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大好きな君へ。【結夏と優香】  作者: 四色美美
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ソフトテニスの王子様

市内のテニスコートでインストラクターのアルバイトが始まる。

 夏休みに入り、僕は念願だったテニスコートでのインストラクターのアルバイトを始めていた。

最初はどうなるものかと思っていたけど、何とか良い滑り出しだった。



辺りをキョロキョロしてみても、あの人は今? の取材陣は来ていなさそうだ。



(案ずるより産むが易しか……。あ、結夏……ごめん。産むが易しなんかじゃなかったね)


日本の諺には、人を平気で傷付けるのもあることも実感した。





 「調子はどうだい?」



「わぁ、店長ありがとうございます。お陰様で絶好調です」


店長が様子を見に来てくれたのだと思い込み、僕は素直に喜んだ。



優香に告白し、互いの気持ちを確かめ合ってからすこぶる調子がいい。


僕はあの時優香を抱き締めながら気付た。

震えている結夏の確かな恋心を……


優香は本気で僕を愛してくれていたんだ。

だから、その胸を傷めていたんだ。

僕が結夏のことばかり考えていたからだった。



あの紫陽花には笑った。

優香のヤツお墓に手向ける花を、頭でっかちでしかも茎を長く切ってきたんだ。


そんなの倒れて零れるのは当然だよな。


だから余計可愛くなったんだ。



『あはははは』って優香が笑った時、僕は思わず『結夏』って言ってしまった。

だから、必死に弁解したんだ。優香のことをこれ以上苦しめたくなくて……



そんなこともあったから、僕はこのテニスコートの雰囲気を思いっきり楽しめるのだ。





 受け付けに若い女生徒が来ていた。


どうやら店長が案内して来たようだ。


聞けば、東京から来た高校のソフトテニス部のキャプテンだそうだ。



「夏休みの合宿が始まるそうなんだが、コーチの方が怪我をしてしまいインストラクターを探しているそうだ」



「あ、僕一応ソフトテニスの経験もありますが」


思わず言っていた。



実は硬式テニスより、ソフトテニスの方が好きだったのだ。



「場所は隣町のレイクサイドセンターだそうだ」



「あ、あの湖なら良く知っています。そのレイクサイドセンターにはまだ行ったことはありませんが……」



「よし。じゃあ明日から頼むよ」



「え、明日から……」


ひょんなことから僕は身柄を拘束されることになってしまったのだった。


それも若いピチピチギャル付きで……





 (優香になんて言おう。又嫉妬するかな?)


僕はハートはドキドキしていた。



一応、ことわりの電話を入れて、合宿の支度を始めた。


期日は七月三十日から、八月三日までだ。


下着などは隣のスーパーで購入した。


ジャージに短パンも一通り準備してから朝一でテニスコートを目指した。





 「基本は走り込みとウォーミングアップだ」


やっと集合した生徒の前で一席ぶった後で、僕は率先して柔軟体操を始めた。



「二人一組になって!」

部長が声を掛けた。



「いや、それは止めておこう。パートナーストレッチングプログラムはユニフォームが汚れるから朝練には向かないよ」


僕は知ったかぶりした。



パートナーストレッチングプログラムとは二人一組になってやる所謂柔軟体操のことだ。



「みんな知っていると思うけど、スポーツ選手は縁起を担ぐ。土が着くって相撲から発祥した言葉がある。これは敗けを意味するんだ。だから試合前の柔軟体操では、土の上には座らなくなったんだよ」


実はこれはコーチからの受け売りだったのだ。


でもそれが妙に的を得ていてらしく、セルフストレッチングプログラムをすることに決まった。



太ももの表側は踵をお尻に付けるように曲げる。


内側は前屈みになり掌で膝を包むように。


腰は、そのまま掌で足首を掴む。


腰の外側は上に伸ばした手を繋ぎ体を横に倒す。


胸は両手を後ろで繋ぎお尻の下に移動させる。


後頭部で両手を組み、胸を反らす。


肩は手を伸ばし頭を向ける。


これを全員でやってもらうことにした。



「これをずっと続行してほしい。まずは体作りを基本にしよう」


僕は締めの言葉を言うと、全員が納得したように頷いた。





 初めにやるのはランだ。

簡単に筋肉をほぐした後でグラウンドを走る。

午後のロードより軽く全員参加が基本だった。


その後ウォーミングアップしてからラダートレーニング。


ラダーとは縄ばしごの意味で、足下に置いて反復跳びで瞬発力を鍛えることが出来るのだ。


でも僕はもっと簡素化した。


ただ線を書いたのだ。


物を置いて運動した時の躓き事故を無くすためだ。

それにこの方法だと何処でも出来るんだ。



僕の基礎体力と応用力は、それらにより生み出されたものだったのだ。



きつい坂を自転車で通うことも出来ないけど、これでも身体能力は高かったのだった。





 素振りの後はストロークを教える。



「フォアハンドのサイドストロークは、軸足を決め上体を真っ直ぐに立てて左足に体重をかけて、軸として体こ回転と共にスイングしてみるんだ」


サービスを練習しているレギュラーの球を打つ。


それはラインぎりぎりのエースになった。



「バックハンドのサイドストロークはクローズスタンスで打つ」


又エースになった。



「クローズスタンスって解るか? 軸足を決めて前足を踏み込む時、かかとから入ると膝が柔らかく使えるようになるから覚え方がいいぞ」





 解説は上手くいった。


その上次々とエースを決めるから、次第に生徒達が浮き足立ってきた。



クローズスタンス……

ラケットを左腰で押し出すように地面と平行に振りながら膝を伸ばし、右足前方でインパクトする。

重心はバックスイングで軸足にかかり、右足に移動してフォロースルーで右足にかける。

左手でバランスをとることでよりスムーズになる。



アンダーストローク・トップストローク・ロビング・ハーフロビング・シュートと続き、最後にネットに寄ってボレーとなる。





 硬式のテニスのラケットより太いグリップ。

持ち手を変えることなくフォアハンドとバックハンドに使える優れものだ。


シューズは底がフラットで凸凹のない物。



ソフトテニスのコートは、大きく三つに分けられる。


ストロークが打ちやすく、ラリーが続けやすい土のクレーコート。


多少の雨でもプレーが可能な砂入り人工芝の通称オムニコート。


摩擦が大きく、カットサービスが有効なハードコート。


又それに合わせたシューズ選びも大切だった。

一般的にはオールコート用がお勧めだけどね。





 「殆どの選手は試合開始の一時間以上も前に会場入りするんだ。ストレッチングとウォームアップをするためだ。それがスムーズに体を動かず原動力になるのだ」



テニスなどのラケット競技も他のスポーツと大差なく、太もも、腰、胸、肩などを鍛える。


ただ移動の激しいテニスは、足を鍛えることが重要になってくる。





 高速でボールの落下位置移動して、急ブレーキきをかけられた足は時に悲鳴を上げる。



大腿四頭筋やハムストリングスなどに掛かるストレスが主な原因だ。


それを軽減するためにも体の芯を温かめるの行為は欠かせなかったのだ。





 試合が終わった後のクールダウンも同様に重要な鍵になる。

ウォームアップとクールダウン。

これらが、事故のないスポーツの基本なのだ。



僕は練習過程を六通りに分けていた。


運動に関わる神経伝達を素早く行えるようにするコーディネーション。


相手のショットに素早く反応するために必要不可欠なフットワーク。


狙った場所へボールを打つためのショット技術向上。


試合を組み立てるために必要なストローク。


得点のチャンスを生かすネットプレー。


基本中の基本サーブ。


それらを一つ一つこなした後で総合練習となる。



サーブはボールを二つだけ持つ。

試合形式でリターンを狙わせる。

その処理練習が技術向上へと繋がると僕は思っていた。



一番大切なのはフットワークだ。

一、二、三のリズムでスイングする。


バックハンドストロークも、フォアハンドストロークも一はその場で軽くジャンプする。

全ては其処から始まるのだ。





 バックハンドストロークは、二で後ろ足を一歩引いて重心を置く。

つまり左足が後ろ、右足が前に来る。

三で、前に踏み出しながらラケットを振る。

この時右足が前に来る。



フォアハンドストロークは、二で後ろ足を一歩引いて重心を置く。

右足が後ろで左足が前に来る。


三で前に踏み出しながらラケットを振る。



左右の移動は、どちらにも行ける待球体制をとる。

右へは右足を踏み出してから走り始める。

左へは左足を踏み出しす。


第一歩目で足がクロスして走り出してはいけない。

補球場所への到着が遅くなり、バランスを崩しかねないからだ。


フットワークは第一歩目で体の方向を決めることが大切で、まず左右の足を軽く一歩出してから勢いを付けて走って行く。


それが一番早くボールに追い付く方法だと僕は信じていた。





 試合に勝つ上で一番大事なのはチームワークだ。

フトテニスに限らず、どんなスポーツであってもそれは同じことだ。


でも前衛と後衛のコンビネーションプレイが要求されるテニスは格別だった。



テニスは確率のスポーツだと言われる。

ボールをしつこく返す。

得意なプレーで押し通す。

弱点を徹底して突く。

攻撃する人を決め集中的に攻める。試合に勝つ確率を上げる。

これが大切なのだ。


でも実力が伴わないとそれは生かされない。

だから練習をする。

僕は本気でそう思っていた。





 ネットを挟んでのラリーは、体力維持のために欠かせない。


以前僕はバウンドして弧を描き落ちようとする球を打っていた。


でも今は通じない。


相手に余裕を与えてしまうからだ。


上に向かおうとする球を攻撃球とする。


これが有効なのだ。



僕はどうやら的確に教えられるのようだ。


それだけで満足している自分がいた。



だから朝から大張り切りだった。





 そんな僕の言動を不思議に思ったのか?

キャプテンが盛んに首を傾げていた。



「あっそうだ。確かソフトテニスの王子様。ですよね?」


その時。

やっと思い出したようにキャプテンが言った。



「えっ、ソフトテニスの王子様!? もしかしたら相澤隼って……」


その声に驚いて振り向くと……

店長が何時の間にか其処にいた。



「相澤隼って、あの相澤隼か?」


店長が何を言っているのかは良く解らない。

でも僕は頷いた。



「オーナー。すぐレイクサイドセンターのテニスコートに来てください。ソフトテニスの王子様の相澤隼君が此処に来ています」


よせば良いのに店長はスマホを取りだし大きな声を張り上げた。



「えっー!? コーチ代理があのソフトテニスの王子様だったのですか」


生徒達は僕を取り囲んでいた。

心配した通り、ピチピチギャルに変身してしまったのだった。





 僕は元々ソフトテニス部のエースだった。



そんな僕を見て、マスコミが騒ぎ始めたんだ。



【大物女優の息子、ソフトテニスの王子様として復活】って……



実は僕、中学時代には県大会ににも出場出来るほどの実力があったんだ。


まあ、組んだペアが凄腕だったせいもあるけどね。



だから良くマスコミに追い掛けられていたんだ。



それはタブロイド誌による【ソフトテニスの王子様】騒動に始まったことだったんだ。



だから僕は、大好きだったソフトテニスを封印しざるを得なかったのだ。



又あの大女優の息子として騒がて、迷惑を掛けたくなかったからだ。

だから僕はひっそりと生きてきたのだった。





 「相澤隼君って言ったね、もしかしたら君の父親は相澤真二って言わないか?」



「相澤真二は僕の叔父ですが……」


そうなんだ。

今アメリカに行っている叔父の名前は確かに相澤真二って言うんだ。


どうやらオーナーは僕の叔父と知り合いらしい。



その時僕はまだ自分の出生に隠された真実を知らなかった。



薄々は感付いてはいたのだけど……






ソフトテニスのコーチ代理の仕事は順調だった。

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