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大好きな君へ。【結夏と優香】  作者: 四色美美
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翔の哀しみ

記者会見が始まります。

 毎朝優香と二人で隼人の供養をする。


優香の父親には承諾はもらっているにはいるが、内心はドキドキものだった。



『嫁入り前の娘と……』


なんて叱られないかと思っていた。



僕の本当の父も隼人だった。

その運命に僕は絆を感じた。


だから優香の名付けてくれた隼人と一生共にいることを誓ったんだ。



優香は結夏の胎児を賽の川原から救ってから、自分の子宮で育てたいと言ってくれた。



実際に可能なのかは解らない。


それは心の持ちようだと思った。



世帯が違うからきっと優香の産んだ子供に隼人と名付けられるとは思う。



でも、儀式での水子の名前を実際に付けなくても良いそうだ。


でも僕は……

優香の優しさが嬉しくて堪らなかったんだ。

だからこの名を名乗らせてあげたいと思ったのだ。





 本当の両親の記者会見が始まる。

結局僕は列席しなかった。

今更どの顔下げて……

でも、本当は傍に居たかった。

そんな思いを交錯させながらモニターを見ていた。



僕は会場にいたんだ。

それでいて躊躇した。

両親にとってそれが哀しいことだと知りながら……





 控え室で待っていると優香が父親と現れた。

どうしても、両親に挨拶したいそうだ。



僕は急に勇気百倍になった。




 「あっ、貴方は?」

入って来るなり優香に気付く。



「隼の婚約者の優香さんだったわね。あれっソチラの方は確かあのアパートの……」



「隣に住んでいた中野です」



「あっ、そうそう中野さんでしたわね。あの頃はお世話になりました」



「中野さん? もしかしたら隼の婚約者の優香さんは?」



「はい。私の娘です。優香は小さい頃から隼君が大好きでして、だから本当に喜んでおります。死んだ家内も御二人のことを心配しておりました」



「ご迷惑をお掛け致しました。そして、隼を見守り続けていただきましてありがとうございました」



「無事に記者会見を終えましたから、もう何も隠しだて致しません。隼は私達の息子です。これからも末永くお願い致します」


母は深々と頭を下げた。


この時、僕と優香の婚約が正式に決まった。





 「お前やっぱり大女優の息子だったんじゃねえか」


記者会見の翌日、マンションに孔明が訪ねてきた。



「いや、俺も知らされていなかったんだよ。ただマネジャーに代理母だって聞かされていたいただけなんだ」



「代理母って何だ?」



「今ニューヨークいる両親には子供が出来ないんだ。だからお袋が妊娠したと解った時に、代理母ってことにしてくれって頼まれたそうなんだ」



「それって、違反じゃないのか?」



「そうかも知れない。その事実をマネジャーは知らなかったんだ。だから代理母として妹の子供を出産したことを週刊誌に売り付けた訳だよ」



「酷いなそれ……そう言えば、そのマネジャーを告訴するとか言ってたね」



「恐喝罪の時効は七年なんだけど、民事では二十年なんだよ。週刊誌に載ったあの写真で脅していた訳だよ」



「叔父さんもあの大女優も恐喝していたらしいな」



「叔父には金銭を要求して、お袋には結婚を迫ったらしい。僕は今ニューヨークにいる両親の息子だとされていたからね。授乳していたのは可笑しいって……」



「あの人のオッパイで育った訳か? 羨ましいなお前」



「羨ましくもないぞ。僕なんか、まともに抱いてもらったこともないんだから」



「人気女優だから仕方ないか」



「うん。それがどんなに寂しいか、体験した者じゃないと解らないよ」



「そんなもんかな?」



「ところで、何しに来たんだ?」



「あっ、悪い。一応報告だけはしておこうと思ってな。実は兄貴が釈放されたんだ」



「今頃何だ。そんなのはとっくに知ってる。他に用事があったんだろう?」



「流石、気配りの隼だ。実は結夏の誕生日が近いから」



「そう言えばもう夏休みは終わりだな」



「だからさ、正式に兄貴に謝らせようと思ってな。そうしないと翔が可哀想だ」



「今何て言った」



「だから翔が可哀想だって言ったんだよ」



「翔って、あの翔か? 優……原島先生を悩ませている翔か?」



「そうだよ。お前知ってたのか?」



「中野優香先生っているだろ。自転車をパンクさせられて困っていたよ。でも、翔は松田じゃなかったぞ」



「だからこの前言っただろ。兄貴は離婚したんだって」



「だからあの時彼処にいたのか? ホラ、保育園の遠足って言うか……」



「ああ、体験学習ね?」





 「ああ、それそれ。確か『離婚したんだけど、お母さんが仕事で忙しくてね』って言ったよね?」



「ああ確かに」



「あの時は本当に助かったよ」



「あの時って?」



「ホラ、僕のバイクが横断歩道の横で……」



「そう言えばお前何であんな場所で転んだんだ?」



「いや、その……あの」


僕はしどろもどろになった。



「もしかしたら、誰かにときめいたとかか?」

仕方なく僕は頷いた。



「だからクラクション鳴らされた訳か?」


孔明は笑い出した。



「お前らしいな」



「何だよ。そのお前らしいなって」



「聞こえてきたぞ。優香と付き合っているって」



「えっー!? 何でだ」



「お前忘れたんか? 俺んちは結夏ちの真ん前だったろう。おばさんが話しているなを聞いたんだ。実は今日からかいに来た」



「お前な……」


「何だ、違うのか?」



「いや、婚約した……って言うか、結婚を前提に付き合ってるよ。優香のお父さんに許可もらうためにな」



「その許可って何だ?」



「優香が言い出したんだ。結夏と流れた子供の供養をしようって。そのために朝早く此処に優香が来ているんだ。勿論おばさんの許可をもらってからだったけど……」



「優しいな優香は、翔がなつくはずだ」



「なつくって言うより、離れたくないって感じだったな」



「まるでお前と原島先生のようだな」



「言えてる。だから翔に言ってしまった。原島先生が僕にくれた言葉を……」



「それは何だ?」



「僕が優香にブランコで怪我を負わせた時、原島先生が言ってくれたんだ。『女の子は赤ちゃんを産むことの出来る大切な体なのよ』って」



「えっ!?」



「ごめん、何も知らなくて……原島先生は『あっ、あの言葉ね。でも辛くない?』って言ってた。僕は『大丈夫です』って言ってしまった」



「原島先生は、翔よりお前を気遣ったんだと思う。その時兄貴は?」



「事情徴収されてる頃だと思うよ」



「かなり厳しかったそうだよ。いっそ認めて……そうすれば楽になる。そんなこと考えたらしい」



「結局、証拠はあのスキンだけなんだよね? 決めてに欠けた……」



「そうなんだよ。結夏の体内に残されたDNAとは明らかに違っていたんだよ。だから釈放しなくてはいけくなったんだ」





 「結夏の体内のDNAか……」



「もしかしたら又お前のか?」


仕方なく頷いた。



「お前なあ……」



「結夏が言ったんだ『お天道様が見てる』って。だからそのカーテン用意して……」



「どれどれ」


孔明はおもむろに立ち上がり窓辺に行った。



「裾が……」



「長いのを買って縫ったんだ。その後で思いっきり愛し合った。でも結夏はそれっきり戻って来ないんだ。だからカーテンはそのままなんだ」



「それじゃ優香が可哀想だよ」



「いや、優香がそのままにしておこうって言ったんだ。結夏の迎え火を炊いた日にカーテン売場に行こうとしたら」



「優香はきっと、結夏と一緒に暮らすことを選択したんだね。お前が負担にならないように……優しいな優香は」



「だから吹っ切らなければならないと思っているんだ」



「吹っ切れればいいな」


孔明は何時になく神妙だった。





 「ところで翔はあれからどうなんだい?」



「翔は兄貴が釈放されても会わせてもらえないんだ。あんなことしたんだから仕方ないけどね」



「可哀想だな、兄貴も翔も」



「万引きの濡れ衣を着せれた時に離婚したんだ。だから翔のママは働き詰めだ」



「だから遅くまで保育園で預かってもらっているのか?」



「朝七時から夜八時までだ。でも、それならまだいい方なんだ」



「可哀想だな翔」



「だから優香が放っとけないらしいんだ『隼に似てる』って」



「僕に?」



「ほらお前、ずっと叔父さんの迎えに来るのを待っていただろう? 優香はあの時のお前が忘れられないそうだ」



「きっと優香は気にしているんだよ。ブランコのことを……。でも違うんだよ。優香家のおばさんが僕と一緒に帰らなくなった理由は」


僕はあの写真をカバンから取り出した。



「原因はこの写真なんだよ。おばさんはお袋と父の恋を知っていたんだ。だからこれを週刊誌で見た時喜んだそうだよ。でも内容に愕然としたようだ。裏切られた。そう思ったのかも知れない」



「例のマネジャーの仕業か?」



「その頃ニューヨークの両親は日本にいて、母は僕に付き添っていたんだそうだ。マネジャーは隠し撮りだけじゃなくて、地獄耳で集めた情報を週刊誌に売った訳だよ」



「両天秤に掛けた末の判断か?」



「僕は確かにアメリカでは代理母から産まれたってことになっていたからね」



「だからって……」





 「愛した人が行方不明になっているのに、代理母として妹の子供を産んだんだよ。おばさんはお袋のことを許せなかったようだ。それが僕と一緒に帰らなくなった理由だよ。でも優香は自分のせいだと思い込んだんだ。それに……連れて帰っても公園で遊ばせる訳にもいかないしね」



「イヤでもブランコの一件を思い出すか? 優香もお前も痛い人生送ってきたな」



「今度優香に話すよ。お袋が記者会見を開いてくれて何の障害もなくなったから」



「ああ、そうしてやってくれ。優香きっと喜ぶぞ。ところでそのニューヨークにいる母親だけど、なんで子供が産めないんだ?」



「普通、そんなこと聞くか? 母って言うより、女性なんだよ」


そう言いながらも、頭の中では整理していた。



「原因はダイエットだそうだ」



「ダイエット!?」



「その原因を作ったのは自分だと、お袋だと思っているようだ。母は週刊誌のネタにされたんだよ。【売り出し中の女優の妹はおデブちゃん】って。母は元々ぽっちゃりで、可愛い子供だったそうだ」



「その週刊誌の記事を読んでダイエットを始めた訳か?」



「乙女心を傷付けられてな。少し痩せたら、今度はヤセ過ぎだって叩かれて……どうしょうもなくなった母は過食になってリバウンドしたんだ。そしたら又太り過ぎだと……そんなこと繰り返している内に子供が出来難い体になったそうだよ。だからお袋は自分のせいだと思い込んだんだよ」



「それが、代理母ってことにした理由か? 皆苦しんでいるんだな。家の兄貴だって……」



「翔に合わせてやりたいな。あれっ、でも何でお前は体験学習の時に一緒にいられたんだ」



「俺はボランティアだ」



「ボランティア?」



「なんて嘘。兄貴には悪いけど翔のママから連絡があって、急に行けなくなったから代わりに行ってくれってね」



「暇していたのは、孔明だけか……」



「ま、そんなとこだ。翔は俺になついていたから思い出したようだ。でも勇気がいることだと思うよ」



「翔のママにしてみれば一世一代の決断かも知れないね」



「だから、兄貴には絶対に言えないんだ」



「ヤキモチやくか?」



「ああ。どうしても仕事優先になるらしい。翔を養うためには仕方ないって。会社から睨まれる訳にはいかないんだって」



「辛いな翔のママも」



「翔も兄貴も……皆幸せになってもらいたいんだけど」


孔明は唇を噛んだ。






隼は結夏に残されたDNAが自分の物だと認めた。

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