いざ異世界へ⑤
脳内に、イメージが流れ込む。
輝く金属塊を俺が掴み、それを頭上に掲げると、視界が光で見えなくなる。
まるで、某特撮作品の変身シーンのようだ。
そこから先は、自分で何とかしろ、って事か。
このイメージが、未来の俺を示しているのか、俺の現実逃避が生み出した産物なのかはわからないが、少しでも可能性があるのなら、俺はそれに賭けよう。
「来い!」
いつの間にか、身体が動く。
輝く金属塊は、まるで引き寄せられるように、俺の右手の中に納まった。
先ほどのイメージに従って、俺はそれを頭上に掲げる。
すると、自然と脳内に言葉が浮かび上がったので、迷わずそれを口に出す。
「装鎧ッ!」
俺の言葉がトリガーになった……かどうかは定かではないが、眩い光で視界が奪われていく。
しかし、それは目を灼くような強烈なものではなく、包み込むような優しい光……のような気がする。
どのくらいの時が経ったかは定かじゃない。
だが、視界が戻った時には、目の前に広がる世界が違って見えた。
「装鎧、ね。言い得て妙だな」
うっすらと色の付いたガラスのような何かを通して見える視界で、自分の身体や手足を見てみれば、見事な鎧に包まれている。
多分、頭もしっかりとした兜に覆われているのだろう。
貫かれたはずの胸部も、今は痛みを感じない。
『貴様……なぜその遺骸核を使える!? 我々の技術を以ってしても、動力エネルギーを引き出す事が精一杯な代物だぞ!?』
眼前で、魚野郎が困惑している。
直前まで喰らおうとしていたシオンの身体は、未だ掴んだままだが、完全に注意がこっちに向いていた。
「難しい事は知らねえ。何せ俺は、頭が悪いッ!!」
全力で魚野郎に向かって踏み込み、シオンを掴む腕に向かって手刀を叩き込む。
『うがあああああああっ!? お、オレの腕が!?』
邪魔な腕を叩き落す程度のつもりだったが、俺の手刀は魚野郎の腕をスパッと斬り落としてしまう。
緑色の血が噴き出すが、俺はお構い無しに魚野郎を蹴り飛ばす。
そして、すぐに自由落下するシオンの身体を横抱きにして受け止める。
所謂お姫様抱っこ状態だが、野郎だなんだとかいう問題は一旦置いておこう。
シオンは、ここから助かるのだろうか。
「カイト……君は、本当に、生き汚いね……」
ひゅうひゅうとか細い呼吸をしながらも、細く目を開けたシオンの命は、もう間もなく消えようとしているのが、見ただけでわかってしまう。
いわゆる、死相ってやつだ。
クソ、俺がもっと強ければ。
あんな魚野郎に遅れを取らなければこんな事には……。
「そんな顔を、するものじゃあない……僕は、君がいた、からこそ、楽しく、生きられた……」
「シオン! 死ぬな! 一緒に異世界を旅するんだろう!?」
「大好きだよ……僕の、一番の、相棒……」
がくり、と糸の切れた人形のように、シオンの身体から力が抜ける。
俺は、シオンを、相棒を、助け、られなかった……。
「うあああああああああああっ!!」
言葉にならない激情を、叫ぶ事で外に発散していく。
そうしないと、俺は俺でいられそうにない。
シオンのいない世界なんて、何の価値も無いじゃないか。
『クソ……こんなはずでは……オレは、この世界の侵略先遣隊の一番乗りとして、栄華を極めるはずだったんだ……』
身体を痛めたのか、緩慢な動きで逃げ出そうとする魚野郎が視界に映り、俺の思考は真っ赤な殺意に塗り潰された。
コイツが。
コイツにさえ出会わなければ。
いや、コイツさえいなければ!
「お前さえいなければ!」
勢いと感情に任せて、魚野郎の顔面を殴り飛ばす。
出口へ向かって逃げ出そうとしていた魚野郎は、吐血しながら壁にめり込んだ。
まだだ。
シオンの痛みや苦しみは、こんなものじゃない。
「お前が、シオンを殺した!」
壁にめり込んだ魚野郎を、滅多打ちに殴りまくる。
ヤツは情けなくも命乞いの言葉を並べているが、聞く価値も無ければ理解する必要も無い。
とめどない感情が、爆発しそうなエネルギーとなって、胸部に集まっている気がする。
最後に全力の右ストレートを叩き込み、魚野郎を念入りに壁へと縫い付け、俺は後ろに跳ぶ。
足を肩幅くらいに開き、腰を落とす。
すると、カシャカシャと胸元から変形する音が聞こえた。
もしかして、この鎧は俺の願いに応えているのか?
なら、あの魚野郎を跡形も無く消してくれ。
もう、視界にも入れたくない。
「消し飛べ……魚野郎!」
ちょうど、心臓のある位置くらいから、猛烈なエネルギーの奔流が解き放たれる。
細かい原理や現象はよくわからんが、とりあえず、俺の胸元から強烈なビームが照射された、という結果だけが理解できた。
「……ハハハ、跡形も無えな! ざまあみやがれ!」
俺が放った強烈なビームは、魚野郎を飲み込み、背後の壁ごとヤツを完全に消滅させたが、仇を討ったはずなのに、俺の気持ちは晴れない。
原因は、知っている。
シオンが、死んだからだ。
「シオン……なんでお前が死ななきゃならねえんだよ……」
動かなくなったシオンの元へ行き、その亡骸に縋りつく。
こうした所で、帰ってくるはずも無いというのに。
今までロクに泣いた記憶なんぞ無かったが、今この瞬間だけは、涙がが溢れて止まらない。
こんなに早く、シオンと死別する事になろうとは、誰が予測できようか。
そりゃあ病気だなんだでどちらかが早死にする可能性は全然あったが、こういうのは全然違うだろうと思う。
戦闘の役割を終えたからか、いつの間にか纏っていた鎧は消え去っており、生身で触れたシオンの身体からは、確実に暖かさが失われていた。
まだ完全に熱は失っていないが、それも時間の問題か。
「……ヤツらが、いない?」
不意に、声がした。
この場にいるはずの無い、第三者の声。
まだ年若い女、だろうか。
またしても、先ほどの魚野郎のような怪物でも湧いたかと思い、俺は即座に蹲っていた身体を叱咤するように起こし、声の元へと向き直る。
すると、視線の先にいたのは、黒髪の女性。
年の頃は、俺とそれほど大きくは変わらなさそうに見えるが、雰囲気が普通のそれじゃない。
どこか、歴戦の猛者のような雰囲気を感じ取れる。
仮に敵だと仮定した場合、先ほどの鎧を纏っても、ほぼ間違い無く俺は負けるだろう。
それくらいに、ヤバい相手だ。
一難去ってまた一難。
カイトたちはこれからどうなってしまうのか。




