いざ異世界へ⑦
「……疲れたな」
謎の少女が消えてしまったのもあり、全身にかかる疲労感に耐え切れず、俺はそのまま地べたに腰を下ろす。
色々な事がありすぎたな。
そんな中でも、肉体は失ったとはいえシオンが生き残ったのは、まずもって幸運と言っていいだろう。
脳内の情報を纏めていると、そういえば魂はネックレスに移ったとして、肉体はどうなった?
という疑問が湧き上がり、俺は腰を下ろした状態ながらも元々シオンが横たわっていた場所に身体の向きを変える。
すると、そこにあったはずのシオンの肉体は、綺麗さっぱりと消滅してしまっており、着ていたはずの衣服だけが残されていたのだ。
俺に細かい理屈の話はわからないが、今ある状況証拠で考えるのなら、魂を失った肉体は消滅する、と考えて良さそうか。
「しかし、とんだ1日だった」
日本から異世界に来る、と決心して来たまでは良かった。
しかし、いざ異世界に来てみれば、到着した先は無人の平原で、付近に人の気配は無い。
ならばと直感に従って移動してみれば、キモイ魚人間に襲われてシオンともども死にかけるし、終いにゃ正体不明の謎の少女の登場。
彼女のおかげでシオンは文字通り九死に一生を得たわけだが、あまりの不運に自分を呪いたくなる。
「……相当に強そうだったな」
謎の少女からは、明確な敵意を向けられたわけでもなく、直接衝突したわけでもない。
けど、あの不思議な鎧を纏っていた時でさえ、敵対しようとは思わなかった。
少なくとも、その時の俺には勝てる相手じゃないと感じたし、実際にそれは間違い無いだろう。
過去にも幾度となく、自らの命に係わる事に関してだけはやたらと直感が働くのだ。
つまりあの時、俺が問答無用で謎の少女に先制攻撃を仕掛けていたとしたなら、きっと今頃はシオンと仲良くこの場で死体として転がっていた事だろう。
「正体はよくわからねえ。が、全く話が通じない相手、というわけでもなかった」
姿を消した、謎の少女について思いを馳せる。
恐らくはかなり長いであろう、艶やかな黒髪を髪留めで纏めたその立ち姿は、女子にしては少しばかり長身と言えた。
体感だと、170センチちょいってとこだろう。
僅かにあどけなさが残っていつつも、顔は恐ろしく整っていて、美人系の顔立ち。
声はアルトくらいの、普通より少し低めのもの。
身体つきはもう、とても女性らしかった。
動きやすさ重視のパンツとシャツの服装だったが、その恰好からも半端でない色香が発せられていたな。
あの時はそんな事を言っていられる状況じゃあなかったが。
何というか、薄い本に出てくる色気たっぷりの女の子、といった感じ。
「やべ……こんなトコで、寝るワケには……」
自分で思っていた以上に身体は疲れていたのだろう。
自らの意思に反して、瞼が落ちてきて、意識が混濁してくる。
まだ安全が確保できたかも定かじゃないのに……。
…
……
………
「……ハッ!?」
果たして、どれいくらい眠りこけていたのだろうか。
殆ど気絶するように意識を手放してしまったが、幸いな事に五体満足であり、何かに襲われたりした形跡は無い。
首にかけていたネックレスも無事だ。
「確か、西に行けば街があるんだったか」
昨日……かどうかはわからないが、謎の少女が西に行けば街があると言っていたから、そこを目指す形になるだろうか。
そこそこ距離あるような事は言ってたが、まあどうにかなるだろう。
最悪、そこらへんで肉なり魚なり調達して自炊はできそうだし。
あとは無事に町に着けたら、金の工面もしないといけないな。
他にもやる事は盛り沢山だが、まずは寝泊りする環境を作らないと。
「なんやかんやしてるうちに、シオンも意識を取り戻すだろうし……やるかー!」
ものすごく最初っから躓いてしまったが、俺たちの異世界移住は始まったばかりだ。
もしかしたら、そのうちシオンの肉体を取り戻す方法も見つかるかもしれない。
謎の少女がシオンの魂をネックレスへ移す際に使っていたのは、恐らく魔法とかそういう類のものに思えたし、それっぽい詠唱のような事をしていた。
であれば、まだ希望もある。
そんな希望を胸に、俺は謎の建物を後にするのだった。
今回は少し短いですが、これで序章は終了です。
次回から、本格的に異世界生活が始まります。




