七転び
小さな頃、双六なんかで私は小さな数ばかり出していた。友達が六でたー、とかはしゃいでる横で私は一や二ばっかり。でも、思った。あのツブツブでグチャグチャな六なんて気持ち悪い。一はくりっとしていて、しかも赤色で、可愛い。私はサイコロの一が好きだった。六なんて嫌いだった。
今、私の前には『6』とマジックで書かれた面を上にして鉛筆が転がっている。
なんで、こんな時に限って……。
私はミカを見る。
ニヤニヤしながら、
「はい、文芸サークルに決定っと」
と鉛筆をしまおうと手を伸ばしている。
私はその手を掴み、
「待って! 待って! もう一回! もう一回やり直し」
と懇願した。
「何回やったって、いや、どこのサークルだって同じだって。とりあえず入ってみて気に入らなかったらやめたらいいじゃん」
ミカはそう言って、私の手を振り払って鉛筆をしまった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
私の悲鳴は他に誰もいなくなった教室にむなしく響いた。
文芸サークルと一口に言っても、我が大学にはそれっぽいサークルが沢山あった。とりあえず案内板に張られたサークル仲間募集のポスターには四つあった。
「どれにしよっか?」
どこも同じように見えるが、できればイイオトコがいてくれないと困る。ここは女の勘ってやつの出番ですかー?
「できれば女の子が他にもいたほうが安心だよね。部室一個一個回って様子見るか」
ミカはいつだって冷静な判断を下す。私はミカに一生付いていきます! と密かに誓っていた。
「よし、いってみよー」
一個目。
扉を開けたとたん、男達がこっちを見る。
ひぃー。今まで接したことがないような、暗そうな男が三人。
駄目、パス。
「間違いましたー」
二個目。
扉にはカギがかかっていた。パス。
三個目。
お、女じゃぁー。ぐへへへ。いや、趣旨違うし。
とりあえず女の子が一人、男が二人いた。一個目に比べたら男の方もましな方かな? 感覚麻痺してきたか?
ミカと目を合わせ、お互い頷きあう。
「すいません、入部? っていうのかな? 希望なんですけど」
女の子がニッコリ笑って、
「あ、はい。今、部長いないんで、もうちょっと待って頂けますか? すぐ来るはずですから」
と、私たちを部屋の中に促す。壁際にはでっかい本棚があって、難しそうな本とたぶんこのサークルが出して来たであろう、薄い本がずらーっと並んでいた。
中心にある正方形のテーブルの周囲には椅子が六個。女の子は何か書いていたらしく、男二人はもうこっちには興味がなくなったのか、それまで読んでいた本に目を移していた。
「私は原しずって言います。文学部の三回生。よろしく」
おぉう。先輩だ。
「えっと私は薬学部の2回生の法月トモミ、トモミって呼んで下さい。こっちは」
私はミカの方を指さす。
「私も薬学部2回生で、押尾ミカ。よろしくお願いします」
「よかった。女の子が増えてくれたら私も嬉しいわ」
原先輩は、一個上なだけなのに、やけに大人っぽい人だった。綺麗だし。なんか優しそうだし。とりあえず一安心だな。
「そこの男の子二人は、愛田君と飯野君」
「よろしく」
「よろしく」
原先輩に促されて、無愛想な挨拶をする二人組。
かぁー、駄目だ。もうこいつらアウトオブ眼中決定。
はぁ、他に部員がいなかったら、ここハズレだったなぁ。
そういえば部長がまだいるか。最後の希望。部長さんやーい。早く来ておくれー。
「暇だったら好きなの読んでいて」
と、原先輩が本棚があるほうを手で指し示すが、はっきりいってどれが何の本なのかさっぱり。うがー、わけわかんねー。とりあえず、薄い本を手に取った。
「あ、それ去年のサークル誌。私が書いた話もあるから読んでみて」
と、原先輩。うーん、そういうのって恥ずかしくないのかな? 自分から読んでみてって自信がなかったら言えないよね。
目次で原先輩の名前を探して、そのページをめくってみる。
ミカが隣から覗き込んできた。
んー。今までまともに本読んだことないから上手いのかどうなのかすら分からない。でも出だしの話だけだと、ちょっと面白いかも。
私は先輩の顔をうかがう。何かを一生懸命書いている。
やっぱ私は場違いなんじゃないだろうか? めちゃくちゃ不安なんだけど……。
うーん。やっぱやめよっかなぁ。とか思っていると、背後にある扉が開く音がした。
お、部長登場かぁ? まってましたー!
勢いよく振り返る私。
「あ」
「あ」
その人物と同時に声が出る。
「トモミさん?」
「サキさん……」
いやー。
展開急ぎすぎて、予定の文字数大幅超え。
しかもぜんっぜんコメディーじゃない。
俺にはコメディーの才能ないのかー!
笑いの神よ、降臨カモン!!
いや次から面白くなるよ、たぶん。