慣れてきた異世界生活①
『今日は何をするんだい?』
「午前中は工事現場で肉体労働だな。んで、午後から魔物狩りだ」
俺たちが異世界に転移してきてから、1ヵ月と少しが経った。
魂だけとなったシオンも、謎の少女に言われていた通り、あれから数日で無事に意識を取り戻し、脳内で俺にだけ聞こえる声で話しかけてくる、という若干ホラー染みた存在になったが、とりあえずは一安心だ。
それから、俺たちは西にあると言われていた街へと無事に到達したものの、そもそも到着に1週間を費やしたのは計算外だったな。
それまでは魚やら野生動物やらをとっ捕まえて食料にし、夜は安全そうな場所で野宿をする、という完全に野生児の生活を送っていたわけだが。
街に着いてから、色々な人の力を借りて生活基盤を作り上げ、今となってはそれなりの宿に身を置きながら、日雇いで様々な仕事をこなしている。
少しずつ貯蓄もできているので、まずは順風満帆といったところか。
っとと、このままのんびりしすぎると遅刻しちまうな。
宿の部屋を出て、施錠をしてから食堂で朝食を摂り、鍵を預けて仕事に出掛ける。
ここ数週間で繰り返している、ルーチンワークだ。
「今日は外壁の補修だ! 街を守るための大事なものだから、遅延は許されねえ! 理解できたか、野郎共!!」
時間通りに現場に行くと、現場監督が大声を張り上げて注意事項を述べていた。
いつも通りの親方だな。
そんな彼に応えるようにして、俺たち作業員は大声で返事を返す。
最初の頃は土木作業の現場なんて、もっと士気が低そうに思ってたけど、親方の率いる工事班は皆の士気が異様に高い。
最初こそ、俺はそれが不思議でならなかったが、今となってはそれが理解できる。
親方が言う事は厳しいし、作業員に求めるものも多い。
けど、口調に似合わず気配りができる人で、さりげなく周りをフォローしつつも、適度に休憩を挟んだり、時には作業員全員に飯を奢ったりする、いい人なのだ。
単純に、人望があるタイプの人だな。
「カイト! 今日も励んでいるようだな! 調子はどうだ!?」
外壁補修用の石材を肩に担いで運んでいると、親方から声をかけられた。
街に来た当初、仕事を探していた俺を見つけて最初に声をかけてくれたのだ。
今いる宿も親方の紹介なので、しばらくは頭が上がりそうにないな、と思いつつも、俺は空いている方の腕で力こぶを作って見せる。
「バッチリっすよ! 任せて下さい!」
「いい返事だ! 怪我をしないようにな!」
親方は俺だけに声をかけるわけじゃない。
現場監督として、作業の進捗等を確認しつつも、道行く作業員には声をかけて、細かく状況や作業員の様子を気にかけているのだ。
それでいて、自分も作業に参加してバリバリ働いているのだから、自然と頭が下がってしまう。
「よし! 本日の作業はここまでだ! 貴様らの活躍により、この外壁は従来の機能を取り戻した! では、明日の作業にも遅れるなよ!」
予定通り、昼の少し前には外壁の補修が終了し、解散となる。
俺はそのまま街の外へ出て、魔物を狩りに向かう。
昼飯は狩った魔物の肉だ。
『今日のターゲットは?』
街の外に出て、人目が無くなった辺りでシオンが話しかけてきた。
どうも、シオンは視覚や聴覚を俺と共有しているらしく、意識を取り戻して最初の頃はあれこれと話しかけてきたのだが、いかんせんその声は俺にしか聞こえない関係上、会話をしていると一生独り言を喋ってるやべー奴になってしまうので、人のいる場所では緊急時を除いて話さない事にしたのだ。
よくある念話みたいな意思疎通ができればいいのだが、生憎とそういう才能は俺には無かったらしい。
「刃角鹿だな。1匹狩れれば腹も満たせて報酬もいい」
今日のメインターゲットである刃角鹿は、名前の通り角が湾曲した刃となっている鹿だ。
その特性上、突進ですれ違いざまに外敵を斬り裂く。
強い個体だと自ら頭を振って、あたかも剣術を使っているが如く戦う。
かなり強い部類の魔物だが、それだけに角が有用な素材となる。
武器としてはもちろん、薬などにも使えるそうな。
大きさは割と小さめで、成体でも体高は子供くらいの大きさだ。
だが、その分俊敏なので、狩るには相応の実力がいる。
『なら、山の方だね』
「だな」
刃角鹿を探して、生息地である山の中に入っていく。
街の近くでそれほど大きくない山だが、刃角鹿を初めとした魔物が何種類か分布している。
運が悪いとターゲットが見つけられず、昼飯を食いっぱぐれる事になってしまうのだが、今回に限ってはそうならずに済んだ。
山に入って10分程度で、ターゲットである刃角鹿を発見し、俺は近くの物陰に一旦身を隠す。
『大きさからして、成体だろう。1匹でいるのは珍しいね』
シオンの言う通り、刃角鹿は鹿らしく、少数ながら群れを組む。
小規模なのは、恐らく数が多すぎると角によって同士討ちになってしまうからだろう。
その多くは番を中心とし、その子を中心にを群れを組むのだが、あの刃角鹿が単独でいる所を見るに、どこかの群れから卒業し、番となる相手を探している個体だろうか。
ともあれ、こうして単独でのこのこと俺の現れてくれたのだ。
これを狩らない手は無い。
「装鎧」
あの日、遺骸核なるものを手に入れてからの能力。
シオンが間借りしているはずでも、変わらず扱う事ができた。
装鎧を纏った後は大幅に身体能力が上がるし、こうした魔物狩りにはとても便利なので、慣れる意味も込めて色々と試しているのだ。
装鎧によって強化された身体能力で、いとも簡単に刃角鹿の懐に入りこめたので、俺は手刀を振るう。
刃角鹿は俺を認識する事無く、頭と胴体が泣き別れして絶命。
これでミッションコンプリートである。
「うん、美味い」
手頃な場所まで刃角鹿の死体を運んでから、焚火を作って適当な大きさに切った刃角鹿の肉を焼きつつ、持ち帰る素材である角を剥ぎ取っていく。
作業をしながら、焼き上がった順に肉を食う。
今の所、魔物の肉に外れが無く、血抜きが不十分でも美味いので、俺のような素人でも何とかやっていけている。
こうして野外で食事を摂れば、食事代も浮く。
もう少し余裕ができたら、持ち運びの調味料なんかも準備したい所だな。
そんな事を考えながら、俺は刃角鹿の肉をむさぼるのだった。




