プロローグ 孤独死!?
古めかしいワンルームタイプのアパート。
その一室にある安っぽいパイプベッドの上、薄くなった布団の中で老人が横たわっている。
老人とは言うものの、実際の年齢はまだ60歳ほど。
定年の年齢が引き上げられ、60歳でも現役で仕事をしたり、様々なスポーツやアクティビティに精力的に
取り組む人が増えている昨今の状況を考えると、この男性は実年齢よりもかなり大幅に老いていると言える。
それはこの男性の歩んできた人生に起因する。
男性が若い頃、仕事と私生活でちょっとした躓きがあった。
今だからちょっとしたと言えるが、当時は本人からしたら非常に大きな出来事だった。
正社員で就いていた職を辞め、アルバイトで食いつなぐようになった。
何度かバイト生活を抜け出して、再び正社員になり安定した生活をしたいと思ったことはあったが
その時にはすでに手遅れで、大した職歴も技能もない中年男を社員として雇ってくれる会社は無かった。
それからずっとアルバイトで食いつないできた。
当然結婚なんかしていないし、恋人だっていない。
ずっと人との関わりを絶って生きてきた。
しかしさすがにアルバイトといえど、雇ってくれるところも年々減ってきて
ついには数ヶ月前から無職の状態が続いている。
人付き合いもして来なかったので、当然頼れる相手も相談できる相手もいない。
今はなけなしの貯金を切り崩しながら生活をしている。
買い置きしてある食材を少しずつ食べるだけの毎日。
極力カロリーを使わないように、ずっと部屋で寝ている。
外出といえば、水道も止まっているので、公園や図書館にたまに水を汲みに行くぐらいだ。
人と関わらず、何も生産的な活動もせず
楽しみを見出すこともなく、ただ寝てるだけの生活。
男は毎日布団の中で問いかける。
これで生きていると言えるのか。
そう思っても、自分から死ぬだけの度胸も行動力もない。
仕事はしないと決断して、家賃等のかからないホームレス生活を選択することもしなかった。
しっかりと働くと決めて、もっと待遇の良い職を探すこともしなかった。
結局、働かないということも猛烈に働くということもせず、
何かを決断することも覚悟することもなく、流れの方へ流されるだけだった。
その結果が、この究極の何もしない生活。
何の為に生きているんだろうと考えたこともあった。
しかし、それを考えると後悔で押しつぶされるので、
そのうちに考えることを辞めてしまった。
今は、このまま死ねたらいいなと思いながら眠りにつくだけの毎日。