異世界にて娼婦やってます。
もしも、なんて仮定がついても、この目の前の現実は変わらない。
これは『IF』なんかじゃなく、『REAL』の話。『もしも』なんて通じない現実。今。
私はこの瞬間瞬間を切り抜け、生きなければならない。
生きたい
私がそう望んだんだから。
◆◇◆
汗ばんだ、肌。
すぐ間近で聞こえる荒い息遣い。
普段は寡黙で知性を感じさせる碧い瞳が、今はトロンと潤み、真っ直ぐにこちらを見ている。
カーテンで窓を閉めきって、月の光すら遮った室内には、青臭い独特の臭いがこもり、
たった一つの光源であるベットサイドの灯りと合間って妖しい雰囲気を醸し出していた。
そこはとある宿屋のとある部屋。昼は一階で食事を売り、二階では宿屋としての部屋を貸しながら、望む客には娼婦をつけるというサービスを行っている。
普通の宿屋に見えるが、料金が高めなのはその為だ。
現在は五人の娼婦が見を置き働いている。
十代半ば程の少女が一人、
二十代半ば程が二人、
三十代過ぎ程が二人。
そして、私が十代半ば程―――――――といってももう二十代半ば程なのだが、の少女である。
「アリア、先日の話は考えてくれたか?」
今、ベットサイドに腰かけてこちらを伺うように話かけて来たのはイスキィ・ベルベット。
巷ではベルベット卿と呼ばれていて、黒髪に碧い瞳の寡黙な、なかなかの男前だ。
「先日・・・?あぁ、あの『ここで身を売るなんて辞めろ。私の屋敷に来い』っていうふざけた話?」
優しく話しかけ、触ってこようとしたイスキィの手を払いのけ、まだ情事の後が残るベットから立ち上がる。
粗末なベットだが、ふかふかで寝やすくアリアは気に入っていた。
「ふざけてなどいない。私は真剣に・・・・!」
アリアの言葉に若干傷ついたような顔をした端正な男前と評したイスキィの顔をじっと見つめる。
イスキィーは尚も何か言い募っているが、アリアは話半分にしか聞いていなかった。
(あー、もうなんかこうゆうのって前の世界でプロポーズとかしてきためんどくさい男思い出すからやめてほしんだよねー。ていうかイスキィ自体がもう面倒になってきた。)
そろそろ潮時かもしれない、と思い、まだ話ているイスキィを尻目に他の客から貰ったこの宿には不釣り合いなガウンを羽織る。
「イスキィ、それ以上面倒な話はしないで。貴方との関係、切ってもいいんだよ?」
「・・・・・っ!!!」
それを聞いたイスキィは、顔を歪めた。
話は終わりとばかりにアリアは部屋を出て、イスキィの謝罪諸々も聞き流した。
客と娼婦。
その上下関係が崩れる事は、
この宿屋、いや、アリアとその客の間では珍しい事ではなかった。
それは、何故か。
説明するにはアリアがこの世界に落とされた時まで遡らなければならない。