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Lv03 1人での30歳の誕生日

代わり映えしない毎日の中、仕事からの帰り道。

「そういえば明日は30歳の誕生日だったな…」

太郎は一人思い出したようにつぶやいた。

30歳と言えば、昔は結婚してて車もあって子供もいて家を買うかどうかで悩んでいるみたいなイメージだった。

しかし実際に30歳が目前に迫ってみても、そんなイメージはあくまでイメージだったのだと分かる。

結婚どころか彼女もいないし、そもそもアルバイト暮らしだ。

確かに太郎の親世代はそういう人生を送る人が大多数だったのかも知れないが、今や30歳で結婚していないなんて当たり前になっている。


「せっかくだし発泡酒じゃなくてビールにしようか」

普段は安くまとめ買いしている発泡酒を飲むが、誕生日のお祝いということでビールを買おうと方向転換する。

ついでだからケーキも買おうかと、ケーキ屋に足を運ぶ。

目当てのケーキ屋に着くと店の前に家族連れがいる。

恐らく自分と同じ30歳前後の夫婦と、4~5歳の娘だ。

丁度その娘の誕生日のお祝いらしく、楽しそうにケーキを選んでいる。

父親の方はきっと仕事帰りなのだろうスーツを着ている。

細く引き締まった体に、スーツが良く似合っている。

履いている靴もピカピカに磨いてあって、きっと上等なものなのだろう。


自分の格好を見てみると、醜く太った身体にヨレヨレのジーンズとトレーナー。

靴だって何年も前に買ったスニーカーだ。


幸せそうな家族を目にし、こんな自分が同じ店でケーキを買うのは何だか場違いな気がして、結局ケーキは買わずに家に帰ることにした。


家でいつものようにゲームをしている太郎。

傍らにはビールの空き缶が転がっている。ビールだけでなく発泡酒の缶もある。

明らかに普段より多く飲んでいる。


「ちくしょう、何なんだよ!何で僕と同じような年でこんなにも違いがあるんだ?」


太郎がこうして一人で部屋で過ごしている間にも、夕方に見たあの家族はきっと母親が作ったごちそうとケーキを食べ、幸せな時間を過ごしているんだと思うと、これまで意識しないようにしていた現実を突きつけられたような気がしたのだ。


「僕とあいつで何が違うんだよ!僕だって努力してきたつもりだ。大学だって周りがサボってる間も、毎回ちゃんと授業に出てた。就職してからだって、真面目に働いてたよ。それなのに美穂には捨てられて、結局世の中は金なのか?やっぱり見た目が良くて要領の良い奴じゃないとダメなのかよ。」


最近見ている悪夢。

三十路を迎えること。

自分が手に入れられなかった幸せな家族を見たこと。

それらが太郎がずっと蓋をして、見ないようにしていた気持ちを開放した。

酒のせいもあり、嗚咽しながら一人で呪詛のように呟いている。


「幸せになりたくないなんて嘘だ。そうでも思い込まないと現実に打ちのめされてしまうから。どうやったら幸せになれるんだよ!?誰か教えてくれよ…。」


時間は零時になろうとしている。

30歳の誕生日だ。


「僕だって…幸せになりたい!」


太郎がそう呟いたと同時に、時間が零時を回った。


その瞬間パソコンのモニターが光り、中から小さな人型の妖精のようなものが飛び出してきた。

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