魔術学院に向かって①
「時間通りだな」
買い物と荷造りをした翌日。
俺はユイの指定した街の出入口に向かった。
そこには準備万端とばかりにユイが待ち構えていたのだが、女性にしては長身で、見た目も目立つのですぐにわかってしまう。
相変わらず、学生服っぽい恰好に背中には太刀、腰には刀と小太刀という様相だ。
「では、行くとしようか」
「土地勘はサッパリだから、案内は任せた」
覚えようと思えば地図も読めるし、地形も覚えられはするのだが、自分でやる必要が無いというのなら、そこまでやらなくてもいいと思うので、俺はとりあえず必要に迫られるまではユイに丸投げしておこうと思う。
人それを面倒だからという。
「うむ、大船に乗ったつもりでいるといい。私と共にいる限り、竜種のようなとんでもないものに襲われる以外は絶対に安全だ」
うーん、このフラグ臭漂う発言よ。
これってこの先どっかで竜種とかいう、とんでもねーやつに当たる前触れじゃん。
まあ、何かあったとしても、邪魔するヤツは乗り越えるなり逃げるなりしてどうにかするけどな。
「時にカイト。君の実力のほどを知りたいと思うのだが」
歩いて次の町に向かうというユイの案内に従い、テクテクと街道を歩いていると、興味本位だろう。
ユイから実力を知りたいという話が出てきた。
まあ、いかにも武の人間、って感じの口調だし、不思議ではないか。
とはいえ、俺は女を殴る趣味は無いんだよな。
「盗賊討伐を見ただろ。あんなモンだよ」
とりあえず、はぐらかす事にした。
とはいえ、あの時も本気を出していたわけではないのだが。
「あんな盗賊ごときに負けるような君ではないだろう。君の実力はあの程度で測れるほど温くない。謙遜も行き過ぎればただの嫌味だぞ?」
彼女のこの絡み方を見るに、どうにかして俺の実力を見たい、って感じだな。
とはいえ、本当に女と殴り合うような趣味は無い。
どう諦めてもらうかね。
「俺の事買い被りすぎだっつーの。そもそも、女を殴る趣味はねーんだ。別に女だから弱いと侮るわけじゃないが、うっかり熱が入って傷付けちまうのも嫌なんだよ。あまり手加減は得意じゃねーし」
死なない程度の加減はできるが、それは怪我をさせないとイコールではないのだ。
あくまで殺さないだけで、骨折やらヒビくらいまでは覚悟してもらわないといけないわけで。
これですかしたイケメンとかが相手なら、喜んで顔面歪ませてやるけどな。
「……ほう。私相手に手加減と言うか。よほど自信があると見えるな。ならば抜け。抜かぬなら斬る!」
別に侮ってるわけじゃない、と言い含めたはずなのに、ユイは瞬く間に刀を抜き、俺へと切っ先を向けた。
戦意を越えて殺気がギンギンである。
随分と短気だなー。
「短気は損気って言うぜ?」
「あくまでその態度を貫くのなら、抜かせるまでだ!」
俺に向けた刀の切っ先が、そのまま踏み込みと共に突き出される。
避けなければ、そのまま顔面に突き刺さる軌道だ。
「おいおい、殺す気かよ?」
「君があくまで応じぬというのなら、そうなるだろうな!」
俺が首を傾けて顔面向けて突き出された切っ先を躱すと、下に向いていた刃を急に俺の方へ向け、そのまま首狩りの横薙ぎへと変化。
さすがに無理やり軌道を変えているから首を落とすほどの威力は無いだろうが、首の頸動脈をやられたら普通に危ないので、今度は腰を落として横薙ぎを躱す。
腰を落としながらユイの行動を見ていれば、彼女の空いていた左手が右腰の小太刀にかかっている。
ここから繰り出されるのは……。
「っとに危ねえな! 遠慮無く殺そうとしやがって!」
ユイの行動が読めたと同時に、俺は両足のバネを全開にして後ろに跳ぶ。
俺の身体が空中に浮いた瞬間、キィン、と澄んだ金属の音が鳴る。
完全な体勢でもないのに、左手と体の使い方だけで抜刀術を使いやがった。
あの速さと鋭さ、喰らってたら間違いなく胴体の半分以上斬られてたな。
リーチのある刀の方だったら、棒立ちだと上下に身体が泣き別れするところだ。
「む……今の動き、抜刀術を知っているな?」
小太刀での一撃とはいえ、俺が抜刀術を躱すと思ってなかったのか、ユイは一度動きを止めた。
その表情には、驚きが色濃く浮かんでいる。
「ま、知らないワケじゃねーな。できるわけでもねーけど」
念のため、いつユイが動き出してもいいように警戒しつつ、軽口を叩きながら肩を竦めると、ユイはゆっくりと得物を鞘に納めた。
唐突な幕引きのような気もするが、もしかすると、何かしら彼女の中で掴むものがあったのかもしれない。
「どうした? 来ないのか?」
あまりにも急に大人しくなったもんだから、思わず挑発してしまう。
しかし、ユイは無言で首を横に振る。
「いや、今のやり取りで君の実力の一端は理解した。少なくとも、本気で殺し合いにでもならなければ、君に剣を抜かせるのは無理そうだ」
「いや、俺どっちかってーと素手の方が得意なんだって」
あまりにもアッサリと諦めたので、思わず真面目にツッコんでしまう。
「そうか。そうだったな。いや、失礼した。君の実力を知りたいがあまり、無茶をしたな。この通りだ。すまなかった」
終いには、深々と頭を下げる始末である。
この子の情緒どうなってんの?
「仮に俺が避けられなかったらどうするつもりだったんだ?」
「何故だろうな。君には全力で振っても当たらないような気がしていた。事実、先ほどまでの攻撃は全てを全力でやったが、全て躱されたぞ」
うーん、何という野生の勘。
いや、俺も人の事は言えねーけどさあ。
まあ、諦めてくれたみたいだし、とりあえずは良しという事にしておくか。
「一応お眼鏡には適った、って事でいいのか?」
もう攻撃してこない?
と言外に問い掛けてみれば、もうやらんと即答されたので、俺も警戒を解く。
やれやれ、何で急に命狙われにゃならんのだ。
まあ、全く刺激の無い毎日よかマシだけどさ。
「重ね重ねすまない。だが、もし君さえ良ければ、道中で私の鍛錬に付き合ってはくれまいか?」
要するに、強くなりたいから訓練に付き合え、と。
まあ、そういう意味なら俺も得られるものがある可能性もあるし、我流で覚えた剣の動きに何かしら流用できる可能性もあるか。
そういう意味では自分の力量を上げるためにユイを利用するのも悪くない。
「ま、怪我しない程度にな」
結局、俺は道中で彼女と手合わせの鍛錬を行う事を了承するのだった。
刀の使い手として見れば、彼女の実力は相当なものだろう。
そんな相手から得られるものはきっとあるはず。
最初にあんな殺気ダダ漏れの状態じゃくて、今みたいに訓練に付き合えって言ってくれたら、俺も素直に頷いたかもしれないのに。
そんな事を考えながら、街道を進んでいくのだった。
なお、余談だが俺たちの大立ち回りを目撃した人はいなかった。




