表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大好きな君へ。【結夏と優香】  作者: 四色美美
31/40

シルバーウィーク最終日

シルバーウィークの最終日になった。

出来るだけ多くの寺を回りたかったのだけど……


 昨日行き過ぎた三十番法雲寺。

地図では白久駅から近いので御花畑駅のコインロッカーに荷物を預けて出発した。



出来る限り多くの寺院を回っておこうと思っていたからだ。



又、女将さんのオニギリ持参だ。

その代金が含まれているかどうかは判らないが、チェックアウト時点で支払った金額は予定していたそれより少なかった。



今日で何年かぶりのシルバーウィークも終わる。

だから、お遍路も最終日にする予定だった。

予定とは未定にして決定にあらず。

中学か高校の時の担任が言ってた記憶がある。

今回、まさにそれを実感した。



平日とは違い、午前中の電車は殆どが三峰口行きただった。



朝七時二十五分。

千四百四十円払い、一日何度もでも乗り降り出来るフリー切符を購入して白久に向けて出発した。

何処で何があるか、何処で帰る羽目になるか解らないからだった。



とりあえず、白久に向かうことにした二人だった。





 白久とは雪が降ったらなかなか溶けずに白く久しいところから名付けられたそうだ。

きっと去年の南岸低気圧がもたらせた大雪の被害も多かったのではないかと思った。



昔はその立地をいかして白久スケート場もあったそうだ。



確か叔父が、オリンピックの選手を排出したスケート場だとか言っていた気がする。

親父は僕と同じ大学で同じ学科を学んでいた。

だから親友の叔父もスポーツには詳しくなったのだろう。





 電車内に吊るしてあるチラシの中にサイクルトレインがあった。

平日は波久礼駅から三峰口駅。

土日休日は御花畑駅から三峰口駅まで先頭車両で利用出来る。

ただし、ゴールデンウィークのような混雑が予想される日などは利用を断られることもあるようだ。

今日はシルバーウィークだから当然利用出来ないのだろう。



時間は平日が八時三十四分から十六時五十五分まで。

土日と休日は八時五十六分から十六時四十四分までだそうだ。



札所二十六番に近い影森駅と隣の二十八番に近い裏山口駅は利用出来ないそうだけど、注意書には影森駅ではホームに段差があるのでご注意くださいと明記してあった。



「西武秩父駅前のレンタルサイクルを借りて御花畑駅から三峰口駅まで乗れば、太陽寺まで行けるかな?」


チラシを見ながら優香が言った。



「そうだね。何時か行ってみたいね。平日は波久礼駅からか? 其処まで来るのは大変だな」


僕は優香の隣で出来れば熊谷からにしてほしいと思っていた。





 白久駅に着いたの時はまだ八時前だった。



「これから大変な行程になると思うけど、最後まで頑張ろうね」



(昨日のように標識を見逃すこともあるかも知れない。だから無理はさせたくない)


優香の言葉に頷きながらも、引き返すことも勇気なんだとその時は思っていた。





 白久駅前から真っ直ぐに伸びる道。

それが札所三十番へと続く巡礼道だった。


僕達は昨日、確かに此処を通り過ぎた。

でも、その辻に置いてあった入口の案内板を見損なっていたのだった。



「どうして昨日気付かなかったのかな?」


優香の発言にドキンとした。



僕は結夏のことを考えていたのだ。





 結夏とバイクで回った思い出の地。

丁度お花見の時期だったので桜の名所をアチコチ回ったんだ。

その一つが昨日鍾乳洞の中で話した吉見の百穴だった。



結夏の思い出の地だと言うので、内緒で連れて行ったんだ。



着いた時に結夏は泣いていた。

その涙を見ながら、結夏を幸せにすることを誓ったんだ。


だから結夏が気にしていた窓にカーテンを付けようと思ったんだ。



『お天道様が見てる』


結夏は何時も言っていた。

僕は昼間も結夏と愛し合いたくて……

そんな打算もあって、あのカーテン売り場に行ったのだ。





 昨日休憩場で食事をしながら、どう言う訳か浮き足立っていた。



それが何なのかを、青雲寺の前を過ぎた時に確認した。



『何時か訪ねてみたいね』と言った結夏との会話を思い出したからだった。

と――。



だから僕は、心これに在らず状態だったのだ。



樹齢ウン百年と言われる清雲寺の枝下桜。

遠くから確認しただけでもそのスケールは物凄かった。



あの吉見の岩室観音の百観音の砂の入った踏み台の上で、結夏との未来を願った。



あの時すぐ隣にある桜を眺めながら、今度は清雲寺へ行こうと語り合ったことを思い出したんだ。

だから僕は落ち着かなかったのだ。





 『ちょっと寄ってみない?』

落ち着かない僕を察してか、優香は参道へ足を向けていた。



「昨日の清雲寺の枝下桜は何が何だか解らなかったけど、ドデかかったね」



「そうだよね。ねえ隼、桜が咲く頃又来てみない。さっきみたあのサイクルトレインを利用して……」



「あっ、きっと無理だよ。混雑が予想される時だと思うからね」



「えっそんな……」


優香が悄気ながら言った。





 車がやっとすれ違がえるほどの細道を歩いて行くと、カーブの先に急な坂道ある。



僕は又見落として、道なりに進んでしまったのだった。


でも優香が気付いてくれた。

優香は後から来た車がそのカーブを曲がったことが気になったのだ。



其処は急勾配の急カーブだった。

それは駐車場まで続いていた。



(あのゼロ半だったら完璧壊れているな。皆こんな道を良く車で上れるな)


そんなことを考えながら歩いていた。





 実はゼロ半だけではなく、バイクも調子が悪いんだ。


結夏とアチコチ行ったように、優香とも回りたくなって一人で古代蓮公園に行ってみたんだ。

古代蓮と言うのは、さきたま古墳群のある行田市で見つかった蓮の種子を育てた物だ。



あれから四十年の時を経て古代蓮は日増しに拡大していく。



さきたま古墳群の中にある沼や古代蓮公園の前にある見本沼は勿論、その裏にある大小様々な沼を埋め尽くす勢いだった。



僕はこの秩父巡礼が終了したら優香と行ってみたいと思っていたんだ。

だからその予行演習のつもりだったのだ。





 八月の暑い盛りに、炎天下に止めておいたせいだろうか?

途中で寄ったコンビニでエンストしたんだ。



仕方なくバイクを押しながらガソリンスタンドへ向かった。

行く途中で何度もセルを回してみた。

カチカチするだけでエンジン音に繋がらない。

まだまだ遠い道のりに僕はため息をついた。



何とか掛かってくれた時は、ガソリンスタンドのすぐ手前だったんだ。



あの時はホッとしたのと同時にがっかりした。

だって、其処もかなり勾配がある坂道だったから汗だくだったんだ。



ガソリンを入れたら何とか動いてくれた。

だから僕は、ガス欠も要因の一つだったのかも知れないと思ったのだった。


もっとも、ガソリンスタンド近くでエンジンがかかった訳だから、違うとは思っていたのだけど……





 僕は秩父へ優香ど訪ねる前にバイクを買った店へ行き、修理を依頼した。



『セルのカタカタって音がエンジン音に繋がらないんです。プラグではないかと思っています』



『いや、それは違うと思いますよ。詳しいことは解らないけど、バッテリーかも知れないな』

そう言われて、バッテリーを交換したのだった。

その時、念のためだと思い、オイル交換もしてもらうことにしたのだった。



実は……

エンストの原因はオイル交換を怠ったからかも知れないと考えていたからだった。





 何時だったか。

原付に乗っていた時も同じようなことがあり、プラグを交換した。

それがあの『一年経ったから有料です』と言われたバイク店だ。

プラグ交換は比較的安いんだ。

でも僕は納得出来ずにごねてしまった。

何度か足を運んだのだが、何時も休みだったからだった。


だから僕は騙し騙し乗っていたのだった。



エンストの危険がある大学前の坂は、無料のスクールバスで対処した。

発車する駅近くに、今は無くなったけどこれ又好都合に無料の駐輪場があったんだ。

だから其処で乗り継いだ訳だ。

今は駅前に有料駐輪場が出来て封鎖されてしまったけど、本当に重宝していたんだ。



その有料駐輪場は、僕の住んでいるマンションの隣にあるスーパーと同じ前輪を固定するスタイルだそうだ。

あれはやりづらいからやはりキライなんだな。





 何度も通って、やっと修理してもらえてホッとしたらから尚更頭に来たのかも知れない。

だって一年を数日オーバーしただけだよ。

店の方が慰安旅行なんかに行かなければそんなことにならなかったはずだからだ。



だから結夏に紹介してもらった自転車販売店が悪い訳でもない。

僕が、その販売店に行きづらくなったからなのだ。

結局僕は自分の首を締めただけだったのかも知れない。





 そんな経験があったから、今回もプラグではないのかと思って交換を依頼したのだ。

でも、今のバイクを買わされた店ではバッテリーとオイル交換しかしてくれなかったのだ。





 坂道の続いた先に駐車場があり其処から上る階段を見ながら参道を登る。



築山を配した庭園は風光明媚な秩父札所の中にあっても随一と言われているそうだ。



目指す観音堂は急勾配の階段の先にあった。





 「おん、はんどめい、しんだまに、じんばら、うん」


札所三十番は如意輪観音のご真言だった。



所作を済ませて、観音堂の周りを見てみた。



正面左にガラスケースがあり楊貴妃の鏡や龍の骨などがあるそうだけど、何気に見ていた。



「本物だったら凄いね」


優香が笑った。



「寺の宝物は門外不出でしまっておく物だとばかり思っていたの。まさかこんな場所に無造作に置かれているとは夢にも思わなかったの」


優香の言う通りだった。



「本尊の如意輪観音像は別名楊貴妃観音とも言われているそうだよ。開山した道隠禅師が唐より持ち帰った、楊貴妃の冥福を弔い開眼させた物だと伝わっているそうだ」


僕は知ったか振りをしていた。





 「去年なら拝見出来たのよね。次の御開帳が待ち遠しいね」

優香は名残惜しそうだった。



案内書によると此処は花の寺だと言われている。

だからだろうか、石の柵の近くに小さな白い花が沢山咲いていた。

葉はヤブランに似ている気がした。



「あの花は何て言うのですか?」

納経所で聞いてみた。



「ヤブランですよ」


そう教えてくれたのに、疑っていた僕だった。


細くて長い葉に紫の粒々状の花がヤブランだ。

似ても似つかない、と思って首を傾げたのだ。





 池の周りには夏椿も咲いていた。


その近くに蛙の置物を見つけた。



「あれっ、護国観音様の下にあったのに似てるね」

優香が嬉しそうに言った。




「本当にそっくりだ。巡礼者が無事に帰れるように見守ってくれているのかも知れないね」



「そうよね。あの護国観音の道も、此処への道も険しかったからね」



「昨日間違えたしね」

照れ隠しに笑ったら、隣で優香も微笑んでくれていた。



「さあ、又頑張るか?」


名残惜しそうに蛙の置物を見ている優香に向かって声を掛ける。



「これから長丁場だものね。長居は禁物か?」


優香はそう言いながら、屈んでいた体を起こした。





 又迷子になってはと思って、白久駅まで戻ることにした。



もっともこのお寺だけはそうしないとならなそうだったけど……



「お墓参りの時に同じ道を通ると縁起が悪いって聞いたけど仕方ないね」


それは以前誰かに聞いたことがあった。



「だったら此処だけ違う道を行こうか?」


僕はそう言いながら、駐車場へと向かう階段を下りて行った。





 又カーブと急勾配の坂道を行く。

途中で何台かとすれちがった。


少しずつ車の数が増えて来ていると実感した。



実は山梨から雁坂トンネルを越えて巡礼に来る場合、一番先に寄る寺らしいのだ。

だから比較的朝早くからでも参拝者は多いようだ。





 「奥の院もあるみたいだね」


優香の開いた案内書の地図には、三十番奥の院洞窟観音菩薩と記されていた。



「今日はこれから大変な行程になるから行くのは止めておこう」

さも得意そうき僕は言った。



「私もさっき長丁場になるって言ったしね」


優香はその観音菩薩の安置してあるだろう方向に向かって一礼をした。



(僕達の行く道をどうかお見守りください)


僕も優香に追々して頭を下げた。






次回のお遍路は土日になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ