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シュールナンセンス掌編集

つまようじ

作者: 藍上央理

「つまようじ」



 つまようじの海は快適だという人がいて、連れて行ってもらうことになった。

 小学校の狭い運動場に、つまようじで四角い線を引いていく。

 安易な土のプールができたとき、その人は「さぁ入りなよ」と私に言った。

 どう見てもプールの水は土でしかなくて、私はアンブレラの下で日光浴をすると言って断った。

 連れの男が「じゃあ」とプールに片足を突っ込むと、そこはすでに小学校の運動場ではなくなっていた。

 ほかのみんなは私を振り返って、「なぜ入らないの? 地中海の海のように快適だよ」と手招いた。

 そうするうちに、イルカが群れをなしてやってきたらしく、みんなその背に乗って有意義な時間を過ごした。

 私は本を片手にそれを見たけれど、つまようじで引いた海がどうにも好きになれなかった。

 「君が入らないとつまらないじゃないか。それにこの海にはちょくちょくクジラもやってくるんだ。君もいっしょにクジラと遊泳しようじゃないか」

 つまようじで海を作った人がそう言ったけれど、私は「泳げないから」と断った。 

 運動場の日差しは地中海のと比べると、はるかに脆弱で肺病を患っているようにみえる。頭上の太陽の蒼白い咳を感じながら、私はアンブレラの陰に身をちぢこませた。

 バシャンという音がして、つまようじの海に対する私の認識が覆された。

 ゆうに10mはあろうかというザトウクジラが、私のアンブレラに砂の雨を降らせた。

 しょせんつまようじの線を越えてしまえば、砂は砂なのだ。

 その論理に私は安堵する。

 ザトウクジラの背や鼻先や口先に連中はつかまり、ヤイノヤイノとはしゃいでいる。

 私はそっと足をのばして、つまようじの線を踏み消してやった。

 友人とはいっそどんなものなのか?

 多くの知り合いを無くしはしたが、砂に埋もれている人々は素晴らしくこっけいだった。

 次からは用心しながらお誘いを受けることにする。

 たとえそれがつまようじでなくても。

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