Lv12 記録をつけてモチベーションアップ
「ねぇ、アリス」
「何、太郎?」
「僕最近痩せたと思わない?」
太郎が晩御飯だけの自炊を始めてから1ヶ月が経過していた。
実際、太郎は1ヶ月前に比べると痩せていた。
毎日顔を合わす職場の人ですら、『最近、佐藤さん少し痩せた?』と聞いてくるレベルだ。
ズボンのベルトも一番締めた状態にしても、ブカブカに感じるようになってきた。
「そうね、痩せたわね。
スクワットは毎日続けてるし、晩御飯も毎日自炊してる。
褒めてあげてもいいわよ。」
このAIは何故か常に上から目線でものを言う。
アリス本人ではなく、設計した人間がそのようにプログラムしたんだろうが。
とは言え褒められると嬉しいのが人の常だ。
太郎は素直にアリスの言葉を受け止める。
「貴方も少しずつ成長してきてるので、そろそろ次のステップに入るわよ」
太郎もスクワットと料理だけでは物足りなくなっていた頃だ。
内心アリスからこう言われることを期待していた。
「毎日の行動を記録しなさい」
どんな難しいことを言われるのかと思ったら、また例によって簡単そうな内容に太郎は若干拍子抜けする。
「ていうか、貴方記録も付けずに、よく毎日淡々とスクワットとかできるわね」
「何でだよ?アリスがやれって言ったんじゃないか」
アリスの台詞に非難めいた反論をする太郎。
「確かにそうね。
普通はずっと同じことを続けるって言っても、結果が目に見えないとモチベーションを保ち続けるのが難しいはずなんだけどね」
「んー、飽きたりはしてたけど、習慣として一生やっていくものだと考えたら飽きるとか飽きないとかじゃないかなと思って」
確かに太郎が現時点でやってるのは、スクワットと料理だけで、これは何歳になっても続けなければいけないことだとアリスは示唆していた。
であれば、飽きたり仮に効果が目に見えなくても止めていい類のものではない。
太郎はそう考えて愚直に続けていただけだ。
「貴方、何気に凄いわね。
さて、これからはやることを増やしていく予定よ。
1つ1つの成果が上がってるのかすぐに目に見えないことも多いわ。
効果が分からないことを続けるのはよっぽど強いモチベーションがないと出来ないわ。
だから、やってることを可視化してモチベーションを維持する為に必要なのが、毎日の記録よ。
自炊で食事を改善して痩せた?って聞いてきたでしょ?
痩せたかどうかなんか、毎日見てると判断できないでしょ。
判断できないと、やる意味があるのかどうかの疑問に繋がってモチベーションの低下に繋がるわ。
今は食事量を制限してる訳でもないから苦にはなってないかも知れないけれど、量を制限しだしたり、筋トレ量を増やしたりした時に、効果が見えないとやる気満々という訳にはいかないでしょ。
だから毎日行ったことを記録して可視化して、『今日はこれだけ頑張った』っていうのを見えるようにするのが大事なのよ」
「なるほど。理屈は分かった。確かに目に見える方が続ける気になるね。
ポイントカードみたいなものだよね。
スクワットだってもう1ヶ月以上続けてるんだから、今止めるともったいないって思うだろうし。
それが表とかになってると尚更ね」
「そういうこと。
ダイエットだって、レコーディングダイエットってあるでしょ。
毎日の体重を記録するだけで、自然と食べる量をセーブして痩せられるっていう。
だから数値とか、分かりやすい形で記録するっていうのは大事なのよ。
という訳で一旦これまでの成果を見る為に、また写メを取りましょうか」
1ヶ月前に撮ったものと同じ構図で撮影して、その違いを見てみようということだ。
前回は太った体を改めて見ることを抵抗していた太郎だったが、今回は1ヶ月前との差を見られるということで素直にスマホをセットして写メを撮る。
決して痩せている訳ではないし、むしろまだ太ったままではあるが、自分が努力した結果を見られるというのは恐ろしくもワクワクするものだ。
スマホで撮影した写真をPCに転送し、モニタ上で見比べる。
こう見比べると確かに、全体的に脂肪が減って一回り小さくなっている感じがする。
腹回りも前よりスッキリしている。
足もスクワットのせいか多少筋肉が付いたように見える。
「どう?見比べてみた感想は?」
「前に比べると多少は痩せたけど、やっぱりまだまだ太ってるよね」
「そりゃそうよ。1ヶ月やそこらで結果が出る訳ないでしょ。
それにそんな急激に減量すると、前にも言ったけど体にも悪いし、皮が余って醜い体になっちゃうわよ。
だから『習慣』にして続けることが大事なのよ。
まあでもこの調子でいけば、半年もすればそこそこ見れる体にはなるんじゃない?」
「本当?じゃあ、朝と昼も自炊にして良い?」
「もちろん良いわよ。最初にハードルを下げるのは続ける習慣を付けさせる為だから。
何度も言うけど続けるのが大事だから、もし疲れてる時とか、やる気がどうしても出ない時とか、違うものが食べたい時は、たまには外食して良いんだからね」
「分かった。そういう時は相談する。
でも料理始めてみて、結構好きかも知れないんだよね。
味付けも自分の好みにできるから美味しいし、お金も外食より全然安いしね。
そろそろレパートリーとかも増やしたいなとも思ってるぐらいだから、多分大丈夫」
「食べ過ぎないように気を付けなさいよ。自炊は自分で量を調節できるから食べ過ぎがちになりやすいんだから。
食べ過ぎないようにする為にも、まずは体重計買わなきゃね。あと姿見も」
◆
体重計は、ネットの通販サイトで一番人気だった体組成計を購入した。
姿見も同様に値段とサイズとレビューを見て適当そうなのを選んで購入した。
「これでようやく体重を計ることができるわね。
ちょっと計って見なさい」
今更恥ずかしがることもないので、アリスの言葉に素直に従いトランクスとTシャツになり購入したばかりの体組成計で体重を計る。
「体重82kg、体脂肪率24%」
「……」
太郎の身長は172cmだ。
30歳男性で身長172cmの適正体重は65kgほどだ。
つまり太郎は多少痩せたとはいえ、まだまだ適正体重から20kg近くオーバーしていることになる。
改めて数字で見ると、やはりショックなものである。
アリスも何も声をかけられない。
「…今晩から少しずつ食べる量を減らすよ」
「…そうした方がいいかもね。
朝昼はしっかり食べて、夜を減らすのがいいわよ」
◆
「記録の方法は、簡単にできるというのが一番大事よ。
最近はスマホでいろんなアプリも出てて、数値を入れれば自動的にグラフにしてくれるものもあるわね。
でも私はgoogleのスプレッドシートをオススメするわ。
googleスプレッドシートならスマホとPCで自動的に同期してくれるし、体重体脂肪だけじゃなくて他の項目を足すこともできるからね。
一つのアプリで一覧で見られるというのは大きな強みよ。
まず、今太郎が習慣でやってることを縦の行にとりあえず書いていきましょうか」
アリスの言葉に従って、簡単にPCで入力していく。
・体重
・体脂肪率
・スクワット
・食事(朝)
・食事(昼)
・食事(夜)
「とりあえずはこんなところかな」
「良いんじゃない?
あとは一番上に日付の行を作って、今日から一ヶ月分ぐらいの日にちを入力しておけばいいわ。
足りなくなってきたら後から足せばいいから。
これもあんまり細かく入力するってルールにすると、気軽に続けられないからある程度雑でいいわよ。
体重体脂肪率は数値だけだし、スクワットもやった回数ね。
食事に関しては簡単に食べたものをメモする程度ね。
例えば、『自炊・カレー』とかその程度ね。仮にサラダとかサイドメニューとか食べたとしても、今のところは書かなくて良いわ。
とりあえず食事で重要なのは満腹度ね。
行を増やしてそれぞれの食事での満腹度を入力する欄も作って」
満腹度を追加した行はこんな感じだ。
・食事(朝)
・食事(朝)満腹度
・食事(昼)
・食事(昼)満腹度
・食事(夜)
・食事(夜)満腹度
「腹八分目に医者いらずって言うでしょ。
10段階で良いからこれも毎日入力するようにしてね。
満腹を超えて食べ過ぎたと思ったら『12』とかでも良いわよ。
これもレコーディングダイエットと同じ要領で、記録するとなると自然と食べる量が減るでしょ。」
こうやって毎日記録をつけることで、運動と食事、体重体脂肪の相関も確認することができ一石二鳥という訳だ。
「記録は、付け方によってもっと応用が利くんだけど、今のところはこんなもんでいいでしょ。
それは追々説明していくから、とりあえずは1日の終わりにこの表を完成させるようにしてね」