Lv02 人生に躓いた出来事
以前は太郎にも恋日や友達がいた。
しかし、20代後半になってもアルバイトで食いつないでいる太郎と、正社員として働いている友人とでは話も合わず疎遠になっていった。
中には気を使って飲み会等がある時に、声をかけてくれる者もいたが、毎回太郎が断るのでその内声もかからなくなった。
太郎が30歳になろうかという歳になってもアルバイト生活をし、人生を諦めてしまっているのには、理由がある。
話は大学卒業の頃に遡る。
太郎の行っていた大学は、一流大学と評されるような学校ではなかったが、それでも卒業時には何とか内定を得ることができていた。
学内でできた彼女もいて、幸せな時期だった。
しかし太郎が入社した会社はブラック企業だった。
毎日終電近くまで残業があり、休日出勤もザラだった。
その為、彼女からは太郎と会えない不満が溜まっていた。
たまの休みに会っても、疲れやストレス、不満からケンカばかりするようになった。
それでも太郎は彼女のことが好きだった。
劣悪な労働環境で頑張れたのも、彼女との将来のことを考えていたからだった。
就職して2年目の秋、少ない給料の中から貯金し、指輪を買ってプロポーズしようとしていた矢先、彼女の方から別れを告げられた。
休みが少ない、給料も安い、昇給も望めない、そんな将来性の無さではこのまま付き合うことは出来ないということだった。
頑張る理由が無くなった太郎は、溜まっていた疲れとストレスが一気に噴出したのか、倒れて入院することになってしまった。
医者からは極度の疲労と鬱病の一歩手前だと診断された。
数週間の休養を余儀なくされた太郎は会社から解雇を言い渡された。
働けない人間を雇い続ける余裕は無いという理由だった。
精神的にも肉体的にも会社と争う余裕の無かった太郎は素直に会社の言い分を受け入れた。
退院後、体が回復してからも、何かをする気力がなく、ずっと自宅にこもっていた。
皮肉なことに貯めてあった貯金で入院費用と無職期間の生活費は賄うことができた。
引きこもり生活期間はずっとゲームをしてた。
大学に入ってからはやっていなかったが元々ゲームが好きだったのだ。
アクションやシューティングではなく太郎がプレイするのはRPGだ。
自分だけの世界で、敵を倒せば経験値と金が貯まる。
装備を整え、レベルを上げることでどんな敵でも倒すことができる。
非常にシンプルで分かりやすい上に、自分の行動の結果がすぐに数字に現れる。
現実世界とは大きな違いだ。
現実がままならない分、ゲームの世界に没頭するようになった。
数カ月後、生活費が底を尽きかけ、働く必要に迫られた。
最低限の生活費だけ稼げればいいと考えた。
残業もしたくない、人と接することもない仕事を条件とし、自宅の近くで募集していた配送センターのアルバイトに応募した。
それからはずっと同じ配送センターで決められた時間働き、自宅に戻ってからはゲームをするという生活をするようになった。
就職や結婚等という世間一般が言う、幸せな生活なんかは求めようとは思わなくなった。
どうせ求めても手に入らないのだから。
そもそも手に入れ方が分からないし、誰も教えてくれなかった。
これがゲームだったらクソゲーだ。
だったら最初からそんなものは求めず、ゲームだけやる生活で良い。