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大好きな君へ。【結夏と優香】  作者: 四色美美
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翔のために

孔明の兄と翔のために何が出来るのか?

隼の悩みは尽きない。

 優香は結夏に嫉妬してその身を焦がしていた。

結夏の三回忌の御供養の日の紫陽花だって、心これに在らず状態だったに違いないんだ。



確かに優香の家には咲いていた。



優香は『カッコ付かない』と言った。


何としてでも結夏の三回忌を陰から見たかったようだ。


でも本当に見たかったのは其処に居るはずの僕だったのだ。



だから頭でっかちでしかも茎の長い、お墓の花差しから零れ落ちてしまう紫陽花を持って来てしまったのだ。



優香は僕を愛してくれている。

結夏を大切に思いながらも、ジェラシーにもがき苦しんでいる。



解っていながら……

優柔不断な僕……



でも、結夏との思い出は消せない。消したくないんだ。





 僕は優香が優しいのをいいことに、甘えきっていたのだった。


それが優香にとって身を切るような辛いことだと判っていながら……



『あはははは』

って優香が笑った時、結夏を思い出して思わず抱き締めた。



『結夏』

って言いながら……



『辞めてください。私……結夏さんじゃない』


そう優香にはバレバレだったんだ。



『ごめん、優香。でも今のは結夏に言った訳じゃない』


どんなことをしてでもしらを切るつもりだった。


だから誤魔化そうとして苦しい弁解をした。



『そんな言い訳辞めてください。私と彼女が同じ名前だから、気が付かないと思っているらしいけど……そんなの聞いてりゃ解るのよ』


そう、子供の頃から傍に居た優香には僕が考えていることなんかお見通しだったのだ。



それでも僕は卑怯な手を使ったことを認めることなく、強引に押しきってしまったのだった。





 携帯がメールの届いたことを知らせる。

それはさっき帰った孔明からだった。



僕は未だにガラケーと言われるフューチャーフォンだった。

この携帯には結夏との思い出の数々が刻まれている。


だからスマホに変えることが怖いんだ。



僕の一部を剥ぎ取られるような気がして……


結夏との全てを失うような気がして……



だから携帯を開く度にドキンとする。

待受画面は未だに結夏だった……



(何をやってるんだろう……)


僕は未だに結夏のしがらみから抜け出せないでいる。

それどころじゃない。自ら束縛されたがっている。

優香が可哀想だと思いながらも削除出来ずにいたんだ。



(優香ごめんな)


早く読まなくちゃいけないと思いながらも、僕は暫くそのままで結夏を見つめていた。





 やっと孔明からのメールを開く。

早く出なければいけないと思った。

だけど……

僕は感傷的になっていたんだ。


【駅前のDVDショップでアイツ等を発見。応援頼む】


孔明はそう送ってきた。



(アイツ等って誰だ?)


首を傾げながらも、現場に向かうために急いで支度を整えた。



何処で誰に見られているか解らないから、服装には気を遣う。

特に大女優の息子だったとバレた今では尚更のことだった。


財布の中身を点検した後で、念には念を入れて愛用のサングラスをポケットに忍ばせた。





 駅前のDVDショップのウィンド越しに確認すると、孔明が棚の陰から手招きをしていた。



一応気を遣って物音を立てないように何気無い素振りで孔明に近付いた。



「アイツ等だよ。二年半前くらいになるかな。兄貴に濡れ衣を着せた奴等は」



「まだつるんでいたんだね」


事情も良く知らないくせに一端の口をきく僕。



「うん。懲りない奴等だね」


それに合わせて孔明が言った。



「ところでアイツ等何をやっているんだ?」



「万引きする商品を物色しているんだと思うよ」



「兄貴に罪おっ被せたくせに……性懲りもなく、まだやっていたんだね」


僕にはアイツ等が何処のドイツなのか判らない。

それでも頭の中で、悪い奴等だと思っていた。





 「頼みがある。スマホで撮影するからアイツ等に近付いてくれないか?」



孔明の狙いは理解している。

でもまかり間違えれば、僕も孔明の兄貴と同じ目に合う可能性があったのだ。



それでも僕は孔明頼みをきくことにして、変装のためのサングラスを取り出した。



「用意周到」



「一応、名前と顔が売れているからね。特に地元では……」



「大女優の息子だから仕方ないか」


解りきったように孔明が言った。





 「財布ある?」

いきなり孔明が言った。



「一応持っては来たけど……」



「助かったそれじゃこの通りにやって」


孔明はスマホ書いたメモを僕に見せた。



「待ちながら、作戦を練ったんだ。それじゃよろしくな」


僕は孔明の考えた秘策に従うことにした。


でもそれにはどうしてもお金がかかるんだ。


それでも遣るしかないと思っていた。





 僕は紙の袋を提げてアイツ等の傍に行った。


それを見計らって、孔明はこっそり店員を呼んだ。


防犯鏡越しにその姿を確認したと思われるアイツ等は、僕の横をすり抜けた。





 結局、アイツ等はその場では犯罪を立証することは出来ずに帰された。



それもそのはずで、アイツ等は何も持っていなかったんだ。

でも孔明にはそうなる予想は付いていた。

だから僕は孔明を信じて作戦を実行したのだった。





 店から出ると、アイツ等が待っていた。

僕の手提げから万引きした商品を取り出した。



アイツ等は逃げる途中で僕の手提げの中を万引きした商品を隠していたのだ。


すったもんだ始めた僕の周りをアイツ等は取り囲んだ。



「助けてくれー」

僕は孔明に向かって応援を要請した。



その言葉聞き、警察官が駆け付けて来た。





 「リーダー」

突然ソイツ等は言った。



「リーダーって何だ!?」


突然降ってわいたような戸惑いが僕を締め付けた。



「この人は俺達のリーダーなんです。だから心配しないでください」


それでもアイツ等はお巡りさんに向かって平然と言った。



「そうか仲間か?」


その言葉を聞いて交番に戻ろうとしたらしい。



「それはないでしょう、お巡りさん」


背後から孔明の声が聴こえてきた。



「さっき言ったでしょう? コイツ等は万引き犯です。逮捕してください」


孔明がはっきりと万引きと発言して慌てたのか、アイツ等は僕を指差しながら言った。



「証拠はこれだよ」

孔明はそう言いながらスマホで撮影した物を画面に映し出した。



アイツ等の表情があからさまに変わった。





 「僕達は皆この人の指示で万引きを働きました。証拠はこの人が持っているDVDです」

と――。


スマホにはアイツの万引きした場面しかなかったのだ。

だからそれを逆手に取ったのだ。





 アイツ等は到頭、僕が万引き犯のリーダーだと宣言したのだった。



(そうか、孔明の兄貴もこのようにしてやってもいない罪を着せれたのか……)


口惜しい。

口惜し過ぎる。

でもそれをこの場では証明することが出来ない。



「お巡りさん、俺の言った通りでしょう?」



「ああ、アンタの言う通りだったよ」



「どう言うことだ」



「『アイツ等はきっと、傍に居る人を万引き犯のリーダーだと言うはずだ』と言ったまでだ」


「でも一応事情徴収だ」



「コイツ等は俺の兄貴もこの手で万引きグループのリーダーにでっち上げたんだ。くそ真面目に生きて来た兄貴の一生をメチャクチャにしたんだ。俺の兄貴はコイツ等に万引きグループの主犯に祭り上げられたんだ」

孔明が悔しそうに言った。





 「でもコイツ等はまだ中学生で、十四歳未満だったから犯罪にもならなかったんだ」



「そんなこと知ったことか。お巡りさん。早くリーダーを連行してくださいよ。これだけ言われてもサングラスを掛けているような人たよ。顔を隠さなければ暮らしていけない人なんだよ」


アイツ等は平然と言い放った。



「このサングラスは……」


一瞬余計なことをしたと思った。

でも、アイツ等の前では外す訳がいかないのだ。



僕の困惑振りを見て、流石の孔明も何も言えなくなってしまったのだった。





 僕は一応警察官に連行されることになった。


行き先は決まっていた。



アイツ等が万引きした、駅前にあるDVDショップだ。

でも、其処に行けば僕に掛けられた濡れ衣は剥がされるはずだった。

それでも……

不安は過る。



(孔明も兄貴もきっとこんな調子だったんだろうな)


僕の結末は見えていた。

でもやはり恐怖心を感じずにはいられなっかたのだ。



(もしこのまま逮捕されたら、優香と会えなくなる。朝一の結夏と隼人の供養が出来なくなる。確か毎日やらないと意味がないんだよね。優香に何て言おう)


僕はそんなことばかり考えていた。





 「この人が万引きしたって。嘘は言うな。良く商品を見てみろ。この人は全部知っていてこの商品を買ってくれたんだ。万引き犯のリーダーなんかじゃないぞ」


駅前のDVDショップの店長が言っくれた。



僕は店長に頼んで、お買い上げシールをワザと小さくカットしてもらっていたのだ。


その上で、レシートを高校生と思われるアイツ等に指し示した。


それは孔明が考えた作戦だった。

貧乏学生の僕にとっては痛い出費になったけどね。



何故、スマホに万引きした場面しか写さなかったのか?


これがその答だった。



だからさっき、財布のことを言い出したのだった。





 結局少年達は連行されることになった。

「お巡りさんすいません。警察に行く前に、どうしてもこの子達を連れて行きたい場所があるのですが……」



「それは何処だね?」



「保育園です」



「保育園!?」


孔明が大きな声を上げた。



「お前まさか……」



「翔にパパを返してあげるチャンスかも知れないよ。お願いだから騙されたと思って僕と一緒に来てほしいんだ」


僕は孔明の唇に指を立てながら言った。



「あの子は、お前さん達が万引き犯のリーダーに仕立てた人の息子だよ」


僕の指の先にいたのは翔だった。





 「これがあの子の父親で、俺の兄貴だ。見覚えあるだろう?」



「そんなヤツ知るか。俺達には関係ない」



「お巡りさんは覚えているでしょう?」

孔明そう言いながら兄貴の写真を提示した。



「この人は?」



「俺の兄貴です。覚えているでしょう?」


孔明はお巡りさんに迫っていた。



「知らない訳がないんだよ。兄貴はアンタに捕まったんだから……」



「………………」


孔明の指摘で改めて写真を見たお巡りさんは言葉を失っていた。



「俺はこの目ではっきりとアンタを見ているんだ」


孔明が悔しそうに言った。



「コイツ等は今、『そんなヤツ知るか。俺達には関係ない』って言ったでしょう? 裁判記録にもきっと残っているはずなに……、コイツ等は俺の兄貴を知らないって言ったんだ。これが何を意味しているか判るでしょう? あの時もこのようにでっち上げられたってことなんだよ!!」


孔明の怒りの声に、アイツ等はグーの音も出なかった。



結局アイツ等は孔明の兄貴の顔を覚えていなかったのだ。



「何が万引き犯のリーダーだ。その場逃れの嘘で俺の兄貴は一生を台無しにされたんだ」


孔明は遂に泣き出した。





 「あの子がどんな思いで此処に居るか判るか? きっと解るよね? 君達だってあのようにして御両親の迎えを待っていたと思うから」



「でも、あの子は違うんだよ!! お前達が俺の兄貴を万引きのリーダーてしてまつり上げたから、父親を失ったんだ」



「だからお願いだ。あの子に父親を返してやってほしいんだ。コイツの兄貴の冤罪を晴らしてやってほしいんだ」


そう……

それが、僕がアイツ等を保育園に連れて来た真相だったのだ。





 「お巡りさん、聞いたでしょう? お願いだから、兄貴の冤罪をはらす手伝いをしてください」


孔明は頭を下げだ。



「僕からもお願い致します」


僕はサングラスを外してお巡りさんと向き合った。



「君は……」



「しっ」

僕は慌てて指を立て、サングラスを再び掛けた。



「僕もこの保育園で寂しい思いをして育ちました。だからあの子には……」

その時、お巡りさんの手が肩に触れた。



「悪かった。コイツ等の言い分だけ聞いただけで逮捕してしまった。本当にすまないことをした……」

お巡りさんはそう言いながら泣いていた。



その時僕は翔のために出来ることを考え始めていた。







翔のために翔は何が出来るのだろうか?

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