いざ異世界へ③
「……どうにか飯は得られたな」
大鹿に逃げられた後、汗を流そうと川に入ったら、大きな魚がいるのを発見したので、川原の石と落ちていた枝で即席の銛を作り、見事一突きにした。
それを捌いて焚火で焼き、とりあえず食事を得る事には成功したのだが、食べ盛りの高校生2人が魚1匹を半分ずつで足りるはずもなく。
どこか物足りなさを感じつつも、とりあえず今日は飢える心配が無くなった事に安堵の息が漏れる。
ちなみに、味は淡泊でさっぱりしてたので問題無く食えた。
強いて言うのなら、塩などの味付けが欲しかったという所か。
「とりあえず、また進むとしよう」
食休みも終え、俺とシオンは再び歩いて移動を開始。
俺の直感の赴くままに、ただひたすら歩いて移動していく。
特に会話も無く、無言での移動だったが、俺たちにとってそれは苦痛な時間ではない。
というか、そもそもシオンは元より無駄口をあまり叩かないのだ。
自分の興味のある事には恐ろしく饒舌になるが、興味の無い事に関してはかなりドライである。
俺はどちらかと言うと、無駄口を叩いている方が性に合っているのだが、話す気の無いシオンに声をかけても会話が続かないのは、長年の付き合いでわかりきっているので、無駄な努力はしない。
時折、シオンがこの異世界についての考察なんかを口にするが、俺にとっては小難しい話や専門用語はちんぷんかんぷんだ。
よって、会話は続かない。
けど、本人は喋る事で思考を整理している側面もあるらしく、俺が生返事を返していても、勝手に納得して、勝手に思考の海に潜る事がままある。
要するに、お互いが変な気を遣わずにやりたいようにやっているのだ。
「……何か見えてきたな」
「そうだね。何かの建造物のようだけど……僕の知る知識では、ピラミッドが一番近いだろうか」
日も暮れかけ、夕焼けが地平線に隠れそうになった頃合いで、俺たちは謎の建造物を発見した。
シオンの言うように、形状はピラミッドが一番近い。
とはいっても、石を積んだわけではなく、まるで1つの巨大な岩から削り出されたかのような、光沢のある四角錘型だが。
ともあれ、雨風を凌げそうな場所が見つかったのはありがたいところ。
「ま、どのみち野宿は避けられねえ。だったら、手伝いでも何でもして、屋根のある場所で寝た方がマシってもんだ」
ちょうど、人間が使うくらいのサイズの入口があるのが見える。
中に生物がいるかどうかは不明だが、危険かどうかは入ってみなければわからない。
入ってみて危険そうなら、すぐに引き返せばいいだけだ。
そんなわけで、俺は扉の無い入口を潜る。
「たのもー!」
大声を上げて、建造物の内部に入り込む。
中は照明があるわけでもないのに、うっすらと明るい。
まるで壁そのものが発光しているようだ。
「随分と真新しいように見えるけれど……」
外観からしても、建造物の見た目は綺麗なものだった。
壁も傷や汚れなどない、全くの新築といった様相である。
しかし、うちの相棒はそれが気にかかるようで。
壁を触ったりしながら、ぶつぶつと独り言を呟きつつ思考を纏めている。
こうなると、ある程度の回答が出るまでコイツは動かない。
しょうがないので、俺は周辺の警戒をしながらシオンが結論を出すのを待つ。
「おーい、まだ纏まらねえのかー?」
シオンが思考に耽ってから、1時間は過ぎただろうか。
外はすっかり暗くなっており、これから移動をするのは不可能に近い状態になっていた。
元よりここで雨風を凌ぐ予定ではあったのだが、予定ではとっくに落ち着ける場所を見つけて、腰を下ろしているはずだったのに。
ずっと入口で足止めを食らっているわけだが、特に敵対生物などは現れておらず、むしろ生物の気配を感じないまである。
俺たちがいる場所が絶妙な緩衝地帯なのか、はたまた何かヤベー存在が潜む場所だから、他の生物が寄り付かないのかまではわからない。
「……カイト、君は何かを感じるかい? 特に殺意や悪意には敏感だと思うけれど」
ようやく口を開いたかと思えば、シオンの口から出たのはよくわからない問い掛けだった。
的を得ない感じはするが、俺には理解できずとも、シオンなりに無駄な質問はしないはずだ。
であれば、俺が答える事に何かしら意味があるのだろう。
「行こう。危険を感じたら僕を止めてくれ」
「はいよ」
結論が見えた、というよりは、曖昧に仮定を組んだ、といった所なんだろうな。
完全に回答を得ていたら、嬉々としてワケわからん専門用語やら、難解な言い回しで勝手に説明を始める。
シオンはそういうヤツだ。
奥に向かうのは、組んだ仮定の回答を得たいからだろう。
「やたらと入り組んではいるが、1本道だな」
右に左に蛇行した通路が続くものの、分かれ道は無い。
あまりにもくねくねと動き回るもんだから、方向感覚が滅茶苦茶だ。
だが、帰りは真っ直ぐ引き返すだけでいいのだから、道を覚える必要も無いわけで。
奥に進むと決めてから、30分程度が経った頃だろうか。
俺たちは、最奥部と思われる部屋に辿り着いていた。
「あれは……何だろう?」
それほど広い部屋ではないが、部屋の中心部に、床から天井まであるガラス管のようなものがあり、その中には謎の金属塊が漂っている。
金属塊は白く発光しており、その光が天井と床に吸い取られているように見えた。
まるで、動力源のような……。
どことなく、金属塊に惹かれるような感覚を覚え、俺はフラフラと誘蛾灯に集まる虫のように近寄っていく。
ガラス管越しに、金属塊に触れようと、無造作に手を伸ばす。
「カイト! 何をしているんだい!?」
もう少しでガラス管に触れそう、というタイミングで、シオンに伸ばした右手を止められ、半ば夢遊病のようになっていた意識が急に覚醒する。
俺、無意識のうちにあの金属塊に触れようとしてたな?
「俺は……あの金属に惹かれたような気がして……」
少しばかり靄のかかった思考を振り払うように、大きく頭を振る。
それで思考が冴えたような気がして、俺はとある事に気付く。
何か、巨大な悪意が近付いてきていると。
「何か来る。相当にやべーヤツだ」
とはいえ、この部屋に至るまでは1本道。
特に隠れる場所も無い。
普通に考えて、逃げ場など存在しないわけで。
どうしよう、とシオンと顔を見合わせれば、頼れるはずの相棒は肩を竦める。
超天才の頭脳を以ってしても、この状況の打開は不可能、という事だ。
鬼が出るか蛇が出るか。
どちらでもいいが、人の身で抗える存在でありますように、と祈らずにはいられないのだった。




