Lv01 佐藤太郎 29歳アルバイト
男の名前は、佐藤太郎。
年齢は29歳。
職業はアルバイト。
最近、頻繁に同じ夢を見る。
不吉な内容だ。
どん底の生活のまま、絶望しながら死を待つのみという夢だ。
今朝も、同じ夢を見て目が覚めた。
正直あまり良い寝覚めではない。
眠気はまだあるが、ベッドから降りて、洗面台に顔を洗いに行く。
太郎の住まいは都内にある1Kのアパートだ。
ベッドから洗面台まで数メートルしかない。
築年数はかなり経っているがリフォームされているので、古さが気になることはない。
家賃の安さとトイレと風呂が別だということ、10畳という1Kにしては広い部屋に惹かれ入居を決めた。
顔を洗いながら、悪夢について少し考えてみる。
恐らくは将来の自分のことなんだろうと思う。
しかし、だからどうだという気持ちしかない。
太郎は幸せになることを諦めている。
幸を求めるから、現実とのギャップに苦しんだり、絶望したりする。
だったら最初から求めなければ苦しむことも絶望することも無い。
生活に必要な分だけのお金を稼げれば、出世や競争で精神をすり減らすことなく穏やかに生活できればそれでいい。
将来は夢で見たような結果になるのかも知れない。
太郎はそうなったらそうなったで仕方ないと考える。
結局将来なんか誰にも予想できないのだから。
来年には戦争が起きるかも知れない。
10年後には資源が枯渇して、今と同じ生活は送れないかも知れない。
ならば、今は競争社会に入って無駄なストレスを感じることなく、穏やかに暮らした方が良い。
それが太郎の考え方だった。
太郎の仕事は配送センターでのアルバイトだ。
コンベアから流れてくる荷物の中から、自分が担当する地域のものを選り分けて、配送のトラックに乗せる仕事だ。
所謂荷引きと言われるものだ。
その選別方法は、荷物に貼られている発送伝票を見て判断するというアナログなものだ。
始めた当初は、荷物の選別が上手く出来ず別の地域のものを引いたりしていたが、
数年同じ仕事を続けている現在では間違えたりすることもなく問題なくこなすことができるようになっている。
仕事の後に、職場の人と食事や飲みに行くといったことはしない。
人と接するのが面倒だからだ。
大体弁当を買うか、ラーメンを食べて帰るかのどちらかだ。
たまに、コンビニに漫画雑誌を立ち読む為に寄り道するぐらいだ。
ワンルームのアパートに戻って一番最初にすることは、シャワーを浴びて汗を流すことだ。
ずっと立ちっぱなしで動いているので、そこそこの量の汗をかく。
仕事に慣れる前は帰ってくるなり疲れてすぐに寝てしまったりしたが、今では体力的にも余裕が出来、まずは気持ち悪い汗を流すことが習慣になった。
シャワーの後はゲームをしながら発泡酒で晩酌。
これが、恋人も友達もいない、他に趣味もない太郎の毎日の楽しみである。
これが太郎の毎日の生活である。