Lv10 ダイエットは減量ではなく習慣
「太郎、次はダイエットよ。
今の身長・体重はいくつ?」
「身長は前に計ったときは172cmだけど体重は分からない。体重計ないから」
「なるほど、分かったわ。
ちなみにこの部屋は姿見もないわよね」
「うん」
「じゃあスマホのカメラで自分の体を撮りなさい」
「嫌だよ。自分の体なんか見たくない」
「それって、自分の体が醜いって自覚してるってことよね。
いいから四の五の言わずに、そこにスマホ立てかけてセルフタイマーセットして撮りなさい。
貴方は幸せになりたいんでしょ?
分かってるでしょ。
現状を認識して、1つずつ改善していくしか幸せになる方法はないのよ」
アリスの有無を言わせない口調と、説得に渋々従う太郎。
Tシャツとトランクス姿になり、自分の写メを撮影する。
写メを見て、太郎は嫌そうな顔をする。
「自分で直視できないようなのが貴方の現在の体型なのよ」
太郎は毎日仕事に行ってる。
町を歩くとお店のショーウィンドウなんかに自分の姿が映る訳だが、太郎は極力それを見ないようにしていた。
毎日の髭剃りだって、洗面台に備え付けの鏡を使用しているので、首から下はほぼ見えない。
太郎だって学生時代に比べて太っているのは自覚している。
だからこそ、そんな体型とは向き合いたくなかったのだ。
「考え方を変えれば良いのよ。
今が最低なんだから、これからは上がっていくしかないんだから」
言われるまでも無く、それは理解している。
ただ、怠けていた自分を改めて認識するのが精神的にキツイというだけなのだ。
「何度も言うけど、貴方はこれまでの人生、逃げてばっかりだったんだから。
現在の状況を見たくないのは、それが良くないって理解してるってことでしょ。
デブだっていいじゃんとかって開き直ってないんだから。
大丈夫、貴方は幸せになるって目的を持って、それに大して努力する意思があるんだから。
スクワットだって続けられてるんだし」
◆
「という訳でダイエットよ。
目的は、太った不健康な体からオサラバして、見た目を改善して自分に自信を持てるようにすることよ」
「分かった」
「ちなみに『ダイエット』って減量って意味だけじゃないからね。
食習慣とかって意味もあるの」
「そうなの?ずっと体重を減らすって意味だと思ってた」
「そう勘違いしている人も多いわね。
貴方がするダイエットは、食習慣の方ね。
急激な減量をしたところで、続かないと意味がないし、何より体に悪い。
だから減量を目的にするんじゃなくて、まず健康的な食習慣を身に付けて、その結果として減量もできるというスタンスね。
残りの50年を幸せな人生として過ごす為には、今が良ければ良いっていう考え方じゃなくて、1つずつ悪い習慣を良い習慣に置き換えていくっていうのが大事よ。
じゃあダイエット、食生活の改善ね。
貴方の今の食生活は正直言って酷いの一言よ。
全部外食で、コンビニのお弁当とかラーメンとかばっかり」
「分かってはいるけど、料理できないし、面倒だし」
一人暮らしの男なんて大体そんなものだ。
「大体、毎回外食って健康面でも良くないし、そもそも食費がかさむでしょ。
毎月いくら食費に使ってるのよ」
「え?分からない。厳密に計算してない。5~6万ぐらいだと思う」
実際のところ太郎の毎日の食費は2000円ほど。
1ヶ月にすると6万円だ。
それほど外した認識ではない。
一応一人で生活しているので、ある程度はお金のことには気を使っている。
毎月の給料から家賃や光熱費等と万一の為の貯金分だけ口座に残して、使用する分だけを引き出すようにしている。
そこには食費だけでなく、生活必需品やゲームや漫画代といった娯楽費も含まれている。
毎月の自由に使える金額と、毎日の食事に使う金額を大雑把にではあるが、計算して出した数字なので全く外した認識を持っているということは無い。
「まずは晩御飯だけでも自炊しなさい。
1食自炊にするだけで、お金も浮くし、食生活も大分改善するはずよ。
野菜炒めとか鍋とかで良いんだから。
調理も簡単だし、野菜も沢山採れるし」
「でも調理器具が無い」
「何もないの?
包丁とかフライパンも?炊飯器も?」
「そんなの無いよ。お湯沸かす用の鍋と、果物用のナイフぐらい」
アリスはそのセリフに呆れながら返答する。
「分かったわ。じゃあ買いなさい。
最低限必要なものは教えてあげるから」
「結構お金かかるんじゃないの。大丈夫?」
「必要経費よ。
それに仮に5万円分買ったところで、外食から自炊に変えた差額で考えると2~3ヶ月でペイできるはずよ。
それ以降は、これまで食費で使ってた分のお金が自由に使える分として増えるのよ。
しかも健康な体のオマケ付きで。
今後のことを考えると今お金を出す価値はあるから」
「分かったよ。頭では理解してるつもりでも、新しいことをしようとするとなかなか実行できないんだ」
「それを後押しする為に私がいるのよ。
必要なものを言うわね。
炊飯器
包丁
まな板
フライパン
大きめの鍋
とりあえずこれだけあったら良いわ。
炊飯器は最近のはどれも性能は悪くないはずだから、値段とレビュー見て適当なのを買っちゃいなさい。
包丁は三徳包丁か万能包丁があればいいわ。長く使うものだから、多少値段が張っても良い物を買った方がいいわね。
まな板は何でも良いわ。
フライパンはテフロン加工の物より、鉄製の方が良いわね。
ちょっと手入れが面倒かも知れないけど、鉄の方が長期的に見てメリットが多いわ。
詳しいことは検索して調べてみて。
とは言え、手入れが面倒で料理をしなくなるのは本末転倒だから、太郎の判断でどっちでも好きなものを選べば良いわ。
鍋も値段とレビューを見て適当なのを買えば良いわ」
「分かった。今晩ネットで調べて注文しておくよ」