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『名残の雨と小粋バス』



 バスに乗リこむと待っていたかのように雨は降り注いだ。


 やはりもう一台待たなくて正解だったな。 バスの中は行きと同じようにギッシリと詰まっている。


 バスの扉が開くたびに雨の香りが色濃くなっていく。


 それと同時にやや湿った空気が乾いた心にわずかながらに潤いが染みこむ。


 一日中歩き続けて心も動かされて身体は心地よい疲労感に包まれている。


 うっかりウトウトしないように気をつけないとな……。


 間抜けな寝顔を晒すのは恥ずかしいからね。 


「んっ?あれは……」


 なんとなく上を見上げると、例のアニメのポスターが貼ってある。 いまさら気づいたけれどバスのあちらこちらにも。


「皆さん、ぼんぼり祭りお疲れさまです。祭りは楽しめましたか?」


 ややバリトンの聞いた声が車内に響き渡る。 疲れていた仲間たちから少し笑い声が出される。


「お疲れのようですね、ああそうそうバスの中にあるアニメグッズは全て私の私物ですので決してお手を触れないようにお願いします」


 リズミカルに言われたその言葉に先ほどよりも強くドッと笑い声がおきた。


「実は私もね……皆さんと同じだったんですよ」


 今度は急に沈鬱な声がスピーカーから流れる。


「実は一回目のぼんぼり祭りの時にはお客として来てましてね、その後バス会社に就職しまして有給を取って二回目は参加しました……そして三回目の今回はこの路線のバス運転手として間接的にですが参加させてもらいました。いやはや人生ってのはどうなるかわからないもんですね」


 口調とは裏腹に飄々とした言い方にとうとう乗客全員が笑った。 もちろん自分も……。


 その後も運転手さんの自虐めいた話と地方のオタ事情を臨場感たっぷりに解説されバスの中は大盛り上がりとなった。


 やがてバスは駅に到着した。 


「さて皆さん名残惜しいですが、ここでお別れですがこれから夜をお楽しみください」


 ドタドダと慌しく降りていく人々とバシャバシャと忙しく屋根から降り注ぐ水音。


 それらを聞きながらバスから降り立つ。

 

 日本海側独特の空気と湿り気を帯びた雨の香りが火照った身体と心に気持ちが良い。


 大きく息を吸って胸いっぱいにそれを吸いこむ。


 夜はこれからだ! さてと知らない街を探索するとしよう! それもまた旅の楽しみだからね。


 しっかりと地面に足を踏み出して歩きだ……そうとするが大事なことに気がついて立ち止まった。


 そういえば泊るところ……探してなかった。


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