隼人君を育てさせてくださいって」



「観音様と通じているあの緑の紐と言い、百観音の模した鐘と言い……」



「アニメに取り上げられるにはそれなりの理由があるってことかも知れないね」


僕は優香に言われた通りにその手紙に遍路人形を添えた。



「結夏さん、お願いがあります。どうか隼人君を私達に託してください。私の子宮で隼人君を誕生させてください。出来れば結夏さんも隼人君と一緒に……」


優香は隼人だけではなく結夏も呼んでいた。

僕は優香の優しさと包容力の大きさに感銘を受けていた。



それが優香の企みだった。

あの日の遠い目は、これを目論んでいたのだ。

初夜のおあずけまも、札所へ行ったことも……





 「その手紙は遺品を整理していた時に見つけたんだって。傍には妊娠検査薬もあったそうよ。結夏さん、誰にも打ち明けられずに苦しんでいたのね」



「実は僕も初めてだったんだ。でも解らない」



「何が?」



「手紙だよ。何で結夏はこれを残したのかな?」



「もしかしたら、ストーカーに脅えて……。そうよきっと……」



「ん!?」



「『この子は隼の子供です』って言いたかったのかな? もし何かあった場合、ストーカーの子供だとされてしまうかも知れない。なんて考えたのかな?」



「僕の前ではそんな様子これっぽっちもなかった。だから何も知らず……ごめん優香、まだ結夏を忘れられないようだ。優香が大好きなのに……」


僕は言葉に詰まり、優香をそっと見つめた。



「隼、大好き!!」


その時、優香がいきなり抱き付いた。



「これからも結夏さんと過ごした日々を思い出してあげればいいわ。私は大丈夫。だって何時でも隼と愛し合えるから……何時でも隼と楽しい思い出を残せるから……」


優香はそう言いながら、僕の胸で甘えた。



(結夏、ごめんな。僕は優香と共に生きて行くよ。君から隼人を引き離せないことは解っている。だけど……僕達を信じて優香に託してほしいんだ)


遍路人形を握り締めながら、結夏の手紙にそっと手を置いた。





 「ねえ優香、幸せは一人じゃ叶えられないって知ってる?」



「えっ、どうして? 独身でも幸せオーラ全開の人も大勢いると思うよ」



「人と人が支え合って人と言う字になるんだ。幸福の幸から一を引いてみて」



「イチを引くの? 駄目だ、コウからイチ何て引けないよ。サチならチだけは引けるけど……」


「えっ、解らないの? あっゴメン、ナゾナソかと思ったのか? 漢字の一だよ。幸の一番上の一を引けば、辛いって字になるんだってさ」



「隼ズルい。答えバラさないでよー。えっ、じゃあ反対に辛いって字にーを足すと幸せってことね。あっ、だから誰か傍にいてくれれば幸せなんだね。私達みたいに」



「そうだよ。その辛いって字が今までの僕だった。僕はまだ半人前だから、優香が一を足してほしいんだ。優香の指導が無ければ僕は始動出来ない。だからこれからも僕を支えてください」



「はい。精一杯頑張りますので任せてください」



「お、頼もしい。でも、堅苦しく考えないで」



「解ってる。昨日家を出る時に父に言われたの。『愛すればいい』って」



「愛すればいい? 誰でも?」



「そうよ、誰にだって長所はあるからね」



「其処を見つけて誉めるとか? 流石保育士」



「園長先生にも言われたの。『育った環境も考え方も違う二人だから戸惑うかも知れないけど、コントロールしようとか思ったらダメよ。人の気持ちは変えられないけど、自分の性格は変えようと思えば変えられるから』って」



「きっと原島先生は僕にも言いたかったんだな。優香を大切にしてやれって」



「もう充分されてます」

優香の言葉にドキンとした。

僕は本当に優香を大切にしてきたのだろうか?

優香の前で結夏を愛していた事実を打ち明けたあの日、僕は優香を振り向かせるために必死だった。

優香は大人だ。恋人がいてもおかしくはない年頃なのに……

僕を選び愛してくれると言った。



だから僕は優香の願うことは何でも叶えてあげたいのだ。





 「さっきも言ったけど、僕は優香の夢を応援するよ。だから安心して、あの地蔵菩薩に纏わり付いていた子供達を此処に呼ぼうね」


僕はそう言いながら、もう一度優香の体を引き寄せた。



「あん、隼ズルい」



「ダメ?」


そっと優香を見ると真っ赤になって俯いていた。



「隼の意地悪……」


優香は甘い声を上げながら僕の背中に手を回した。





 「あぁ本当に隼人が三つ子……いや、双子となって来てくれたら嬉しいな」



「でしょ? でももう一人の子供が結夏さんの生まれ変わりだとしたら、もっと嬉しくない?」


優香は微笑んだ。



隼人を賽の川原から救い出すが結夏の希望だと優香は信じている。

でもそれは隼人を自分のお腹で育てるための儀式だった。



本当はそれだけじゃなくて、結夏を隼人の兄弟にしようとしているのだ。

僕は優香の一途な愛に精一杯報いようと思っていた。



だって双子が出来たら、僕達は何時でもラブラブでいられるから……

ただ、望めば誰でも帝王切開にしてもらえるかが心配だったけど……





 「うふふ……、隼。今三つ子だと認めたわね」



「いや……、うーん認めたかな?」



「認めた、認めた。隼もやっぱり三つ子が欲しいんじゃないの?」


とんでもないタイミングで優香が僕を攻める。



「ああ、認めたよ。『隼聞いて。私、仕事をしたいの』って言ったのを聞いてたから、セーブするよりいいのかなって思った」



「そうよ。私は本当は沢山の子供が欲しいの。でも産休ばかり取れないでしょう?」



「そりゃそうだね」


僕は思わず笑い出した。



「もう、笑わないで。私は本当に真剣なんだから」


優香はわざと顔を膨らませている。その仕草がどうしようもなく心を燻る。



僕は堪らなくなって、何度も何度も優香と唇を重ねた。



外は雨が降っている。

僕達はそれをいいことに何時までも布団の中でイチャイチャしていた。





 昨日はアニメにも登場した吉田地区の龍勢まつりだったようだ。

御花畑駅に着いた時、構内にもポスターは貼ってあった。

目にしているはずなのに見過ごしていた。



優香は札所三十二番のお地蔵様に抱かれた裸の子供達を救い出したい一心だった。

僕は僕で、初夜に優香を抱けないショックで心これに在らずの境地だったのだ。





 そして今日は俳人松尾芭蕉の命日で、時雨忌と歳時記では表記される。

昨日の雨と今日の雨は違った。

それは紛れもなく時雨に近かった。





 「優香……本当に三つ子が誕生すればいいね」



「一人は隼人君。もう一人が結夏さん。そしてもう一人は……? ねぇ隼、誰か他に居ないの?」


優香の発言にドキンとする。

でも、幾ら考えても結夏以外の女性と肌を重ねた覚えはない。



「居ないよ」



「何考えてたの? さっきは即答だったのに……」


今度は優香が僕をからかっていた。





 僕達はその約十ヶ月後、子供を授かった。



二卵性双生児の男女で、優香の希望で隼人と結夏から一文字取って芙生夏(ふうか)と名付けられた。

偶々だけど、夏産まれだからぴったりだったんだ。

去年行った古代蓮公園の奥の沼にはきっと溢れるくらいの華麗な花が咲いているだろう。

この子達を泥沼で育てたくはないけど、どんな環境でも美しく咲いてほしいと思っている。





 結局三つ子は夢の又夢に終わった。

それでも優香は満足気だった。

きっとそれは、ハネムーンベイビーなのだろう。



あの日、僕は優香と三度肌を重ねた。もしかしたら僕も三つ子を望んでいたのかも知れない。

でも本当に三つ子が生まれていたら、もう一人の子は誰の生まれ変わりなのだろうか?



そう考えながら一人で笑っていた。

優香の輪廻転生説にすっかり感化されていることに気付いて……



『結夏さん、お願いがあります。どうか隼人君を私達に託してください。私の子宮で隼人君を誕生させてください。出来れば結夏さんも隼人君と一緒に……』


僕は優香の言葉を思い出した。



『あの地蔵菩薩様に救いを求める子供達を見て、隼人君だと感じたの。だからあの二人を子宮で育てたいと思ったの』


僕は再び優香の優しさに泣いていた。


何故優香が新婚旅行先にあの札所三十二番の地蔵菩薩との対面を希望したのか、今更ながらに知ったのだ。



優香はお地蔵様の横で必死に助けを求める裸の子供達が隼人に見えていたのだろう。



その時きっと気付いたのだ。

何故、水子供養の方法を調べたくなったのかを……



結夏は菩提寺で永代供養してもらっていた。

それなのに、僕の負担を軽減させようとしてくれたんだ。



だから優香は僕と共に秩父三十四番札所を歩いてくれたのだ。

でも其処であのお地蔵様に出逢い、全てが運命だったと悟ったんだ。



光明真言と地蔵菩薩真言によって救われた隼人か目の前に現れたのだ。

もしかしたら、お地蔵様に抱かれていた子が隼人だったのかも知れない。





 僕は今、スポーツショップの事務員として働いている。

親父や、オーナーである祖父に支えられながら……



一種免許状も、地方公務員の試験もパスした。

でも僕は中学の体育教師にはならなかった。



ピチピチギャルのお相手は、たまにやるテニスコートでのインストラクターで……



僕はまだ優柔不断な男だったのだ。










大好きな君へ。【結夏と優香】

これにて完結致しました。


閲覧していただきましてありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ